旅の始まりはいつも唐突に①
城壁を駆け上がる様によじ登り街を見渡す。鳴り響く鐘の音は健人の勝利と帰還を祝福し同時に国滅の厄災が消え去った事を街中へと知らしめた。
「.......やっぱり、人が居ないと寂しいな。」
街にはまだ人の気配は無い。城壁の上から建物の屋根に飛び移りそこから屋根伝いに建物を渡っていき城を目指す健人。その道中で目に映るのは普段では想像もつかない程静まり返った街並みであった。
「行く時は必死だったからあんまり気にならなかったけど...。この世界に来て大体二週間か...。以外と馴染んできてるなぁ〜」
思いの外自身がこの世界に馴染んでいる事に驚きつつも城へと急ぎ足で向かう。
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〜オルメニア城〜
街と違い城の中は予想以上に騒がしかった。扉を開けた瞬間、大騒ぎした兵士達がオルメニア皇やセリルを連れて来たと思えば強引に手を引っ張られ現在はオルメニア皇の私室に座っている。
「先ずケント殿、今回の件本当に礼を言う、民達のいや、一人の父として本当に本当にありがとう…。」
部屋にはオルメニア皇とセリルに加えて2人の護衛とセリルの従者であるミルナだけが入室している。
「幸い今回は見た者は居ないと思うが、このままケント殿がこの国に居座るのは少々難しいかもしれん...」
「え、どうしてですか?」
礼も束の間、神妙な面持ちで始まったその話は今回の厄災と呼ばれるモノに纏わる事だった。
「厄災とは《突然現れるナニカ》。そのナニカはその時々に変わり多種多様。隕石や大噴火・地震や大津波等の自然現象が予兆もなく突発的に起こる事も有れば先の生物の形をしたモンスター等の姿をした厄災も出現する。 この国に現れた厄災は国滅級と言われ国が滅ぶレベルの厄災で今回の規模ならば住民2割も生き残れば御の字、確実に国が滅び未来は無いはずじゃ。しかし、ケント殿は退けてしまった。」
オルメニア皇は続けて説明した。
「国滅級と言われる厄災を退けた歴史は未だになく、今回の一件が問題視される可能性が非常に高い。そうなればケント殿の素性が調べられるのは必然、それなら」
厄災とはこの異世界に於ける超常現象であり原因は未だに判明していない。この世界は厄災で国が滅びた事が歴史を見ても幾つも有り滅びては再建しを繰り返して発展していった。
「ケント殿がこの国を出るいいキッカケかもしれん。今ならまだ騒ぎになる前に国を出る事ができるはずじゃ。幸いにも荷物も纏めてあるようじゃし」
「たしかに、いつこの国を出ようか考えてたんです。丁度良いキッカケかもしれないですね。」
「ケント様...」
しんみりとした空気が流れる。だが元はと言えば世界を旅したいと言っていた健人にとっては唐突では有るにしろ良いキッカケとなるのも確か。
「今この国から馬車を出す訳にはいかん、じゃからケント殿には申し訳ないが...」
「あ、それは大丈夫ですよ!なんか槍のお陰で疲れませんしメッチャ早く走る事もできるんで!」
「ほうそうじゃったか!では、餞別にある程度の資金を見繕おう、急ぎ出発の準備を!」
オルメニア皇が指示を出し再び慌ただしく出発の準備を開始する。
「ケント様...。」
セリルが健人の隣へと座る。
「ケント様が来てから今日まで...本当に楽しかったです。それに、二度も命を救ってくださり何とお礼を言えばいいか...」
「セリルさん...。俺もこっちにきて本当に楽しかったです。最初は不安でどうにかななりそうだったけど...この国、王様やセリルさんにミルナさん、ギルドのバルガスさんも...皆のお陰で旅をしたいと言うのも忘れてたくらいですし、俺の方こそありがとうございました!」
「ケント様...。どうかケント様の旅路が良い物になるよう私祈っております」
「ふむ、ケント殿にならセリルをやっても良いのだが」
話を聞いていたオルメニア皇が唐突な事を言い出した。
「お、お父様!な、なにを!」
「いやなに、セリルもケント殿を好いておるようじゃしお似合いだと思っただけじゃ」
顔を赤く染め上げるセリルとは反対に冗談だと思っている健人は笑っていた。
「流石にお姫様と結婚は俺には勿体ないですよ〜。でも、セリルさん個人でいえば素敵な女性だと思います」
「ケ、ケント様まで///」
この他愛もない会話は緊張をとしんみりした空気を一気に解し普段通りにしてくれた。だがこの時間も長くは続かない。
ガチャ
「国皇陛下!ご準備出来ました!」
一人の兵士が扉を開け報告する。そしてそれと同時に大量の金貨が運ばれてくる。
「ちょ、王様!こんな貰えないですよ!持ち運べませんし!」
「気にするでない、これくらいしか儂にはできんからな。此度のお礼と個人的な気持ちじゃ。」
「で、でも」
「儂もセリルの事関係なくケント殿の事を息子のように思っておるんじゃ。どうか受け取ってくれ」
「王様...。それなら有難く頂きます!ありがとうございます!!」
「ふむ!それと金貨じゃがこれを使うと良いじゃろう」
それは小さな袋だった。
「それは?」
「マジックポーチじゃ、冒険者をするならこれを持ってて損はせん筈じゃ。」
そう言うと兵士の一人に小さな袋を渡し金貨を入れるよう指示する。
ドバドバドバドバ
袋の中に吸い込まれて消えていく大量の金貨。
「おぉ〜!すっご!」
「無限になんでも入る魔法のポーチじゃ!これ一つで巨大な屋敷を10個は買えるぞ!」
「ええ!!そんなんいいんですか?」
「これも餞別じゃどうか受け取ってくれ」
こうして旅の支度にと餞別を受け取った健人はオルメニア皇国を後にするのだった。




