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オリバーに助けを求める【バカップル】

     

「……ふぁー。結構寝ちゃったみたいね。」


まだ目覚めたばかりのせいで視界がボヤけているから、目を擦っても視界がクリアにならない。霧がかったような視界から見える情報は少ない。


「ん……なんか見覚えのある部屋。ヴィセント家にいた頃使ってた寝室に似てるわねぇ〜」  


これは夢……?

荷台のはずなのに、やけにフカフカで寝心地が良いわぁ〜。

感心していると右横から視線を感じて横に顔を向けると――。 


「やっと起きたね。エラシラ?」


「っ!おっ、オリバー?!」



元夫のオリバーがベッドの右端に腰掛けていた。

私は、いきなり現れた彼の素晴らしいビジュアルのお陰で(?)視界が鮮明になった。


それにしても…………


目覚めにイケメンの顔は目に良いわぁ♡


眠りから目覚めたばかりなせいか、やけにキラキラして見える。植物を見るより目に良さそうねぇ〜。



女ったらしの悪魔じゃ無かったら良かったのに。残念。



「馬車に乗り込んだ時、いつもより後ろに重心がかかっていたから もしかしたら』 と思ったんだ。」


「……乗り込んだ時点でバレていたとは。」 


「流石の僕でも、まさか荷台の中で熟睡してるとは思わなかったけどね。」


「……揺れ具合がちょうど良くて。」


「あぁ、それでオデコが赤いのか。頭打ったみたいだね。見せてみて」


スッ……と距離を詰めてきたかと思えば、両手で優しく顔を包み込み、おでこ辺りをマジマジと見つめるオリーブ色の瞳に危うく引き込まれそうになったわ。



危なかった!この人、天然人タラシだわ!



「うーん……血は出てないみたいだ。」←無自覚


私のおでこを見ていたのはどうやら、出血確認らしい。

それにしたって心臓に悪い。本当にこの人たらしは!……ん?



「甘〜くて良い香り。この匂いってもしかしてシュークリーム?!」



こんなに部屋中スイーツの甘〜い香りが漂っているのに気づかなかったなんて!シュークリームに興奮した私は、ベッドに腰掛けるオリバーの袖をツンと引っ張った。甘えてる様に見えるかもしれないけど、今の私にそんなこと気にしてる余裕なんてない!



だって、お腹すいたから!



「ハハ、目ざといね。君の言うとおりカロン特製のシュークリームだよ。」


私が目の色変えて喜んでいるからオリバーは呆れて笑っている。それでもお腹を空かせた私はどうしてもあのシュークリームが食べたくて仕方ない。


「ねぇ、もし良かったら!!」


《食・べ・た・い!》


シュークリームを指差しながら上目遣いする姿はキャラじゃないことは百も承知。それでも食べたいの!


だって朝からクッキー1枚しか食べてないんだもの!!


 

「フッ、そんなに食べたいの?好きなだけ食べて良いよ」


「本当に?ありがとう!」


スイーツに目を輝かせた私はすぐにでも食べたくて、吸い寄せられるようにテーブルへ向かった。テーブルの上にはシュークリームの他にもチョコレートやクッキーが置いてあってお腹が空いてる私にはまるで楽園。



神様〜カロン様〜ありがとう。大好きです。



「いただきます。ん〜!美味しい!」


カスタードが口の中いっぱいに広がって今日の憂鬱が

チャラ〜にはならないけど、美味しい〜!

多分誰が見ても間抜けな顔してるんだろうな。


今日の中でいちばんの幸せ♡


ベットに腰掛けたまま私の様子を見守っていたオリバーは食い意地張った姿に、吹き出しながらも向かい側のソファーに座った。食べる姿に感心(?)しているのか、じっと〜私の顔を覗き込んでくる。


なんなの?

人の食べかけが食べたくなるとかそういう人?


「これ……食べる?」


「いや、僕は見ているだけでいい。君は好きなだけ食べて」



要らないって。こんなに美味しいのに…。

じゃあ何で私の顔見てたの?食べ過ぎてて引いてたとか?



「それにしても、こんなにシュークリームが好きだったなんて。知らなかったよ。」


テーブルに置いてある小ぶりの花柄が可愛いティーポットを手にして優雅に紅茶を注いだ。


「シュークリームっていうか、スイーツ全般好きなのよ、食べるのも作るのも。」


「昔君に作ってもらったマフィンが美味しかったこと思い出したよ。」


オリバーにマフィン焼いたのなんて4年ぐらい前なのに。そんな昔のこと覚えてたのね。それでも私は目の前のある食べかけの甘いシュークリームのことしか頭にない。『そんなことよりこのシュークリーム美味しい♡』って感じで。


「動かないでね……」


「……?」


彼は徐に立ち上がり、テーブルとソファーの僅かな隙間に入り込んできたかと思えば、顔をゆっくりと近づけてくる。後ろはソファー目の前にはオリバーという逃げられない状況――。


《何でそんなに顔を近づけてくるの!?それとこれは、どういう状況?!》



「なっ、何しようって言うの?!2週間も前に、私達別れたじゃないーー!!」



私の訴えも虚しく近づいてくる顔を前にとっさに両腕を胸元で固めて身を引こうとしたのに背もたれに阻まれて逃げられそうにない。


今の私の顔はまるでトマトみたいに赤いんだろうな…。だって自分でも顔が熱いなって分かるくらいだから。息のかかる距離にまで近づいているのに彼は近づくのを止める気配がない。


伸ばされた手に、ギュッと目を瞑った………!!



「ほら、クリーム付いてたよ。」


「えっ?クリーム?」



目を開けると、オリバーの人差し指にはカスタードが付いていた。



《これのことだったんかいっ!》



指についた甘いカスタードを味わい終わった彼はこちらをじぃっと見つめて満足そうに口角を上げて小首を傾けた。


 

「口の横についてたよ。ッフ。それとも別の事考えてたの?」


「……っ!? ……っ、」



何でも見透かしたような余裕そうな顔!

思わずときめいてしまった自分が悔しいっ!


「っち、違うわ!!」

 

トマトもびっくりの赤っ恥かかされた!!

べっ、別にキスとかそんなことなんて考えてないから……。


「エラシラ、君の耳赤いね。嘘なのが分かりやすい」


「違うったら!」


「君がそう言うんだから、そういうことにしておこう。それで……君は何でヴィセント家の馬車の荷台の中に?」



あっ!そうだった、話たい事あるんだった。


すっかり彼のペースに乗せられていた私は空気を変えるべく『ゴホン』と咳払い。『この話が上手くいかないと、私はあのおじさんの王子に嫁ぐしかなくなる』そう思ったら緊張感が押し寄せた。



「私、隣国の王子からプロポーズされたの。

だから逃げるために馬車の荷台に乗り込んだってわけ。」



どんな反応が返ってくるかと思って顔をチラッと見てみたら、楽しそうじゃない!私は真面目に話しているのに。人の不幸は蜜の味ってか?!



「隣国の王子といえば君と同じぐらいの身長に、

白い衣装を着た40代くらいの王子だったっけ?」


「思い出すために言ってるんだろうけど。

あなたが言うと嫌味にしか聞こえないのよねぇ。」



これを無意識に言ってるのなら本当にタチ悪い。


「そんな、そんな。殿下にそんな嫌味だなんて人聞きの悪い〜」 



やっぱり悪意あるわ。絶対に。

驚いた()だけど、喋り声が棒読みなのよっ!



「実は今日テイリーからその話を聞いてね。

僕よりも再婚が早いなんて聞いた時驚いたよ。ハハハ〜」


その演技っぽい喋り方はどうにかならないの?

棒読みの笑いが胡散臭さをより醸し出してる。


そ・れ・に!

 

「まだ結婚するって決まってないわ!」


彼の話し方だと再婚するの確定してるみたいじゃない!あんな風に言いふらされたら溜まったものじゃない。


「昨日は自ら花の贈呈役を買って出ていたじゃ無いか。

陰から見ていたよ。王子側も何というか…気に入っていた様子だったね。」



アンタあれ見てたんかい!



……それもそうか。ステージ上で花束渡して気絶してたんだもん。見てない方が稀か。


「取り敢えず、おじ王子から逃げてるの。早朝に『結婚してくれ〜』って家に大勢の騎士と宰相を連れて来たんだから!」


「それで、僕は君に何をすれば良いの?」

「絶対に結婚したくないから私に相手を紹介しくれないかしら?」


この際男を紹介してもらえれば王子との再婚を断る口実もできて、相手も出来て一石二鳥な名案。



名案でしょ?!今とっさに思いついたの。



「うーん。それはオススメしないかな。僕と関わりある男は僕と同じ様な人たらしなやつか……」


「か?……」


「君の兄テイリーしかいないからね。他はもう結婚したりしているよ。」



優良物件はすぐに結婚するだろうし納得した。

まぁ、普通はそうよね……。



「それなら!オリバーが王子の滞在する間、私と復縁した演技をしてくれない?おじ王子が国に帰ったら自由にして構わないから」


「それって、僕にメリットある?君はもっと頼む態度を見せてくれないと。」


「元はと言えば貴方が浮気をしていたからこんなことに……!」


「それでも僕が実際に、花束をあげるように勧めたわけでもないから……。おじ王子って言葉気に入ったよ。ハハハ」


ふぅ……落ち着くのよ、エラ。

確かに!彼の言う通り、私に対して『王子に花を渡して来たら?』なんて助言したわけではない。


それでも!元夫ならちょっとでも助けてくれても良いじゃない!

オリバーから断られたら後がない私にはプライドなど存在しない。



もうここは最終手段だわ!



『彼が紅茶を優雅に飲む好きにサッと後ろを向いて目薬で涙を流してる演技』をすることにしよう!様子を伺っていると、優雅に紅茶を飲み出した!これはチャンス。


ッフフフ、馬鹿ね。今の私の前で紅茶を飲むなんて〜。

それではまるで『目薬を差して泣く演技をしてください。』と言っているようなもの。


袖からサッと隠し持っていた目薬を取り出して、素早く後ろを向いて目薬を差して準備完了!



「えーん。えーん。私はこんな目に遭っているんだから……元夫なら助けてくれても良いじゃない!!うぇーん」


「そんな嘘泣き通用しないよ。目薬取り出したの見てたからね」



チッ。なかなか手強い!

ならば、戦略を変えようじゃない!



「そんなこと言ってて、良いのかしら?天性の女ったらしが〜元妻を泣かせたなんて記事出回ったら〜。私が新聞社に行って来てリークするわよ!」



「勝手にしなよ」


「えっ、……いっ、いいの?」



思っても見なかった回答に拍子抜けしてしまった。女性人気落ちちゃうよ?本当にいいの??



「あぁ、でもそうなったら再婚できなくなったって君に損害賠償を――。


「わーかった。分かった。そんな事しないわ。お邪魔しました!」


「あぁ、馬車は用意してあげるよ」


「良いわよ、別に。歩くのたった20分程度だし」



それにお先真っ暗な人生。今後のこと考える時間にするわ。実家以外に行くとこもないし、テンパってここへ来たからお金も持って来てないし。


「それじゃあ、さようなら」


 * * *


「馬車頼めば良かったぁーー!」


結局歩いて帰って来たけど、靴擦れが痛くて今後の事なんてそれどころじゃ無かった。それに考えてみれば、私から離婚したのに、私から再婚させようとするなんて……なんて惨めなの。


家に着いたら着いたで兄に見つからないように部屋に戻るので精一杯……。散々な一日だった。



シクシク。何でこんな事に………。


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