【オリバー視点1】鈍感な男テイリー
「おっ!オリバーよく来たな。」
馬車を降りるなり、やけに上機嫌なテイリーが姿を見せた。
彼は一体何を企んでいるんだろうか?
まぁ、元義兄だった彼からは会う度に『妹との再婚を考えてくれ』と何度も頼まれるから今回もその話だろうけど…。
「それじゃあ、上がってくれ!」
彼の後ろについて歩き出そうとした瞬間……
ふと、上の方からか視線を感じ、顔を上げると三階のテラスに人影が見えた。
「…あれはエラシラ?」
そういえばあそこがエラシラの部屋なんだっけ?
僕の顔を見るなりあんなに慌てて隠れるなんて、不審者にでもなった気分だ。あんな隠れ方して僕にバレてないと思ってるのかな?まぁ、そんな所がエラシラらしいけど。
「どうした?」
一向に付いて来ない僕を、不思議そうに見つめる鈍感男テイリー。彼は妹がこちらを見ていたことに全く気づいてない。
「…ッフ、面白いものが見れただけさ。」
「うちの庭に面白いものなんて無いだろう。本当にお前は変わってるな。」
「ははは、そうかもしれないね」
『変わっているのは僕とテイリー二人ともお互い様』そんなことを考えながら屋敷の中に足を踏み入れると、ふわりと甘いお菓子の香りが漂ってきた。
この香りは……カモミールクッキー?
以前聞いた話によると、妹に嫌われているせいで頼みがある時にしか作ってくれないとテイリーが嘆いていた。彼女がご機嫌取りに作ったに違いない。そんな事考えたら可笑しくてつい声を出して笑ってしまった。
「フッ……」
彼女の戦略に一人で笑う姿を見たテイリーの顔がみるみる怪訝な顔に変わっていく。どうやらは彼の目には、僕が不気味に見えるらしい。
「今日のお前変だぞ。いきなり笑うな、不気味だろ!」
相当怖かったらしく後退りまでしている。僕からしてみれば、鈍感過ぎる君の神経に恐怖すら感じるけどね。
「いやぁ……ごめん。面白い事思い出しちゃって、つい」
* * *
テイリーの書斎に入ってすぐ自分の推理が当たっていると確信した。カモミールティーに、カモミールクッキー……。彼女が先ほどまでここにいた証拠には十分だろう。
片付けに来た侍女の手によってクッキーとティーは素早く撤去された。入れ替わるように紅茶の芳醇な香りが部屋中に包まれた頃、テイリーは改まって咳払いし、淡々と話し出した。
「本当はエラとの再婚を勧めようとしていた。だがそれは辞めることにする。」
「てっきり、その話だと思って来たんだけど。話がないなら帰るよ。」
「いや、いや、いや!帰るな、帰るな!」
「と、言うのは冗談だよ。それで、何があったのかな?」
ソファーから立ち上がり帰ろうとした瞬間……先程の余裕はどこはやら、帰ろうとする僕の腕を掴んだ。
まぁ、エラシラの話なのは分かりきっているけどね。
* * *
「なるほど。彼女は王子に気に入られて、結婚することになったんだ。」
あんな数分のやり取りで結婚を決めるなんて、よほど気に入ったに違いない。彼女にプロポーズするなんて中々面白い王子だ。
「我がエレナーデ家から王族に嫁ぐなんて、とても名誉なことだろう?」
興奮気味に語るテイリーは自分の妹が40近い男に嫁ぐのは構わないらしい。
「えーと……。王子と会ったことある?」
『あの』王子と直接会ってこの縁談を進めようとしていたらそれはそれで問題なんだけどね。
「会った事はない。昨日はちょうど仕事が立て込んで居たから、それどころではなかったんだ。」
つまりは王子の事を何も知らないままテイリーは縁談を進めようとしているのか。まぁ、会ったことあって進めようとしていたら止めようがないからせめて物救いだ。
「それでも、セバスチャンに素性を調べてもらったら、そんなに悪い話も聞かないし、歳は離れているが相手は王子だ!タシータ王国は美形が多いで有名。まさか王子が不細工なんて事はないだろう。美形好きのあいつにはもってこいの縁談じゃないか!」
「うん……なんて言えばいいんだろうね」
王子の見た目が少々『アレ』な事には気付いていないらしい。僕との離婚直後にあの王子に嫁ぐのはエラシラにとってかなりヘビーな展開だろう。彼女が少し不憫に思えてきた。
まぁ、5歳差の僕も21歳差の王子も彼女からしたら煩わしいのは変わらないだろうけど。
「きっとアイツが嫌がっているのは恥ずがってんだろう。そんな経験がないから、可哀想にな」
「………………。」
テイリーはいい奴ではあるんだけどね。少し……いや、結構な頻度で暴走する癖があるから今回も彼女の話は聞いてないと察した。
彼女の事は随分と可愛がっているのを知っているから事情を知ったら考え直すだろうか?
「いくら彼女を再婚させたいからって、気の毒なんじゃ無いか?王子の見た目を見る限りとてもじゃ無いけど美形では無いしね。」
「オリバー、お前まさかここにきてエラに嫉妬しているのか?」
僕が嫉妬して言っている様に見えているなんて……。今までの僕の愚行(自分で言うな)を知っていながら『嫉妬』という言葉が出てくとは暴走しているに違いない。
「それと美形では無いは嘘だ。王子に会った事はないがタシータ王国に訪れた際、美形がゴロゴロいたからな。お前の目が超えすぎているんだ。」
これは……王子に直接会わせるしかテイリーを納得させられないだろうね。
「今日は面白い話が聞けて良かった、帰らせてもらうよ。あぁ、テイリー、君は必ず明日開かれる夜会に参加する様に。」
案外彼はこのカオス展開を楽しんでいるのかもしれません笑




