オルメニアに向けて①
「こちらこそ、御挨拶遅れまして申し訳御座いません。私オルメニア皇王が妻王妃ジュビアナ・ディア・オルメニアに御座います。以後お見知り置きを。そして、此度のご活躍本当に感謝の思いでなりません。」
「同じくオルメニア皇王が娘、第一王女ルシエラ・ディア・オルメニアに御座います。ケント様お噂はかねがね...オルメニアまでの道中 護衛までお願いする事になってしまい申し訳なく思います。」
背後からヴェマリナの熱い視線を感じながらジュビアナとルシエラの前へ膝をつく健人。車内の豪華さが見劣りしてしまう程に美しく可憐な二人の女性、ルシエラとシスメアはジュビアナに似ていて親子の面影を感じる。しかし、笑った顔は丸で少女の様でそれはセリルにとても似ていた。
「先ずご挨拶が遅れてしまい申し訳御座いませんでした。オルメニアの王妃といえどここはファシュトリッシェ帝国、しかも厄災の襲来。我々はただこの国の来賓者としてオルメニアの王妃として最後まで見届けるつもりでした。しかし、ケント様が来てくださりました。私としてもお礼をと思いましたが帝国内の出来事でしたのであまり干渉できず、改めて謝罪とお礼を。」
そう言うと二人して頭を下げる。健人としては忘れていた申し訳なさも有るが正直思うところもあった。夜会にも出席はしていたらしいが二人の顔を見た覚えはなく挨拶や声さえも掛けられる事なく今日を迎えた。
幾ら他国とはいえオルメニア皇国からの使者として帝国に来訪していた健人にとって違和感を募らせるのには十分だった。しかしその件に関して触れることはしない。
「本日より、長い旅路になりまず何卒よろしくお願いします!」
健人・アミット・ミティーネが改めて頭を下げる。その姿を茶化す事なく後ろから見守るヴェマリナもまた軽くお辞儀をする。
「.....ところで、ヴェマリナ様はどうしてこの馬車に?」
挨拶を終えた少しの沈黙の中健人が気になっていた事を切り出した。
「ケント様!やっとわたくしの相手をしてくださいますの!」
力強く腕を引っ張られヴェマリナの隣に座らされる。絡みついた腕と寄せられた胸の感触を堪能しながら表情は平静を保つ。
「もちろん!ケント様について行く!....というのは冗談として本当の目的はオルメニア王妃とルシエラ王女を無事に送り届けオルメニア皇とお話する為ですわ。元々ある友好関係は勿論今回の件でそれが更に強くなりました。まぁ、あれですわ、今後について話し合いたいという事です」
落ち着いた表情をみせるヴェマリナ。しかし行動や仕草はとても可愛らしく腕を組んだまま離そうとしない。
「でも、王女が直々に来ることないんじゃない?」
「いえ、ケント様が考えている以上に厄災とは世界の根幹的脅威なのです。これまで数々の村や町、国が滅びてきました。ですが、オルメニア並びにファシュトリッシェのような大国が滅びなかった歴史は過去に存在しませんが今それが起こってしまいました。」
「オルメニア皇にも似たようなこと言われましたね...」
「はい。ですからこの先どうするかを相談したくわたくしが馳せ参じます。帝国内はお父様とお兄様に任せて問題無いとの事でしたのでわたくしはわたくしのできる事をやりたいのです」
揺られる馬車の中、一行は帝都を後にする。滞在期間はたったの一日だが信じられない程濃い経験が出来た。朝からどこかよそよそしいアミットとミティーネの事を気にしつつヴェマリナ並びにジュビアナとルシエラの話し相手になる健人だった。
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ヴェマリナ・センブル・ファシュトリッシェの心情
初めて見た時、目を奪われた。黒く染まった髪の毛に整った顔立ち。美男子という訳ではないが優しさと心根の良さが顔に滲み出ていた。オルメニアの使者として帝都にやってきた彼とその仲間は何を言うのか厄災を打ち倒したと発言した。帝都周辺まで国民を避難させ近づいてくる死に恐怖しながら過ぎる一日、それを終わらしたと彼は言ったのだ。
勿論、信じる事は出来なかったしお兄様も激しくお怒りになられた。しかし、お父様だけはその方の話を真剣に聞いていた。わたくしにはそれが理解できず苛立ちから強い発言をしたのを覚えている。しかし、彼は怯むこと無くわたくしとお兄様を無視してお父様と直接話し始めた。
それが彼との出会い。異世界からやってきた人間という事と魔槍ゲイボルグを持っている事に加えて厄災を倒す程の力。怖いと思う気持ちよりも純粋な好意と興味がわたくしの中で勝った。結果、忘れていた恋心が呼び起こされる。わたくしはこの人の事を知りたい!わたくしに興味を持って欲しい!
その思いからあの夜アミット様とミティーネ様にお願いして三人で夜這い作戦を決行した。結果は思った以上、わたくしの中にも愛おしいと思う気持ちが膨れ上がり幸せが体を包む。
「ケント様....。」
揺れる車内にて健人の肩に頭を置き深い眠りに誘われるヴェマリナはとても安心した表情をみせる。その顔を見ながら頬にかかる髪の毛に触れ耳にかける健人だった。




