ファシュトリッシェ帝国④
「父上ッ!!!!」
「お父様!!!」
激しく動揺したのは向かい合わせに座る皇帝陛下の御子息・御令嬢であった。今まで二人が見てきた父の姿からは考えられない深々としたお辞儀。その衝撃のあまり机を同時にバンと叩き上げたる。
「おいっ!!そこの愚民!!貴様、よくもぬけぬけと...厄災を排除などと!!!其の虚偽、万死に値する!!即刻首を刎ねろ!!!!」
「よさぬかっ!!!!!!!」
激しく怒号をあげ一斉に静まる。この事態にアミットとミティーネは完璧に気圧されており無言のまま俯き口を開く事は一切しない。対して健人は全く臆する事なく状況を見極めている。
「で、ですが父上ッ!!そもそも五日そこらでオルメニアからなどと...それこそ!有り得ません!!」
怒りの収まらない男は食い下がる事なく粗を探し不満をぶつける。しかしそれを無視した皇帝陛下はとある書状を取り出し円卓の上に置いた。
「先日オルメニア皇から届いた書状...これにはオルメニア皇国が国滅級の厄災に襲われたが何者かによって救われたと書いてある。それがお主なのだなケント殿」
「はい、その通りでございます」
開いた口が塞がらない男女二人は呆然とし立ち尽くしている。皇帝陛下以外の周りの人間も狼狽え動揺を隠せていない。
「改めて、話を聞かせてくれるか」
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あれから事の顛末を説明しゲイボルグを出現させる事で大方信じてもらう事ができた。魔槍を見せた途端悪態をついていた姉弟は一変、手の平を返す様に態度を改め周囲の人間達も大人しくなった。
改めて礼をしたいという事で皇帝陛下の身内や知り合いだけで小規模な夜会を開催しようと言うことになり夜まで帝都で暇を潰す事になった健人達。三人で買い物でもしようかと思い悩んでいところに先程の女性が是非案内をと申し出てくれた。
「ケント様、先程はとんだご無礼を。わたくしファシュトリッシェ帝国第一王女ヴェマリナ・センブル・ファシュトリッシェに御座います。」
と、人が変わった様に挨拶をされ健人達は少し引き気味に帝都の案内をお願いした。
そして現在
「ケント様!!お次はアチラに!!」
先程のまでの鬼気迫る顔からでは想像も出来ない程豊かに表情を変えるヴェマリナは一人の少女だった。健人の腕を組みピタッとくっつく。指を指しては腕を引っ張り健人はタジタジでてんてこ舞いになっている。
「はっ!すいません!つい久しぶりのお出掛けが楽しくてっ!アミット様、ミティーネ様、申し訳ございませんわ」
急に正気を取り戻したのか後ろを振り返るヴェマリナ。しかし、帝都を楽しんでいるのはヴェマリナだけではなくアミットとミティーネもしっかり健人の隣にくっつき着いてきている。
「大丈夫だよヴェマリナ様!私たちも楽しいしっ!ね!ミティ!!」
「はい!!私たちの事は気にしないで下さい!でも、ケントを独り占めは許せませんっ!」プンス
そんな事をミティーネが言うと思っていなかった健人は思わず腕に力が入り抱き寄せる。
「ミティ!急にそんな可愛いこと言うなよ!!」
「か、かわっ!!.......。いや、だがしかし...」
「なんか、二人だけずる〜い!!!!」
周囲の目は最早奇異の目を向けている。厄災の脅威が去ったと告げられた帝都は華やかでお祭り騒ぎ。パレードを開催し踊り子達が舞い住民は酒を片手に大騒ぎ。それを持ってしても異様な光景は帝都中で後に大きく噂になった。
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夜も更け月明かりに照らされても尚止まない喧騒の中大きな窓から外を眺める綺麗な格好をした健人。内々の夜会といえど正装で出席するのが当然という事で衣装も用意してもらった。
コンコンコンッ
「『英雄』様、皆様お揃いです。」
「はいっ!ん?え、英雄??」
呼び出され駆け足で出口向かう。扉を開けると其処には華やかに着飾られたアミットとミティーネが待っていた。髪の毛の色と同じドレスは星の様に輝き少し照れた表情は年頃の少女を匂わせる。
「ど、どうかな?ケ、ケント。に、似合わないと思うけど....」
「わ、わたしも、さ、流石に恥ずかしいが...ど、どうだろ?」
思わず息を飲む。しかし、照れている女子を待たせる訳には行かないと直ぐに思った事を口に出す。
「ふ、ふたりとも。めちゃくちゃ似合ってるよ!最高に可愛い!!」
その言葉に耳まで真っ赤にして何も言えない二人。健人は二人に両手を差し出すと不慣れ乍にエスコートをしようと努める。
「さぁ、会場向かいましょう。此方です。」
三人で腕組をし案内人と共に廊下を歩く。先程来た時とは違い紅に染まる絨毯が敷かれた床は豪華さを彩り王城の至る所に装飾が施されている。
「お待たせ致しました。此方に御座います。」
開かれた大扉は大きなシャンデリアで照らされ丸でダイヤモンドが降り注いでいる大きな空間だった。
「楽しんで行ってらっしゃいませ」
送り出される健人達は緊張気味に歩いていく。華やかに彩られたその大広間には円卓に座っていた面々と見慣れない若者達がグラスを飲み交わし談笑している。
「思う存分楽しもうぜッ」
小声で二人にボソッ呟く。少しだけ頷くと笑みを零しながらさんさんとした光の中へ消えていくのだった。




