越冬
ブルボンによる武力介入後、コボルト達はオムリンを見かけると逃げ出すようになった。
ゴブリンはまた細々と生活していく。リーダーは謀反により失脚し、海へと追放された。
「くそっ! テメーら覚えてやがれよ!」
捨て台詞を吐くも、リーダーの悪運はここまで。
モンスターですらない海洋生物に群がられ、超攻撃的な貝やエビに始末された。
通常であれば攻撃的ではないが、ここは火星。地球とは違って狩りの際は、待ちに徹すると死んでしまう。
「俺が新しいリーダーだ! 芋を増やす。メスは子供を産む。勝手に芋を食う奴は殺す!」
「なんだテメー、そんなのに従えるか!?」
「芋ならいっぱいある! 無ければ奪えばいい!」
「海に落とすぞ!!」
前リーダーの断末魔がリフレインする。
ゴブリン達は新しいリーダーに従うことにした。
しかし、新リーダーの拙い内政も、火星の季節や天候の前ではムダだった。
季節でいうと冬が地球より長い。夏も長いが、ゴブリンは暑さには強い。
だが、火星の冬は地球、ひいては異世界の冬よりも強烈な寒波を伴う。
いうなれば、真の冬将軍。
地球の冬将軍よりも強大で、苛烈、無慈悲。
一部の海は中まで凍りつく。大陸も氷に覆われていき、それは火星の七割が凍結の憂き目に合うのだ。
例外は極点と天気が張った結界内のみ。
ほとんどの海洋生物は深海にて雌伏の時を待つ。遅れたものは問答無用でコールド・スリープ。二分の一で復活出来るのは、悪くない賭けに思えるが、凍ったら砕ける事があるので、実際には解凍まで持たないためほぼ即死である。
しかも何気に、はじめての氷河期な状況だ。海中では時間加速により冬を経験した個体が皆無だった。
火星タコ達に大自然が牙を向く。
一方でオムリンとその仲間達は、天気が作ったプールの中で過ごしている。
エサはジェット移動貝や辻切りエビ、海藻を別のプールで養殖して、回復魔法や治癒の魔術で極力死なせないように管理していく。
生かさず殺さずの養殖なので、天然物よりは活きが良くない。
オムリン達には不評だが、冬眠しなくてもすむ環境と天秤に掛けられると、食えるだけマシで、解凍の不運を引かなくても生存できるのは大きい。
また、たまにアサリの貝柱付き貝殻や魚の骨を、両方のプールに投棄する。そして海の水を定期的に入れ換えたりもしている。
凍っているのでゴブリンの一部隊が海上に進出する。
穴を掘って吹雪をしのぐも、大半が凍死する。氷を掘る最中に指先の骨折や、爪が剥がれて凍傷になり、削った氷を食べることで脱水を引き起こす。
海水を飲むと塩分の過剰摂取による、細胞のと海水の浸透圧の違いで、体内の水分が抜けて脱水し、塩分の過剰摂取となるのだ。
干し肉や干し魚を作る時に塩を大量に使うことで、肉の中の水分が抜けるのと同じ理屈である。
あと、春になると氷が海に戻るので、出張した生き残りのゴブリン達は魚のエサとなってしまう。
大自然の前にはゴブリンといえど無力だ。
コボルトは寒さに強い。強いが、それは自然の中で準備が、きちんと出来ていたらの話である。
火星の冬将軍の前に、コボルトは身を寄せ合うしか出来ない。
薪が足りないのだ。流木、抜毛、ゴブリンの革、燃やせるモノは全て燃やした。それでも冬を越せないようだ。
火星は生物が住める環境とは言い難い。地球や異世界より厳しい。
押しくらまんじゅうで女子供を優先的に暖める。冬将軍が外周部のコボルトのオスを凍死させた。
翌日、悲しみに暮れる暇もなく、解体されて不要な部分が火にくべられる。それでも寒い。一向に暖まらない。
朝と昼はゴブリンも動く。夜は冬将軍が猛威を振るい、仲間の命の灯をあっさりと消す。
夜でも元気なのはオートマトンのブルボンと、たまにやってくる人間だけ。
おそらくは魔術かナニか。冬将軍すらワンパンで霧散せしめる火力だった。
火星の冬が終わり、冬将軍が泥将軍へと姿を変える。
海が次第に溶け、ゴブリン達は別大陸を視界に入れながら溺死していく。
コボルト達は採掘速度を上げ、地下をより深く掘っていく。泥濘である今、余計な土砂を取り除くチャンスだ。
壁に近いコボルトから死んだので、余裕がある間取りと換気を備えたシェルターを築く必要がある。
前のは狭かった。火を囲むと酸欠で死にかけたりもした。
まだまだ備えが、環境と地形への判断材料が足りない。
オートマトンが持ち込む鉄と薪、ジャガイモだけではムリだという事は分かった。
「埋蔵金、もっと深く掘らないと無いか……」
「鉄パイプを増産して、暖房設備を作って、熱を各部屋に巡らせる」
「全部、この設計図通りに作る必要があるな」
「難じいよぉおお! 魔法を使えるようにじだ方が早いよぉお!!」
ブルボンからもたらされた設計図を元に、簡単な暖房器具を鍛冶で作るのだ。
簡易な換気扇を粗大ゴミを組み合わせて作り、換気扇と鉄パイプと薪ストーブを連結させる。
燃焼させた煙と熱が鉄パイプを伝わるので、排気口もいくつか空けて、ネズミや虫が入らないように、あるいはゴブリンがその周辺を陣取ることが無いようにする必要がある。
抑止力の積み立てが難しい。相手はゴブリン。考えなしに突っ込んでくる。何度でも、数で襲う。
単純故に厄介極まりないのだ。
魔法による罠と物理的な罠もいる。探知魔法に結界魔法だけでは脆弱だし、使えるコボルトの負担も大きい。
ゴブリンだってゴブリン・マジシャンへと至る奴がでてくるだろう。
後手に回ってからでは遅い。
チケゾーは今日も泣きながら指示を出す。




