火炎と雷
登場神が一人増えます。
ある日のこと。
いつもと同じように、ヴォルティアは、ガドウォルドの路地を歩いていた。
あちこちに酒瓶が転がっている。
ヴォルティアは今日、とある神に会うことになっている。
名をイグニセイアと言った。
イグニセイアは、ガドウォルド有数の金持ちで、炎と金の神であった。
イグニセイアは、強かったが、一度も戦争に参加したことがなかった。
ヴォルティアは、イグニセイアを、ガドウォルド軍の戦力とするために、イグニセイアの居へと向かっているのだ。
ヴォルティアは、歩きながら、別なことを考え始めた。
実は今彼は、親と(いつも以上に)仲が悪い。
ファラライズはうざい奴だなーとか、そういったことを考えていた。
ヴォルティアのほうが明らかに強かった。それはファラライズも認めていた。でも、ファラライズのほうが、権力はずっと上だから、ヴォルティアのほうが総合的には、弱かった。
ついにイグニセイアの家に着いた。
イグニセイアの居は、”炎の都”と呼ばれる都市にある。
そこは、夜でも松明やろうそくがあり、たき火をする人がいる。
いつでも明るく熱い街、ということである。
イグニセイアの家は、大したものではない。
ガドウォルド有数の金持ちでありながら、決して飾ってはいない。
ヴォルティアがノックしたら出てきたが、別に荘厳な衣装をまとっているわけではなかった。
しかし、性格はどうかというと、高慢で、自意識過剰であった。
イグニセイアは、昔、フメンウォルド(=地球)における、”太平洋戦争”という戦争で、アメリカとかいう国の軍に交ざったことがある。
それがばれて、レジアスに追放されてしまったのだ。
しかし、最近、あらゆる次元との戦いが迫っている。
前、ストラウォルドとグリンウォルドが戦争した。
ならいずれは、ガドウォルドも、どこかと戦争することになる。
だからこそ、レジアスはイグニセイアを引き戻したいのだ。
イグニセイアは、ヴォルティアに、武勇伝を延々と聞かせた。
ヴォルティアとしては、早く本題に入りたかったし、しかも出された酒や茶がまずいので、早く帰りたかった。
しかし、図らずもイグニセイアはヴォルティアよりも権力があった。
ヴォルティアは、目上の神に向かって、「早く本題に入らせろ」とか、「帰りたい」というほど、愚かではない。
イグニセイアの家は、見たことがないものでいっぱいだった。
多分、フメンウォルドのものだろう。イグニセイアは、フメンウォルドが好きだったはずだ。
読者にはわかるはずだが(ヴォルティアにはわからない)、テレビ、ラジオ、パソコン、車、自転車、バイクなどが置いてある。
ヴォルティアは気になってしょうがないので、一通り話してから、謎の機械で黒い液体(=コーヒー)を作っているイグニセイアに訊いた。
「イグニセイア様、こちらにある不可思議なものはなんでしょう?」
イグニセイアは答える。
「ああ、それか? まずそれはテレビ。いろいろな映像を映せるものだ。もちろんここでは映らんが。あれは、なんか電波とかいうものを飛ばしてるから、別次元には飛ばないんだ。で、それがラジオ……」
と、3分ほどしゃべったが、ヴォルティアは、実に熱心に聞いていた。
「……で、ほかにもいろいろ。フメンウォルドは面白い。ここよりはるかに発達している。もちろん、ここにいるものより力は劣るが。でも我々より頭脳は素晴らしい。何かを楽しもうとする心意気もな。ついでに、マシンガンとかもあった。いちいち魔法を放つのではなく、もともと”弾”という固形のものがあって、それを連続で撃つんだ。あれはすごかったよ」
ヴォルティアは、やっと話が終わると、椅子の背もたれにもたれた。
そして、また訊いた。
「イグニセイア様、先ほどの機械と、黒い液体はなんでしょうか?」
イグニセイアは答える。
「液体はコーヒーと呼ばれる飲み物だ。機械は、コーヒーを入れるものだよ」
ヴォルティアは感心した。
「で、何の用なんだ?」
イグニセイアが訊く。やっと本題に入れると、ヴォルティアはまくしたてた。
「いや、イグニセイア様、現在、あらゆる次元で戦争が起こっておりまして。フメンウォルドの者が発見した神々は、もう戦争していませんが、我々もいつか戦争を始めることになると。そこで、レジアス王はあなたを追放なさいましたが、もう一度戦力として呼び戻したいとのことです」
イグニセイアは笑って、
「冗談だろ?」
と訊いた。
「俺はガドウォルドのために戦ったりしない。俺は、フメンウォルドも好きだし、ガドウォルドも他の次元も好きだ。だから、あくまで傍観者でいたいんだ」
ヴォルティアは説得する。
「いや、あなたは素晴らしい戦力です。現在、グロウシャスが失踪しました(この時、イグニセイアは「ウソだろ?」とつぶやいた)し、戦力不足です。あなたの力が必要なのです」
イグニセイアは、
「だから嫌だ。俺は傍観者でいたい。この手で、自分の愛するものを滅ぼすなんて俺にはできない」
ヴォルティアはがんばっている。
「ですが、故郷であるこのガドウォルドが滅んでもよいのですか!」
イグニセイアは怒った。
「だから何度言ったらわかる! 俺は傍観者でいたい! 確かに自分の愛するものが滅ぶのは辛いが、どうせそうなるなら、自分の手で滅ぼそうなどとは思わない! 始まりから終わりを見ていたいのだ! いいか、レジアスに伝えておけ、俺は決してお前らの味方になろうなどとは思わない。俺は誰の味方でもない。単純な傍観者だ! 帰ってくれ!」
ヴォルティアは、炎に巻き上げられて、開いた窓から飛び出した。
「二度と来ないでくれ!」
イグニセイアはそう叫び、窓を閉めた。
ヴォルティアは、仕方なく立ち上がり、歩き始めた。
そして、数メートル歩いたのち、彼は、空高く飛び上がり、宮殿のほうへ飛んで行った。
登場しましたが、大した神ではないです。
今度イグニセイアがどうなるか、お楽しみに。