オルメニアに向けて㉑〜皇国領にて〜
あれから何日か経ち、健人達一行はとうとう帝国領を抜けて皇国領へと足を踏み入れた。平坦な草原が周りを囲む街道が多かった帝国領とは違い、皇国領に入ってからは森林や山道が多く野獣やモンスターに襲われる確率が高くなる。更に言えば帝国から逃れてきた盗賊や山賊等も根城や住処にしている事も少なく無く(勿論皇国側のも含む)帝国領よりは確実に警戒心が強まる。
「国境も難なく通る事が出来ましたね!これで、本国にも連絡が行くでしょうし...まだ安心とは行きませんが、やはり落ち着きますね。」
森林地帯を進む馬車の中でジュビアナとルシエラは既に帰宅モードと言わんばかりに気を緩めていた。長らく帝国に滞在し挙句の果てには厄災にまで襲われたのだ。安心安全な旅立ったとはいえ不安が無かった訳では無いのだろう。
「警戒は俺とアミットでしておくので、今まで通り安心して貰っても大丈夫ですよ!ヴニトラもいます...し...」
馬車の中で眠りこけるヴニトラを見つめながら言う健人の言葉は最後まで続けられ無かった。森林や山岳地帯は龍人にとって落ち着く場所らしくオルメニア領に入ってからはずっと眠ったままである。だが、ダラシないとは思わない。寝ている姿もどこか神聖な気がして、何なら起きている時より麗しい。
「ヴニトラ様も我が皇国を気に入って頂ければ宜しいのですが...」
「十分気に入っていると思いますよ...こんなに気持ち良さそうに寝てるのは今までも無かったですし...特に馬車で寝るなんて...」
「そうだよね!私もなんだか帰ってきた〜って感じがするよ!」
「あぁ、やはり少し空気が違う気がするな!帝国の街や空気も好きだったがやはり私たちの故郷はオルメニア領、皇国だな!」
アミットとミティーネもジュビアナとルシエラ同様、気持ちは同じらしく久々の故郷の土地を嬉しく思っているようだ。そんな皆に俺は買っておいたお菓子を用意し振舞った。やはり、魔法のポーチに勝るもの無し、保存も効くし最高だ。
次いでにお茶も用意し馬車の中でお茶会としゃれこむ。
「みなさん!わたくしめが〜〜」
と妙な言葉遣いで執事風に装う。笑いが馬車内を包み楽しげな雰囲気のまま俺たちは帰路の道を楽しむ。
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皇国領には帝国程の街や村は等間隔に存在しない。野営する事も覚悟していたが、街や村での宿泊に慣れきっていた健人はこの中で一番野営に対して後ろ向きだった。風呂にも入れず美味しい夜食もない。恐らくそれが普通なのだろうが異世界人である健人にとっては慣れが一番の強敵ともいえる。
「なんだ!ケント!そんなに野営が嫌いか?」
馬車の中ではアミット、ミティーネが警護として残りジュビアナとルシエラが寝床に使う。ケントは外で寝る事になりそれにも少し不満を感じつつ表情には出さないでいたが、ヴニトラはそれを察し一緒に寝てくれる事になった。
寝ると言っても野営で有るので警戒を怠らない。が、健人は睡眠中でも無意識で警戒が出来るので悪意や殺意、敵意等にはすぐ反応できる。
「い、いや、嫌いっていうか、帝国でのあの暮らし?過ごし方が懐かしくてさ」
「私が言うのもなんだが、アレは特殊だぞ?あんな毎日毎日高級宿屋に高級料理、普通はあんな事ならないだろ」
「やっぱ、そうだよな。なんか、俺人間過ぎるな笑、贅沢も慣れたら当たり前になる。まさか、俺がこんな卑しい人間だったとは....」
自分でも少し嫌になる健人。しかし、ヴニトラはそんな健人に対して 貴様にもそんな人間らしいところがあったのだな! と嬉しそうに笑った。
「今日は貴様の話を聞かしてくれ、ケント!お前の世界の話も気になっていたしな!」
「え、まぁいいけど。そんなに、面白い話でもないぞ?」
其処から二人は寝るのも忘すれ色々な話をしたのだった。健人に関してはこれまでどんな人生、生活を送っていたのか。学校の話や仕事の話、この世界には無い科学や機械の話には目を光らせ丸で子供みたいだった。
一方、ヴニトラの話を聞いた健人は驚愕の連続だった。この世界に産まれ殆ど孤独に過ごしてきたこと。龍人達は数が元々少なく最初から五人しか存在しなかったらしい。群れることもせず、生殖活動を行う必要も無い中で娯楽もなく、世界をただ、傍観するだけの人生。それを何千年と繰り返し過ごしていく中で人間が産まれ、育ち、国を作りそして滅びていく。厄災が現れたのは人間が産まれある程度の文明が発達してからだったこと。最初から居た訳ではなく突如として出現したらしい。
「今までの人生、こんなに楽しい時間は無かった。貴様には、いや、貴様達には感謝している。孤独を寂しく思う事は無かったが歌の街で一人皆を待っている時は寂しさでどうにかなりそうだった。」
珍しく弱気を吐くヴニトラ。
「俺も感謝してるよ、ヴニトラのお陰で厄災に対処が出来る。これで、俺は世界を救えるんだから!」
健人は魔法のポーチからお酒を取り出しヴニトラに注ぐ。そして、そのまま自分にも用意をして乾杯する。見張りをいい事に二人だけの秘密の晩酌を楽しんだのだった。




