国滅級①
あれから更に一週間が過ぎ何事も無く平和な日常が続いていた。
健人は相変わらずギルドへと通い文字の読み書きを学んでいた。セリルとの関係も良好で夕食は勿論、昼食も時間と予定が合えば共にする仲にまで発展していた。第二王女であるシスメアとはあの日以降一度も会う事なく、挨拶した事も特段気にする必要が無いと思いオルメニア皇やセリルには何も話していない。
カァーン!!カァーン!!カァーン!!
それは突然起きた。陽が昇り、朝を告げる鳥達の鳴き声を掻き消すように重く大きな鐘の音が皇国中に鳴り響く。それは国の存亡危機に関わる警鐘であり「国滅級」の大災害が発生した事を意味するものであった。
「は、早く避難所に!!」
「も、もうおしまいだぁ〜」
「おかぁ〜さぁ〜ん!!!」
「オギャ!オギャ!オギャ!」
突然の警鐘で目覚めた住民達は戸惑い、不安と恐怖の声を上げる。冷静では無いがパニックにもなっていない。これは警鐘が鳴らされた時間が朝方だった事も要因であるが皇国に住む住民は禁忌庫の森が近い事もあり日頃からある程度の心構えをしていた事が非常に大きい。
一方、皇城はというと...
「陛下!!早く御避難を!!セリル様も既に避難準備を進めております!」
「分かっておる!しかし、国を棄てて逃げるなど皇族の人間がする事では無い!儂の事は良い、それよりケント殿は!?」
「はっ!ケント殿の部屋には侍女を向かわせております!」
「急げ!間に合わなくなるぞ!」
ガチャッ
「お父様!!」
扉を開け勢いよく入ってくるセリル。その装いは普段と比べ質素で落ち着いており機動性が重視されているのが見てわかる。セリル専属侍女であるミルナもまた同様の装いであった。
「おぉ!セリル!準備は良いか?もう少ししたらケント殿も来られるお前はケント殿と避難所へ向かえ!」
「お父様は?」
「儂は皇としてやらねばならない事がある」
覚悟を決めた表情を浮かべるオルメニア皇を見て、セリルは何も言えなかった。それが皇族としてのオルメニア皇の最後の使命だと悟ったからである。
ガチャ
「セリルさん!王様!これは、何の騒ぎなんですか?城の中も凄い慌ただしくて...」
「おぉ!!ケント殿よくぞ!事情はセリルとミルナから聞いてくだされ!さぁ早く避難の準備を」
荷物を全て纏めるように侍女に言われたので健人は等々皇城から追い出されると覚悟したのだが、城内の騒がしさから何かが起こったのだと察した。
「お父様...」
「セリル、ケント殿のこと頼んだぞ?よいな?」
「は、はい!私セリル・ディア・オルメニアはオルメニアの名のもとに民の安心と安全を保証します!」
「よくぞ言った!それでこそ儂の子じゃ!」
涙と震える手を抑え、出来るうる限りの笑顔を見せるセリル。オルメニア皇も不安と恐怖の中で娘と抱き合い最後の時間を過ごす。しかし、その時間も長くは続かない。
「さぁ、時間じゃセリル。ケント殿!」
「はい!」
健人の方へと向き直り改めて頭を下げるオルメニア皇。
「この度は本当に申し訳なく思う。ケント殿が来てこの城も賑やかになった。毎日の朝食が楽しみになったのもケント殿が居てくれたお陰じゃ。見知らぬ世界に召喚されそれでも明るく前を向く其方にどれ程儂らの心が救われたか。」
「お、王様」
「この先、ケント殿の旅路が希望と幸福に満ちたものになるよう儂も願っておる。どうか、セリルをよろしく頼む...」
この状況を見て緊急事態が起きているのだと健人は改めて理解した。セリルとオルメニア皇のやり取りがまるで最後の一時のように見えたのも勘違いではない。
ドタドタドタドタッッ!!
「オルメニア皇!!!目標を確認!!オルメニア皇もどうかお逃げください!」
重厚な鎧を着た兵士が勢い良く扉を開け大声で報告する。その様子は切羽詰まっていて焦りを全身で感じた。
「目標?王様、何があったか教えてください!!今この国では何が!」
ドゥゥゥゥゥーーーーーン!
ドゥゥゥゥゥーーーーーン!!
「!!!!!!!」
その場に居た全員が一斉に固まる。その地響きは確実に段々と近付いており、その音がこの国の脅威なのだと直ぐに理解できた。
ドゥゥゥゥゥーーーーーン!!!
「ケ、ケント殿。これが国滅級指定されている我が国に訪れた厄災じゃ...」
「国滅級ってなんか、前にも聞いた気がするな...」
音に気を向けすぎた所為か将又その性格故か何も考えずにボソッと呟いたその言葉はセリルの忘れていた出来事を呼び起こさせた。
「!!!!!!!!!」
「お、お父様!!そういえば!!ケント様が!!」
セリルは健人との出逢いを改めてオルメニア皇に詳しく説明した。
「な、なんと!!そんな事が!?いや、だがしかし...仮に国滅級を打ち倒せたとしても近隣諸国が黙っておらんじゃろ、ケント殿の素性や正体がバレる危険性も...」
ドゥゥゥゥゥーーーーーン!!!!
国が、街が、大気が揺れ動く。一定の間隔で踏み落とされる衝撃はその厄災が生物である事をヒシヒシと感じさせる。
シュッ
「うぉっ!?」
その槍は突如として手元に現れる。持ち主の意思なく出現した武器に対し健人は恐怖や違和感より使命感を強く抱いた。巨大なモンスターを一撃で葬ったあの時を思い出しながら。
「ゲイボルグ...」
ダッ!!!
「ケ、ケント様!?」
「ケント殿何処へ!?行ってはなr.....」
気が付けば走り出していた。荷物を全てその場へ置いたまま制止の声も今の健人には届いてはいなかった。




