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始まりはいつも唐突に

騒がしい大通りを少し中に入ったところ、それは先程居た場所とは違う世界なのではないかと思う程に静かで心地良い風が吹き抜ける。


虫の鳴き声が何処からともなく聞こえてくる。車の音が小さくなった分聞き取りやすくなったのだろう。


「...........」


まだ、日が暮れて間もない時間。夕焼けの残り香が空を少しだけ染めあげコントラストを演出している。


「...........」


耳にはイヤホンを着け鞄を手に持ちスーツを着た青年。ここは彼がいつも仕事帰りに使ういつもの道なのだ。


「(ギラギラベルトを外しても〜♩軽くならないならない俺ら〜♩アメイジング♩)」


心の中で聴いている曲を熱唱する。最近流行っているアーティストらしく彼もお気に入りらしい。


「(いや〜、やっぱこの曲良いよな〜!最近はすっかり有名になっちゃって俺も嬉しいけどなんか寂しいな〜)」


いつも通るこの帰り道は風が気持ち良くて季節の風を運んできてくれる。この匂いを嗅ぎながら帰る道が俺は大好きだった。だがそれは唐突に起きた。いつも通りの帰り道、いつも通りの景色何も変わらないいつもの日常、だった筈なのに。


「???.....。え、え?」


一瞬。ほんの一瞬、瞬きをしただけだ。目の前が暗転し気が付けばそこは見た事もない景色だった。風で靡く草原に青すぎる程の空。先程までいた喧騒とした雰囲気とは一変風に揺れる草木以外の音が聞こえない程に静寂。


「え、まってまって?は??え、まってまって...」


状況が理解出来ず焦りを隠せない。鼓動は早まり汗が滝のように流れてくる。焦りは直ぐに動揺に変わり同時に恐怖と緊張を運んでくる。


服はスーツで革靴を履き、手には鞄を持った普通のサラリーマンな風貌。手荷物や服等はそのままで身体にも変わった変化はなかった。


「ハァハァ、ゼェゼェ...。ハッ..ハァハァ...」


落ち着くどころか焦りと恐怖と緊張は次第に呼吸を困難にしていき過呼吸を起こし始める。


「(ヤバい、先ずは落ち着かないと...。でも、駄目だ。現実を受け止められない。何が起こってるのか分からないし、ここは何処なんだ?クッソォ〜ホントになんなんだよ)」


-キィィィィィィン-


突如頭の中に高い音が響く。それは耳鳴りの様なモスキートーンの様な聞いた事が有りそうで無さそうな、安心感と不思議さの両方を兼ね備えたそんな音だった。


だか、その音に気を取られた事で次第に鼓動は遅くなり呼吸も段々と落ち着きを取り戻し始めた。


「な、何だ?この音は...。でもお陰で少しマシになったな」


音は依然鳴り止まず頭の中に響き続けてるいるが不快感は無い。それに、何かを伝えようとしている様な気がする。言葉と迄はいかないが何かを俺に伝えようとしている。そんな感覚が頭から全身に予感として伝わっていく。


「何だ、何を俺に求めてるんだ?いや、ちが、う?呼んでいるのか?俺を?」


先程までの動揺と緊張・恐怖が嘘だったと言わんばかりに気持ちが、心が軽く楽になる。そして、今一度しっかりと周囲を見渡し風を感じ鼻から思いっきり空気を吸い込む。


「スゥーーーー.....。フゥーーーーーー」


何故か呼ばれていると感じるこの音を頼りに今は取り敢えず歩く。此処が何処で在ろうと今は出来る事をしようと考えて行動に移す。それに、立ち止まって何もしない方が方が不安を感じて狂しくなってしまいそうだった。


「なんで、音だけで行く方向が何となく分かるんだろ。音が大きくなる訳でもなく変わったりする訳でも無いのに。」


音は今も鳴り響いている。しかし、頭の中で聞こえる為音の出処や方角は存在しないに等しい。なのに何故か足は勝手に動いていく。


暫く歩いた先に森が見える。そこまで離れた場所では無い筈なのに目に見える距離になる迄全く気付かなかった。それだけ冷静では無かったということだろう。


「この、森の中に何かが...」


それは不確かだが確実に何かが有ると言えるだけの直感めいた何かを感じた。丸でデジャブの時みたいな既視感、夢が正夢になった見たいな不思議な感覚だった。


「.....。少し怖いけど今の俺からしたら何処に居ても怖いからな....。」


森を目の前にし、迷いはしたが俺はほぼ即決で中に足を進めた。木々が陽の光を遮り鳥たちは唄い動植物は踊る。気温も少し下がり肌寒さを感じる。


「何だろこの感覚。何か、分かるな。一気に近付いた気がする。」


森に入り少し、感覚が研ぎ澄まされたかの様に何かの気配を強く感じる。頭に響いていた高音はいつの間にか消えその気配だけを頼りにドンドンと森の奥へと入っていく。


さらに進んだ先で開けた場所に出る。森の中に輪を描くように光が差し込み眩しくて手で陽を遮る。


「ここ、な筈なんだけどな。何も無いな」


気配は消えここが目的地だと悟る。しかし、見渡して見ても特別変わった物はなく殺風景ともいえる。


光の中心に向かうように足を何となく進めるとそこで違和感に気付く。空間が歪んでいる様に見える部分があるのだ。それはほんの少しの違和感だが強く目に残る様に映り込む。


「!!!!!!!」


空間の歪みに手を伸ばした瞬間、そこは先程いた草原では無く洞窟の様な遺跡の様な薄暗い場所へと変わっていた。そして初めに目についたのは禍々しい槍を持つ黒い甲冑だった。


「なんだ?ここ。でも不思議と怖さはないしそれに...あの甲冑なんだよめっちゃカッコいいけど怖過ぎだろ!」


俺は何故か引き寄せられる様にその槍を持つ黒い甲冑の元へと歩いていくのだった。


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