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夜会で遂に…運命の時


「……さま。……お嬢様、お嬢様!」


耳元で囁く声に重い瞼を開けた。ぼんやりした視界が次第に鮮明になると、目の前には侍女マリーの顔がドアップで迫っていたーー。


「あっ!お嬢様お目覚めですね。もう外は真っ赤な夕焼けですよ」


マリーの指差した先には、一面オレンジ色の空が広がっている。けれど、今の私にはそれより気がかりなことが……


《ねぇ、何で今日のマリーいつも絶対に出さないような猫なで声なの??》


おじ王子訪問時に匹敵するレベルの怪しさだわ……。


オマケに不自然なほどの満面の笑みを浮かべているし。後ろに回した両手に『何か』隠しているのは明白でもはや怪しさの極み。



《絶対に何かを企んでいる顔と動きだ!これ》



「なっ、何なの……?不気味過ぎる満面の笑みは!それに背後に何を隠してるの?!」


私が話し終えたことを合図にするかのように、マリーの後ろからざっと9名のメイド達が一斉に寝室に入り込んできた。まるで訓練されたようなその動きは私が恐怖を抱くのには十分だった。



「ちょっ、ちょっと何?!こっちに来ないで……いやぁぁぁーーーーー!」


* * *

 

マリーに裏切られた私は、ドレスを無理やり着せられてパーティーの準備をさせられている。私が逃走するのを恐れてか、メイド達の手によって、縄で椅子にガッチガチに固定された。


それに夜会用のドレスがシワにならないようにと、ご丁寧に『上半身、腕、脚』に分かれて固定させられたもんだから動きようがない。



「マリーの裏切り者ぉーー!」



昨日はあれだけ熱い抱擁を交わしたというのに、まさか味方に裏切られるとは思ってもみなかった。


昨日の味方は今日の敵だわ!世の中残酷。


 

「すみません、お嬢様。今月分のお給金とボーナスが掛かっているんです。」


「あの脳筋め、金に物を言わせたのね!アナタは金に負けたのねー!どっちも許さなーい。」


怒りが込み上げて来た私は椅子から立ち上がろうとしたけどガッチリと固定されているのでピクリともしない。



あー腹立つ!



「今の私はこうするしかないんです!お帰りになったら甘〜いチョコレート用意しておきますからっ!許してください」


「チョコとおじ王子……2つの釣り合いが取れてないのよぉーー!!」


私の叫びも虚しく、早々と支度を終わらせたマリーの仕事ぶりに嫌気が刺してた丁度その時――。



「よし、支度が終わったようだな」



絶望している私の目の前に爽快に現れた兄。

いつもより『ビシッ』とした着こなしが、実に憎たらしい。

筋肉も憎々しい。


「あんまり暴れるな。今縄を解くから。」


兄の手によってあっという間に解かれた縄――。

『やっと縄から解放された!』なんて気持ちに浸っている時間はなく、素早く肩に担がれそのまま馬車の中へ放り込まれた。扱い方雑過ぎて監獄された囚人の気分だわ。


縄を解かれたっていうのに、兄が向いに腰掛けるから逃げようがないっ!そのままどうやって逃げようか考えていたら馬車が走り出した。


『このまま窓から……。』そう思い立って窓を覗くと思ったよりスピード感があった。うん、無理だわー。 



作戦変更して兄を説得しよう!



「夜会になんて行きたくない」

「ダメだ。」


 

兄の説得に失敗した!



「もう!何度言ったらわかるの?王子はイケメンじゃないんだって!」

 

「あのな……結婚が嫌だからってそんな風に王子を下げるのは良くない。お兄様悲しむぞ」 



《今一番悲しい思いをしてるのは、私!》


 

「取り敢えず嫌なものは、い・や!」

 

「それなら、今日の夜会にはオリバーも来るらしいからお前が再婚してくれって頼め。99%無理だと思うが、成功する可能性が1%でもあるかもしれない」


「昨日頼みに行った!そして断られた!」

 

「お前いつの間に家から抜け出したんだ!」

 


知らないうちに私が逃げていたことに対抗心を燃やす兄は、絶対逃げられない環境を作ろうと何やらぶつぶつ呟き出した。



《寝室よりもパワーアップした監禁場所とか絶対に逃げられないじゃない!》



「逃げ出した話は今どうだって良いでしょ?そうだ!お兄様からオリバーに頼んでみてよ!お兄様たち親友なんでしょ?」

 

「無理だ。かれこれ9回も再婚するように説得しているが、お前とは再婚したくないらしい。諦めて王子と再婚しなさい。」


「どんだけ嫌いなの?私のこと!」


他人から『嫌われてる』って言われるのと自分で『嫌われているな』って思うのとでは訳が違う。結構兄の言葉にグサッときた。

 

「アイツのことは放っておけ。こんなに懇願しても頼みの一つも聞いてくれないなんてアイツには失望した。だからこそ……」

 

「だからこそ?」

 

「お前は王子と結婚しろ!」


「い・や・だ!」


兄のしつこい提案に飽き飽きしてきた頃、外の景色は街灯がないと見えないほど暗くなって来た。ここまで暗くなると、外の気温は寒いだろうから逃亡するのは無理だ。



やっぱり説得するしかないのね……。



「本当にあの王子と結婚させたらお兄様なんて絶縁よ!『テイリー』って呼び捨てにしてやる!」

 

「反抗するお前はちょっと可愛いが。なんとでも言いなさい。今回の夜会で婚約発表するらしいから。悪足掻きはやめろ」

 

『昨日私が頑張って説得して、何とか保留で帰ってもらったのに!話が違う!』私がそんな顔をしていたのか、兄が説明してくれた――。

 

「今朝、お前が寝てる間に宰相から手紙が届いてな。まだ返事はしてないから行ったら承諾するんだ。」

 

「承諾しないわ!」

 

「あーもう、お前はいくつなんだ?良い加減諦めなさい。」


ってな具合に、あーでもないこーでもない言い合っていたらいつの間にか城が見えてきた。



オワリだ。

この状況でどうやって逃亡しろって?目の前には感じする兄が座ってて、走りにくいドレス着てるし!外は寒そうだし!!


 

「着きました。」


御者の一言が人生終了の合図に聞こえる。


うぅ……無念だわ。身内の手によって結婚させられるのこれで2回目。流石にここまで来て逃げる気力も体力すらない。というか、生命力すらないかも。



「ん?やけに大人しくなったな。まっ、いいか。行くぞー」 



歩く気力も無い抜け殻と化した私は潔く馬車から担ぎ出された。会場へ着いたのでぐるっと一周したけどまだおじ王子はいないみたい、不幸中の幸いね。



この場にいること自体が最悪なんだけどさっ。


 

「それじゃあ、俺は挨拶回りがあるから言ってくるが……逃げないようにな。今のお前にはそんな気力残ってないだろうけど。」



そう言い残して消えた無責任な兄!



「一生帰ってくんなよーだ」

 

それでも見張がいなくなったし、逃げるなら今しかない!

これで夜会から逃げ出せ――


「まぁー!オリバー様ったら!」

「お世辞がお上手ですこと」


耳に耳に響く様な甲高い声から発せられた聞き覚えあり過ぎる名前に反応した私は、騒いでいる連中をこっそりと覗き込んだ。


オリバーを取り囲むように令嬢がオリバーの周りを埋め尽くしていた。ざっと数えたら5名はいた。


「あー。羨ましい。自分は美人に囲まれて。私なんて、私なんて……」


歳上の王子と結婚させられそうな自分とモテモテな元夫の現状を比べて心が折れかけたその時――。



「おぉ、エラ嬢。来てくれたと言うことは例の話を受け入れてくれたと言うことか。」



いやな聞き覚えのある声に落ち込みかけていた脳内がフル稼働。そう、おじ王子の登場!



「でっ、……殿下。ごきげんよう〜」



顔が引きつっている気がするけど取り繕うのすら面倒くさくなってきた。


「殿下なんて堅苦しいのはよしてくれ。僕のことはベルタと言ってくれ。それでは早速婚約発表をしようじゃないか。」



「えっ……と、今夜だとちょっと早いのでは?」



真っ向から断って外交問題にでもなったら一家の没落の危機。どうにかして婚約の話をなかったことにしたいのに、テンパってしまって良い案浮かばない。

 


「早いに越した事ないからな。」



ジリジリと距離を詰めてくるおじ王子に不快感を覚えて逃げるために後ろへ下がる。


「うわっ!」



あぁ、なんてこと!


前やらかした時同様に、ドレスの裾に足を取られてしまいまた転びそうになった!そして前回の夜会同様におじ王子が腕を伸ばして私を掴もうとしている。あぁ、ジーザス。



『もう無理だ』と思ったら目尻から涙が出てきた。

これで私はオワリ――。



「おっと、」



爽快と現れた人物からいつの間にか誰かに抱き寄せられ、いつの間にかお姫様抱っこされていた。フワリと回る私たちだけスローモーションがかかっているみたい。

 


えっ?…目の前にはおじ王子がいるのに体が倒れていない。

何が起こったの?それに聞き覚えのある艶のある声にサラサラなプラチナブランドの髪――。



「危ないじゃないか。エラ、気を付けないと」 



オリバー?!!それに普段は絶対に呼ばない愛称呼び!!

イケメンの糖度が、ピッカピカに枯れた私の心を潤わしている……涙が出てたけど、彼の顔を見たら安心して涙がぴたりと止まった。


嫌いって思ってたのにね。不思議だわ。

それにしても――。

 


……やっぱり顔だけは好き♡



それに、いつもは分からないけど筋肉質なのもカッコいい……ジャケット越しに伝わる筋肉質な体にときめいちゃった♡


あっ、これだと私のキャラが変わっちゃう。

恋愛経験無さ過ぎておかしくなってます。黙っておきます。



「だっ、誰だきみは」



妄想中の私を現実に引き寄せたおじ王子はどうやらオリバーのことを知らない様子。彼は怪訝な顔でオリバーを見つめている。



「申し遅れました。私エラの()。オリバー・カシアーノ・ダ・ヴィセント伯爵と申します。」



「そうなんです。私の夫………ん?、夫??」


「「「えっ!……えぇーーーー!」」」



『元夫』ではなく『夫』と言い切るオリバーに会場にいる一同驚愕。一番驚いているのはもちろん私だけど。


 


マリーちゃんには後々償う機会がございます。可哀想に

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