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逆行人生  作者: 竹子


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3/10

第三話 : 欠片の追憶

時間が戻ることに、国立歩夢は強い既視感と同時に、妙な納得感を得ていた。

「どうせ、また明日には三月六日になる。未来に進むなんていう、そんな都合のいい法則から、俺の人生は外れたらしい」

目覚めた今日は日曜日、三月七日。高校生活最後の週末だったはずだ。この逆行を「夢」として片付けることはもうできない。しかし、この現象を誰かに話す気もない。誰も信じないだろうし、そもそも話す相手がいない。

休日のルーティンは決まっている。家でダラダラとGSジーエスをするか、古いテレビをつけてニュースを流す。退屈ではあるが、惰性のままに生きるこの時間は、歩夢にとって何物にも代えがたい安寧だ。「頑張らないで生きる」という、彼のひねくれた人生哲学そのものだった。

逆行のメリットを考えてみる。未来を変えられないのなら、何も意味がない。努力は無意味。歩夢は元から「頑張らない」人間だ。だからこそ、この「努力が無意味」な世界は、彼自身の存在証明を肯定しているようにも感じられた。

そんな時、携帯が振動した。

着信画面に表示されたのは、高木たかぎ 瑛人えいとの名。小学校時代の数少ない友人だった、、、気がする。「ご飯でも行こうよ!」という誘い。

「……ああ、これか」

一瞬のデジャヴ。どのタイミングでこの誘いがあったのか正確には思い出せない。だが、この誘いがあったこと自体は「確定事項」として記憶に残っている。

(前回、俺はこの誘いを断った。家でダラダラしていたいからだ。どうせ結果はリセットされる。なら、)

そう頭で理解しながら、今回は「行ってみる」ことを選んだ。どうせ未来は変わらない。ならば、一瞬の気の迷いで行動を変えてみたところで、何が起こるというのだろう。この「昨日」を、何の情報も持ち帰らずに終わらせる方が、かえって嫌悪感を覚えた。

歩夢は、瑛人からの着信履歴をタップし、折り返しの電話をかけた。

「もしもし、瑛人か? 今、電話に気づいた」歩夢の声は、抑揚がなく、低い。

電話口の向こうで、瑛人の明るい声が弾む。

「お、歩夢じゃん! ちょうど良かった。飯にでも誘おうと思ってたんだ」

「……実は俺も、連絡しようと思ってた。たまたま、な」歩夢は、過去の記憶をなぞるように、嘘を自然に織り交ぜた。「急だけど、今日の昼飯。付き合ってくれないか。ファミレスでいい」

「行こう。ちょうど暇だったし、、、」

ファミレスへと向かう。

久々に見た瑛人の顔は、歩夢の停滞した時間とは対照的に、生命力に満ち溢れ、イキイキとして見えた。席に着くと、瑛人は人懐っこい笑顔で言った。

「最近元気してる? 歩夢」

「……なんとか、やってる」歩夢は低い声で答える。

「なら良かった。心配してたんだよ。俺も、鷺沼も」

鷺沼サギヌマ

その名を聞いた途端、歩夢の胸の奥深くに、微かな、しかし確かな痛みが走った。

「鷺沼……? 鷺沼京子、だったか。なんでその名前が出る」歩夢の声は、さらに暗く沈んだ。

瑛人は言葉を選びながら、深刻な表情になった。

「歩夢は、小学校の低学年の頃までは明るかった。でも、小三の時……あのことがあってから、急に周りと距離を置くようになっただろ。俺と鷺沼は、ずっと気にかけてたんだ」

「あのことって、なんだ。瑛人」歩夢の声は、抑揚がなく、まるで尋問のようだった。

「やっぱりお前は覚えてないのか」

瑛人の瞳に、深い戸惑いと、隠しきれないほどの悲しみが浮かんだ。歩夢の脳内には、彼の言うような「明るかった過去」も、「小三の時の決定的な出来事」の記憶も、全く存在しない。

歩夢が、自分の記憶の曖昧さ、そして過去の自分自身についての「空白」に戦慄しかけた、その時だった。

目の前が一瞬にして、真っ白に塗りつぶされた。

歩夢は、無機質なベッドの上で目を覚ます。時刻は、いつものようにアラームが鳴る前。

枕元のテレビをつける。ニュース番組のアナウンサーの声が響く。

「明日は、三月六日。関東地方は……」

三月、六日。

国立歩夢の人生は、彼の「選択」を嘲笑うかのように、再び「昨日」へと逆戻りしていた。

逆行した事実は、過去の行動のすべてをリセットした。瑛人に会ったという「経験」は、完全に無かったことになった。

「……クソ」

歩夢は小さく舌打ちした。

唯一残ったのは、高木瑛人が口にした、「小三の時の出来事」と、「鷺沼京子」という、彼の忘れていた過去の断片だけだった。それは、彼の脳裏に、冷たい疑問として刻み込まれていた。この現象は、彼の「意識」に得られた情報だけを、時間を超えて持ち越すらしい。

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