ゴブリンの艱難辛苦
気が付いたゴブリン達は、周辺を警戒し、敵らしい敵がいないことに歓喜した。
コボルトなんぞ敵には入らない。数で押せばメスを拐える。
草がないのが気になるが、地面を掘って潜れるならそれでいい。
奪って、盗んで、獲物をいたぶる。メスは種付けして孕ませ、死ぬまで苗床にする。
しかし、コボルトの警戒網は手強かった。
ハラスメント攻撃やフェイントにも対応されてしまう。
それでも何とかメスを拐う事に成功し、リーダーから順番に種付けをしていく。
祝勝会が終わる頃には、メスは何の反応もしなかったが、まだ死んではいない。
ある日、人間のメスが歩いていたので、三体で同時に襲い掛かるも、全滅したとの報告が来た。遠くでたまたま別の偵察部隊が見ていたようだ。
「ほう。なんて強いメスだ。きっと強いゴブリンを生むに違いない!」
「ですが、そのメスは結界が張られている場所に逃げ込みました」
「ならばそのエリアを見張れ! メスが出て来たところを攻めろ!」
彩華を狙ったゴブリンが、十体ほど死んだ。
次にブルボンを狙うも、オムリン達と一緒に居たので、火星タコに四肢をもがれてしまう。
さらにコボルトによって三体が死ぬ。
天気を襲って、七体のゴブリンが肥料にされた。
あっという間に、残りはリーダーとオス五体、メス一体、拐ったコボルトの腹とメスの腹に、それぞれ五体のゴブリンがいる程度。
ゴブリンは多産だ。メスは三から五体の赤子を産む。しかも成長が早く、三日で交尾が可能となる。
妊娠期間は驚異の一日間。他種族とのハーフは生まれないが、他種族の腹を借りて増える際も妊娠期間は一日だ。
近親相姦しても遺伝的疾患とかはない。
生まれてすぐに砂や草、土を食べて成長する。育児期間は仲間の狩りを見て覚え、実戦で生き残った奴が次の手本となるスタイル。
成体になっても雑草に土や虫、ネズミを主に食べる。なんなら石ころも食べるし、歯が欠けても顎の力で砕く。
雑菌まみれの皮膚に、糞尿で汚れた下半身、血も毒素を含むので、肉はどう処理してもマズイ。
土や石すら溶かす胃袋を持ち、大抵の毒は効かない肝臓、素早く栄養を吸収し、便として出す。腸内も毒素が多いので、便として出した土や石の残留物も汚染されていく。
その為、その自ら出したブツを得物に塗り付けることで、即席の毒の付与が可能だ。
だが、死ぬと体内の毒は内包していた魔力と反応して無害化する。水とたんぱく質に分解され、そのたんぱく質は皮膚の微生物がさらに分解と増殖、死滅して土や砂に拡散される。
なので、ゴブリンの死体は肥料となるのだ。
魔石がそのまま残っていても、分解と魔力の拡散が起こる。虫が死体周辺を食えば異常個体となり、ネズミが魔石を食えば魔石のような結石を体内に宿す。
クソは時間と共に微生物が分解して、無害な糞となる。
食糧が無ければクソのようなナニかを食う。また、同族の弱い奴を殺して食べる。
極めつけは、オスだけで他種族のメスが居ない状況になると、一部のオスがメスに性転換する。
魚にもそういう生態を持つ種がいる。
また、一体だけで他種族が居ない場合、単為生殖で増えるとか。
だから全滅させるのが難しい。
根絶するなら一体残らず殺すしかなく、洞窟とかにわざと追い立てて、酸欠になるまで耐えるしかないだろう。
わりとシャレにならない生態をしているので、小国程度ならゴブリンのスタンピードで亡国となる。
ただ、天気の前世の世界では、こんなモンスターが雑魚として蹴散らされる。
再生、増殖、悪食、環境適応力、ストレス耐性等を有している。学習能力もそこそこ高いが、文明の維持や発明、技術継承が出来ないから略奪がデフォとなり、最終的には無手での物量になるので、魔法使いや魔術師からすればいい的だ。
ゴブリンに負ける魔法使いは、基礎が出来ていない。魔力が足りていない。状況判断、未来予測、マルチタスクが出来ていないと評価される。
本や杖ではなく、槍を持って戦う方が生き残れるだろう。
生まれたゴブリンの赤子は、無警戒に海辺へと向かう。ゴブリンのメスやコボルトのメスはそれを止めない。
広く、薄く、一体でも多く生き延びることで、後続のゴブリンの行動範囲は広がるからだ。
まぁ、海辺には火星に適応した野生の二枚貝やエビとカニのハーフみたいな、高速で泳いで辻切りしてくる魚がいる。
管を使ってジェット噴射で高速移動したり、砂まじりのウォーター・カッターを放つ二枚貝だっている。
ゴブリンの赤子達は海辺にて水死体となった。野生の水棲生物に群がられて、すぐに痕跡もなくなる。
こんな貝やエビをオムリン達は主食としているので、海中ではゴブリン・マジシャンやゴブリン・マリン(海兵)でも勝てない。
水上に出るには木材がいる。だが、木製の船やイカダは沈むだろう。
鉄はまだ無い。いや、鋼鉄の船でもスクリューをやられると身動きが出来なくなるので、たぶん負けるかもしれない。
「赤子が居ない? また産めばいい!」
「食べ物が足りない? 土や石を食えばいい! コボルトは食えない? ……コボルトから奪えばいい! おい、盗ってきてやれ!」
コボルトの住みかに向かうと、途中でゴブリンは緑色の芋らしきモノを発見する。
食い物と思い、小さな芋を頬張る。うまい。
近くにはまだある。他のゴブリンも食っている。
ゴブリンはそれを持って帰り、コボルトのメスに渡した。
コボルトのメスは他にないのでそれを食べる。
正体は緑色に変色したジャガイモだ。人間には毒となるので、犬や猫にも食べさせてはいけない。
ただし、種芋にはなる。その芋を植えれば発芽して、その芋の周りには普通のジャガイモが出来る。
日光に当たると防衛反応として毒を持つようになるのだ。なので土寄せ、或いは遮光すれば変色は抑えられる。
コボルトのメスは嘔吐と下痢に苦しみつつ、ゴブリンを産んで死んでしまった。
ゴブリンの赤子は母親であるコボルトを食って育つ。成体のゴブリンも食う。
メスが増えた。ゴブリン達は喜び、姫サーのように貢いで成長を促す。
それから、ゴブリン達は変色した芋を食べては交尾するを繰り返し、一気に増殖した。
その数、二百体。たった数日でコボルトを上回った。
今こそ物量で攻めるとき! 戦いは数だよ兄弟! オスは殺せ! メスは犯せ!
ゴブリンの烏合の軍隊がコボルトの住みかへ攻め寄る。
決死の覚悟で槍を、弓矢を、剣を手に取り、コボルト達は石垣に飛び乗ってチノ=リを得る。
激突まで秒読みとなった瞬間、どこからか法螺貝を吹く音が聞こえてきた。
「ブォオオオ……ブォオオオ!」
(自分は本当にこの位置でいいのか……?)
オムリンを顔付近まで持ち上げ、法螺貝の代わりにして、口から法螺貝の音色を出すブルボン。別にオムリンとキスしているのではなく、オムリンの背中、尻? とにかく、オムリンは正面を向いているだけだ。
「オムリンのパーティーへ突撃を指示します。各部隊はゴブリンへ攻撃して下さい。逃げる者は追わなくていいです。マスターが追撃いたしますので」
オムリンを殻にこもらせ、ゴブリンの一団へと全力投球する。相手のゴールへシュート! 超! エキサイティング!
更にオムリンの別パーティーが殻にこもって転がってくる為、ブルボンは立て続けに投げていく。
オムリン達が衝突すると、ひき肉に変わるゴブリン達。
殻から触腕を出して、ゴブリンの息子を握り潰す。手足をもぐ。尻から触手を突き入れ、腸を引きずり出す。
別の火星タコも殻にこもった仲間を転がしては、触腕でゴブリンの手足を引っ張り転倒させていく。
耳、鼻、指先と比較的脆弱な部分を引っ張りつつ、触手で巻き付けて力ずくで切断。ゴブリンは痛みでのたうち回るしかない。
阿鼻叫喚の地獄絵図だった。
戦闘後、コボルト達は恐怖した。ゴブリン達はほとんどが死に絶えた。オムリン達は腹が満ちた。天気は火星の土壌改善に成功した。




