トゥミ村④
「よし!試してみるか!」
何が始まるのか分からない女性達の表情は強張ってはいるが先程よりも柔らかくなった気がする。健人は魔槍を投擲する形をとりもう一つの穴の方へと思い切り投げ入れた。
「ほい!!」
厄災の時とは違いしっかりと手から離れた槍は真っ直ぐに燭台が並んだ穴へと入っていく。手から放たれた槍の感覚が伝わり距離が離れていても操る事ができる。健人は彼女達をその場に置いて行くのも先に出口へと送り届けるのも躊躇った。そこで思いついたのが魔槍の遠隔操作である。魔力がないので原理は不明だが感覚的に健人には可能であると分かった。
「何となくだけど、中の様子も感覚でわかるな。全員一匹残らず殺し尽くす」
気配からして数十匹以上、道の奥には広間よりも更に開けた場所がありそこにゴブリン達は屯ろしている。正に巣窟というに相応しい
「ゲイボルグ、焼き払え!!」
轟音が鳴り響く。驚く女性達に事情を説明して場を和ませつつ利き手を動かし槍を操る。奥の広間では紫雷が降り注ぎ入り乱れている。
「よし!これで大丈夫な筈!」
殺気立った気配は無く血生臭ささが奥の方から充満してくる。焦げた匂いも微かにするが幾分距離が少し離れている分健人以外が気付く事はない。
「皆さん外へ出ましょう、もう安心ですから」
出来うる限り慎重に安心させる為に言葉を選ぶ。女性達からすれば急に突拍子もなく現れた見知らぬ男がゴブリンを倒したに過ぎないが、健人が放つ独特な雰囲気は彼女達を落ち着かせた。
先頭を歩きつつ背後に気を配る。入口の狭い道は人一人が通れる程度でどうしても一列になってしまう。健人はゴブリンを一掃したと考えいるが念には念をの精神から油断はしない。
「あ!光が...。出口が見えてきましたよ!」
安堵の表情と喜びの涙を流す女性たち。話を聞くとゴブリンが村娘や町娘を攫っているというギルドの話からゴブリンの巣穴殲滅依頼を受けたのだそう。冒険者三人と村人五名の合計八人が今回の被害者達だ。
「ほ、ほんとに...。なん、とお礼を...したらいいか」
震えながら涙流し祈る形で健人に膝を着く一同。絶望の中で死を待つ時間さえ地獄に感じたであろう。皆が生きる気力を失いただ痛みと苦痛に恐怖する毎日。犯されては殴られ目の前に動物や人間の死骸が転がり食事は殆どない。連れ去られた娘たちは七日間、冒険者達は三日間をこの巣穴で過ごした。心に残る傷は健人には計り知れない。
「村までは一緒に行くので、取り敢えずトゥミ村に行きましょう!」
話を聞くと全員がシュピザイゲという街に居たそうだ。順当にいけばトゥミ村の次に行き着く街だった。そこから攫われた娘達と依頼を受けた冒険者と言うわけだ。村で暮らす娘達も何かとシュピザイゲに訪れる事が多く、その日も買い物をしに街へと出たらしい。
「最近、シュピザイゲ近辺や街中で...。ゴブリンが多く見られるんです。」
「街中で?どいうこと?そんなに簡単に街に入れるの?」
「普通はそんな事有り得ません!だから皆警戒しないんです。」
攫われた場所はどうやら街中の路地裏らしく最初は人攫いか身売りだと思ったらしい。しかし、目に入ったのは乱暴で凶暴なゴブリン達でそのまま為す術なく巣穴に持ち帰られたと。
「それであなた達が助けに行ったのですね。」
「・・・・・・」コクッ
頷くだけに留まるが声を出せない様子。三人の冒険者は元々四人パーティーだったらしくリーダーの男性だけ死亡している。詳しく聞くつもりは無かった健人だったが何となく目の前で殺されたのだと察した。
「......。帰りましょうか、皆の村へ」
森の中は危険だと分かっている。一人で八人を守りきるのは実質不可能に近い。しかし、健人は魔槍に対する絶対的信頼を置いていた。それが吉と出るか凶と出るか。
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考えは少し甘かった。傷心中の女性が八人、その内戦える冒険者は戦意喪失し肝心な時に動く事も出来ない。娘達もモンスターに恐怖心を抱いておりゴブリンはモンスターでは無いにしろ見た目も相まって非常にそれに近しい。
「くっ!!!」
あの巣穴に居たゴブリン達で全てでは無かったらしい。野生の勘かそれとも何かしら察知したのか、数十匹のゴブリンが巣穴へと帰還それに加え狼型のモンスターまで寄ってきて囲まれてしまっている。
「ここで力を変に使えば巻き込む可能性も...。くっそ!」
円形になる様に皆で塊になる。徐々に距離を詰めてくるモンスター達を牽制しつつ隙をみて一気に仕掛ける。
スッ
「!!!!」
目の前から急に消えた健人の気配を察知するのは本能的な獣でも難しい。音を立てず森の中を跳ね回るように飛び確実に一匹一匹殺していく。
「す、すごい。なんて動き...全く見えない」
女性達も健人の事を信頼したのかあまり怖がる素振りをみせず冷静に状況を判断しはじめた。
「ふぅ」
バシュ
最後のゴブリンの脳天を一突きし沈める。
「あ、あはたは一体?」
その言葉を聞き流し村への先導を続ける健人なのであった。




