オルメニアに向けて⑩〜神木の森林〜
帝国外へと続く道もそろそろかと言う所まで馬車を進めた一行。ヴニトラが同行する事になってから一行の賑わいは更に加速し増していった。丸で護衛や警護というより旅行、旅路を楽しんでいる団体の様に。
ヴニトラの一件以降、モンスターに襲われる事もなく只、安心安全な旅を満喫していた。天気も頗る良く、雲ひとつ無い青空が帝都を出発してから長らく続いていた。
しかし、今日に限りは暗雲が立ち込め今にも雨が降ってしまいそう、そんな腹を含んだ天気だった。言葉にせずとも何か嫌な予感が起床してからずっと脳内に違和感として常駐している。だが、その違和感が何かを健人自身も把握できずにいた。
その言葉を聞くまでは...
「ケント、ここから東の方か....恐らく厄災だな」
それは馬車内、何の変哲もない日常会話かの如く放り出された。最初、何を言ったか理解ができず無言のまま眼力でもう一度と問う。
「厄災だよ厄災...前に言ったろ?そいうのが分かるって...ここから結構 東に行った所に丁度さっき発生した感じだな...チッまた生物系だなこりゃ」
舌打ちを鳴らすと徐に立ち上がるヴニトラ。健人の方に目をやると行くぞ!と言わんばかりに馬車の扉を親指で指しクイクイっと表現する。
「で、でも、どうやって?」
「いや、私が背中を貸してやるよ!すぐ終わらせてすぐ帰ってこよう!」
馬車の扉を勢いよく開けるとそのまま健人の腕を掴み走る馬車から飛び降りる。勢いそのままにヴニトラの姿は相対した時の龍へと形を成しその背中に健人を乗せる。
「うわぁぁぁぁ!!!!!ひゃっほぉぉぉぉーー!!!!」
龍へと姿を変えた龍人は人の言葉を話す事はできない。会話をする事が出来ないだけで人の言葉は理解できる。ヴニトラは背中に乗せた健人の嬉々とした叫び声に笑いを覚えながらその速度を上げていく。
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「おいおいおい......。これは....」
厄災発生からまだ数十分。この世界に於いての移動手段とは基本的に馬車しかない。ごく稀に竜車を扱う国や御者が居ると言うが...。龍の背に乗っての移動、決して遅くはなかった筈...それに目的地までは一直線、空に障害物はなく滞りなく目的地まで到着した。
しかし、眼前に広がる光景は最早手遅れといって良い光景だった。大木は燃え、木から木へと炎が燃え移り森林は火の海へとその姿を変貌させていた。黒い煙が空へと舞い上がり空気は濁り視界は陰る。
「とりあえず下に降りよう!」
上空からでは厄災の姿を捉える事が出来なかった。会話もできない為に人の姿に戻って貰うべく下へ降りる事を促す。しかし、ヴニトラは地上へと降下するは事なく滞空状態を維持したまま人の姿へとその身を変えていく。
「ケント!!ここはエルフ達が住む森、神木の森林だ!!おかしい、今までこの森が燃え盛るなど....」
「エ、エルフ??....いや、それより厄災!厄災はどこに??気配があまりにも....」
「そ、そうだ!厄災....いや、なんだ....この感じ...」
ヴニトラの困惑が見て取れた。それは、最近知り合ったばかりの健人でさえ異常な動揺だと思えるもので、その原因はその後続くヴニトラの言葉に乗せられていた。
「エルフとは....元来、私たちと同じ傍観者なのだ。人の世には触れず自然と共に生き最後は木々へと帰っていく。そして、また新たな生命が芽吹き...それを繰り返し、時には私たちと同じ程の時間を生きている者も存在する。」
神木の森林の上空をヴニトラに背負われる形で見渡す。風にのり吹き抜ける火の粉は炎を呼び燃え移る事を止めない。
「......いや、待て。そうだ、奴らは小心者で他者を寄せ付けない....。認識阻害か!」
何かを思い出したヴニトラが両手を前に出し森林に対して何かの魔法を使用する。魔法といってもいいのか魔力の奔流がただ流れ、そこに在る何かを感知し徐々に氷塊を溶かしていく。
サァァァァァ
霧が晴れた様に燃え盛っていた炎は消え、先程までとは少し違う神聖な森林がそこにはあった。天にまで登り雲をも突き抜けんとす大きな大木。それは確かに先程まで無かったものだ。
「こちらが本来の神木の森林だが....やはり!ケント!」
ヴニトラは大きく声を上げた。ヴニトラによると先程燃えていた森林も実際に燃えているものであるが、今眼前に姿を表している森林がエルフの住処である。
そう、嘗てその森林に厄災が立ち入った事は、無い。認識を阻害し本来は見ることすら叶わない、存在は知っていても何処に居て何処にあるかすら分からない、そんな神木の森林に今、認識を阻害して尚燃え盛る炎とそれをオマケと言わんばかりに本来の森林に立ち入るそれは、まさに厄災だった。
オォォォォォン、オォォォォォォン!!!!!
気に慣れない異音、それは生物の鳴き声なのかそれとも....。ヴニトラに連れて行かれるがまま空中を移動する健人はそれを目にして驚愕の表情をその面に貼り付けた。
「おいおい、アレは一体....」
「アレが、この森林を襲う厄災...そうみたいだな。」
大木を連ねる森林からそれは姿を表した。何故、森林が燃え盛っていたかその理由は今目の前に居ると確信する。
「取り敢えず、アレを倒せば良いんだよな?」
恐怖は無い。だが健人の目に入るそれは明らかに今までとは違う何かに見えた。言葉に言い表すならば悪魔である。




