お気にNASAらず
某日。NASAにて。
「水星で高エネルギー反応!」
「何!?」
「あっ、消えました……」
「確か水星の方向で、小規模な太陽フレアが起こっていたはず……」
「えぇ。そのせいで水星に異常があったものと思ったのですが……」
「引き続き観測を。報告もデータとともに出してくれ」
「了解しました」
また、某日のNASAにて。
「火星に、微弱な電磁波が検出されました」
「観測班より、生命活動の痕跡がある、陸地部分が確認できたと。不鮮明ですが画像データがこちらです」
「……聖なるクソ! 探査機を積んだ、ロケットの打ち上げを行う!」
「りょ、了解しました!」
一ヶ月後、異例の速度で予算も資材も人員も確保できたNASAは、火星へと探査機を送るプロジェクトを発表した。
打ち上げ日には多くの観客が遠巻きにロケットを見て、打ち上げ成功に歓声が上がる。
月を使ったスイング・バイで、半年は掛かる航行の監視だが、月軌道に乗った直後に探査機を積んだ人工衛星は、忽然と姿を消す。
「何があった!?」
「信号途絶! ロストしました!」
「待って下さい。……望遠鏡による映像では、人工衛星が確認できました!」
「おお!」
「あの……火星にいます。マーズ2号は火星の衛星軌道上に既にいます!」
「な、なんだって?!」
「火星の方向へ向けたら、信号の受信を確認しました!」
「意味が分からない! ワープ装置なんて積んでいないぞ!」
人工衛星からの画像では、赤い土が目立つ惑星の姿がある。
見慣れたといえる人もいれば、まったく変わっていない部分が多いと言う人もいる。
火星は水がなく、陸続き。渓谷や地割れがある。大気もあるから風も吹く。
風が吹けば岩や崖は削れていくのが自然の成り行き。それが僅かでも見られないのは異常なこと。
だが、それが分かるのは余程注意深い人くらいなもの。
「人工衛星にエラー多数! 探査機の射出が不安定です!」
「立て直せ! 月軌道から火星の衛星軌道ということは、このままだと火星の大気圏に焼かれてしまうぞ!」
「信号を送信しました! タイムラグで向こうの状況は、五分遅れで表示されます。つまり、五分先読みした指示が必要となりますが……」
「火星の重力は地球より低い。軌道補正は慎重にやらねば、うっかりで火星から離れて、ロストしかねないのは分かっている」
しばし試行錯誤して、人工衛星の乱回転を止めることに成功した。
「……ダメです。軌道の航路内から動けません!」
「何故だ?! ジェット機関に異常があるのか?」
「システム・オール・グリーン。ジェットの再起動確認しました。……やはり動きがありません。まるで衛星軌道に固定されたような感じです」
「……仕方ない。探査機の射出を実行しろ!」
「了解しました! 探査機の射出……成功しました! 大気圏に突入していきます!」
「よし! ギャンブルだったが、成功したなら良い! マーズ2号の映像はどうだ?」
「変わらずに火星の大気や大地を映してます。……探査機のパラシュートが開きました。予定地点へと順調に降下して、いえ、やや風に流されてます。軌道補正開始……」
「どの辺りになる?」
「全体図で、この辺の岩場になるかと」
「着地早々どこか壊れるな……」
「クッション機構発動しました! 衝撃は軽微のようです……」
「映像が出ます……っ!?」
探査機は海に着水していた。
火星特有の赤い大地に、所々草花が繁り、海洋生物のような影が見える。
更に経つと、殻付きのタコが映る。水管からジェット噴射して突っ込んでくる貝を、石を投げて衝突事故を起こし、砕けつつも動く貝を掴んで捕食していく。
「なんだコレは……」
タコは数を増やし、貝やエビのような海洋生物も増えていく。
探査機が無事なのが不思議なくらい、海の洗礼は苛烈だった。
ゆっくりと探査機が動いているのか、映像も徐々に動く。陸地に向かっているようだ。
尚もシャコのパンチを繰り出すエビのような生き物、砂利まじりのウォーター・カッターを繰り出す二枚貝。
それらを殻にこもったタコが受け止め、触腕と触手を鞭の如く振るい、シャコのようなエビの拳を手首からもぎ取る。貝の攻撃後の隙を狙いすましたかのような動きで、水管を圧迫して自爆させてしまう。ホースを圧迫させると、根元から外れることがあるので、その応用として、水管の根元が水圧に耐えきれずに貝は自壊したのだ。
「……守ってる?」
やがて陸地に着くと、タコ達はなだらかな崖をよじ登っていく。探査機も押されて、または引っ張られて登る。
クッションが引っ込み、車輪が出て探査機が自由に動けるようになっても、タコ達が四方を囲んで抜け出せない。
海からの攻撃がいつの間にか止み、しばらくタコによる護送で移動していく。
「なっ!? に、人間!?」
「い、いえ、映像を良く見て下さい。この探査機の前にいるのは、アンドロイドです!!」
騒然となるNASAの指令室。
「…………コレで良し。ご苦労様でした、オムリン。およびそのパーティー一行の方々」
探査機の集音装置がアンドロイドの声を拾う。
(お安い御用だぞ、ブルボン)
タコの声らしき音声のようなモノも拾ったようだ。職員達の正気度が削られる。
(ちょっと遠かっただけで、貝やエビは行き掛けの駄賃だしな)
(間に合って良かったね。タイミングが悪かったら壊れてたよコレ)
「マスターもお喜びになるでしょう。こちら、報酬のニシンパイです」
探査機のカメラに、スターゲイザーパイが映る。職員の何人かは立て続けに起こる事態に処理落ちし、SAN値がヤバくなった。
唐突にお出しされるパイ、それを食べる殻付きのタコ達。器用に切り分けて、タコ達はそれぞれを足の奥にある口へと運ぶ。
「履帯付きの車輪では泥が詰まるので、マスターからいただいた、擬人化の薬を使ってみましょう」
ブルボンと呼ばれたアンドロイドが、小瓶をポシェットから取り出して、探査機に振りかける。
煙に包まれ、映像が暗転。
数秒後、暗転から一転、視界はクリアになった。
単眼、いわゆる一つ目の男性。いやこれ、映画泥棒とか、頭部をザ〇にした青年プラモが近いな。カメラレンズじゃなくて、ザ〇っぽいモノアイだし。
「なんでやっ! 聖なるクソ!」
ブルボンが手鏡で、どう探査機が擬人化したかを確認させると、NASAの主任が毒づく。モノアイはお気に召さなかった様子。
ガンダ〇のようなツイン・アイが良かったのか。
「着いてきて下さい」
ブルボンが先導して歩くと、オムリン達も歩き、這い寄る? とにかく、アンモナ〇トのように歩く。
スリーマンセルでたらいを殻に載せて。
それが三つ、擬人化した探査機が個体名はサイクロプスとなり、アロー陣形で護送と囲みが完了している。
オムリンはブルボンが腕に抱えており、法螺貝の音真似をブルボンがしつつ、メトロノームのように触手を振っていた。




