国滅級②
皇城を飛び出し勢いそのまま街の中を駆け抜ける。普段は喧騒と活気に溢れている城下町も緊急事態だからか全く人が居らず静けさだけが街を支配する。
ドォォォォォォォォォン!!!!!
外に出た為か先程よりも音がハッキリと聞こえてくる。地響きも地面そのものが揺れている様に感じ普通なら歩けない程だ。
「やっぱり疲れないし...、しかも俺メッチャ速くね?」
急いでいた事もあり健人は自身の異常な身体能力に気付くのに時間が掛かった。しかし、街を出るや否や人が居ない事もあり槍を片手に全速力で走り出しそこで初めて気が付いた。
「もうちょいで外だ!でも、門は閉まって.....。クッソ、こうなったら!!」
バンッッ!!!!
「え???ってちょ...おいおいおい!!!」
勢いを落とさないように全力で利き足を踏み抜き跳躍する。オルメニア皇国の城壁を軽々と飛び越えその高さに驚き恐怖した。しかし、それも束の間に健人は自分の目で此度の厄災を目撃する事になる。
「おいおいマジか...。俺が倒した奴よりデカイんじゃ...」
例えるなら山である。動く山。二本の角と牙は最早飾りなのでは無いかと思える程に巨大で鼻は長く伸び、身体的特徴はイノシシと類似している。
ピタッ
「ん??」
スタッ
高い跳躍を魅せた健人は不安を感じながらも無事に着地する。何故か動きを止めた厄災に向い疾る、依然として速度は保ったまま。しかし、次の瞬間に動きを止めた意味を理解する。厄災は後左足を何度も何度も蹴り上げ、助走を付け始めたのだ。
ズダンッ!!ズダンッ!!ズダンッ!
「アイツ突っ込んで来る気か!?それはえぐいっ。」
槍を強く握る。力を込めて槍に意識を集中させるが視線は前を向いたまま獲物を捉えて離さない。
パリッ
バリバヂィ
パリビリパヂィ
ゲイボルグが紫色の雷にも見える稲妻を纏い始める。それと同時に走り出した厄災は大陸全土を揺らす。オルメニア皇国内では建物と城壁は徐々に崩れ地面は割れ、避難している住民達は死を覚悟していた。
「ヨシ!この前みたいに投げれば...って...おい..おいおい離れないんだけど!!」
投げるどころか、いつもなら手の平を見せる事が出来るが右手は依然槍から離れる事は無く寧ろ強く拳の形に握られている。
「あ゛ぁ゛!!!も゛う!!こうなったら!いったれぇぇ〜〜〜!!!!」
思い切り地面を踏み込み、気が付けば直ぐそこにまで来ていた厄災に向い槍を突き立て全力で突進する。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!!
バリバリバリバリバリバリ!!!!!!
天が堕ちたと錯覚する程の凄まじい轟音が鳴り響く。万雷が降り注ぎ巨大な厄災を縦半分真っ二つに両断する。一筋の光が消えた時には死の足音は聞こえてこず厄災は跡形もなく霧散していた。
「え゛...え゛え゛え゛!!!!!」
勢いをつけ過ぎた為かそれとも魔槍の威力故か。厄災よりも高く飛翔した健人は空中で逆さになり頭から落ちていた。
「てか、これ...やり過ぎだろ...」
地面は焼け焦げ、深々と抉られている。空は青く雲ひとつ無いその場所に雷は止むこと無く降り注ぎその様は丸で異常気象か将又新たなる厄災か。健人の不安は雷が落ち着くのと同時に凪の方へと向かう。
スタッ
「ハァ〜〜焦った〜...。ぜんぶに焦ったわマジで!...。あのデカブツにもこの身体能力にも...。」
この世界には魔力という物がが存在する。それは身体の内側を流れるエネルギーであり自然の中にも点在している。人々はその魔力を火や水、土や風等の様々な現象として自在に操ったり身体を強化したりできる。時には戦や冒険に使われる一方で時には焚き火や暖炉・お風呂等の生活圏にまで広く使われている。人々はこれを「魔法」と呼びこの世界ではそれが常識であり普通である。この世界では全人類が少なからず魔力を絶対に持っていて魔力が無い人間は存在しない。
本来なら...
魔力や魔法という概念の存在しない異世界から来た健人はこの世界では理の外に居る存在になる。魔力が全くない健人の体はその代わりに人並外れた桁違いの運動能力と肉体に於ける五感の超強化を手にしていた。
「取り敢えず...オルメニアに戻るか」
健人本人は自身の身体に何が起こっているか全く分かっていない。日本に居た時よりも遥かに高くなった運動能力を自覚はしているが今は一刻も早く戻る事を優先した。
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〜オルメニア城〜
「し、静かになった...。も、も、もしや..ケント..殿か?」
激しく揺れ皇城が崩れるのを覚悟したのも束の間、静かになり頭に響くあの忌々しい足音も聞こえてこない。
「ケ、ケント様...」
「取り敢えず状況確認だ!国滅級がどうなったかの確認を急げ!!」
「はっ!」
オルメニア皇が指示を出し一斉にその場に居た人達が普段通りテキパキと動き始める。
「(ケント様、無事でありますように...)」
カァーンカァーンカァーン
セリルの不安を他所に緊急避難時に鳴らされた重い警鐘とは異なり軽く高い音で何回も何回も鐘が鳴らされる。
カァーンカァーンカァーン
「こ、この鐘は!」
カァーンカァーンカァーン
「報告!!国滅級の厄災は去りました!繰り返します!国滅級の厄災はこのオルメニア皇国から消え去りました!」
それは、勝利の宣言を意味していた。




