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現代魔術師の暇潰し  作者: 元音ヴェル
惑星魔改造(SF)
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剛よく柔を断つ、柔よく剛を制す

 鍛えていない人間は、アスリートに勝てない。

 だが、負けない事は可能なはず。

 サトノのお嬢様と一線を超えて以来、ボクの説得も虚しく、彼女のチカラに押しきられてしまう事が多い。

 ボクと度々そんな事をしていると、周りに知られたら、彼女の評判が落ちてしまうだろう。

 そこでボクは体を鍛え、勝てないなりに、負けないようにする事を決意した。


「これからはボクも、一緒にトレーニングするよ」


 ある練習の日、ボクは隣のチェストプレスマシンに座った。

 負荷25キロから始める。大学以来、お嬢様と一緒に軽く走る事はあったが、本格的に鍛えてはいなかった為、これでもキツい重さだ。

 鈍っている、錆び付いている。しかし、始まりとは大体そんなものだろう。

 こうしてボクの基礎体力作りが始まった。

 また、ある日にはランニングマシンで、隣の彼女と並走する。


「これならお互いを励まし合いながら、一緒に走れますね!」


 という、お嬢様からの提案だ。ワルくない。

 ワルくないが、もうムリと泣き言を吐いたボクへ、そう言って五分は続けられます。と、どこぞの哲学する柔術家の如きシゴキは無いよ……。

 普段のトレーニングに不満があるのか、夜のトレーニングに不満があるのか。これが分からない。


 ある休日、図書室に赴いていた。

 今日はお嬢様とは別行動で、一人で来ている。

 ボクが基礎体力作りをしている真の目的は、護身用の武術を覚え、お嬢様がルパン〇世並みのダイブをしてきたとしても、それをいなして抑え込む為である。

 まぁ、女性がダイブなんてする事は無いが。


 いかにチカラが強いというか、フィジカル面で優位なアスリートといえど、武術も身につけていない女性であり、彼女達が強引にチカラ押ししようと、技をもってすれば勝つ事は出来ずとも、負けない事は出来るだろう。

 そしてその隙に、冷静さを取り戻させるという作戦だ。


 そんなこんなで、図書室にてお目当ての武術ハウツー本を探すこと四十分ほど。

 体育コーナーにはなかったが、なんとトレーナー教本コーナーに数冊存在した。

 ちょっと司書さん、しっかり整頓して下さいよ。その英雄譚の本は暇潰しのヤツなんですか?


 キッ!!! 司書の横にいた図書委員から睨まれる。コッワ!?

 ……スミマセン。


 やはりアスリート達よりも、トレーナーの方が必要とされているという事だろうか。


 空手、柔術、ツボ押し神拳、古武術大全。

 種類はそんなに無いといえど、ここから更に絞っていく。

 空手と古武術はやめておこう。

 何故ならボクは、サトノのお嬢様を傷つけたい訳ではないから。

 ……サトノのお嬢様へ手をあげたら、闇討ちもあり得るし。

 選んだのは、ツボ押し神拳と柔術。

 昼はお嬢様をトレーニングしながら、ボクも筋トレを行う。夜は教本と指南書を読みながら、部屋で自主トレの日々。


 そんなある晩、お嬢様がボクの家にやって来た。

 彼女が外泊届けの書類を寮長に出して、合法的、規律的? 規則的か? ともかく、一泊二日の準備をして、ボクの家へ押し掛けてくる事は、今や珍しくない。

 大抵はそのままいい雰囲気になって、夜をともにして翌朝一緒に登校する。そして友人に囲まれてしまう。

 その夜も、一緒に夕食を摂り、風呂に入ったお嬢様がパジャマ姿のまま部屋に来た。


「今日は夜遅くまで勉強するから、一緒には寝れないんだ」


「えー! そんなぁ……」


 お嬢様は両腕を振って抗議する。ここで不必要に会話を打ち切ると、きっとチカラ付くで色々されてしまうだろう。


「君のためなんだ」


 彼女の手を握り、目線を合わせて、瞳を見て伝える。真剣に伝えればきっと気持ちは通じる、はず。

 そう思い頼み込むと、不満げながらか顔そらしつつも、分かってくれたようで、その晩は大人しく客室で寝てくれた。


 それからお嬢様はボクの家に泊まりに来ても、誘ってこないばかりか、ボクの勉強を応援してくれるようになった。


「お勉強、頑張って下さいね。私もテスト勉強しますから」


 そう言って、教科書とノート、ココアを入れたマグカップを持って、お嬢様が部屋にやってくる。

 軽く礼を伝え、ボクはココアを軽く一口すすると、再び指南書に書かれた、ツボの位置を頭に思い浮かべながら、両手の人差し指と中指で、突き技の練習を再開した。

 気を指先に集中させ、窓の外から見える木の枝の、風に揺れる木葉に向かって突きを繰り出す。

 神拳の技には、世紀末覇王の呼吸、覇王色の気、一万回の感謝の波紋突きと、呼び方は色々ある。

 ある時、木葉が枝から離れて宙に舞った。遂に完成したようだ……。


 またある日、ノック音がして、お嬢様が入室の許可を求める。許可すると、今日もマグカップを持ってきてくれていた。

 礼を言って受け取ると、お嬢様はそのままボクのベッドに腰掛けて、足を揺らしている。

 パジャマ姿の彼女は、伸びをしたり、足を揺らして遊んだり、時折こちらを見てニコニコしている。……遂に来たか!

 彼女が客室に戻らず、ボクの寝室に居座る理由はただ一つ、今宵彼女は餓えているのだ。


 この日の為に鍛え上げたボクの技、見せてやろう。いや、あのネタ的に言うなら、そんなにボクのチカラが見たいのか……! (トマホークの照準を覗く)

 ボクは指南書をそっ閉じし、服を掴まれる事がないように、また、破かれる事がないよう、シャツを脱いでいく。

 ベッドに座るお嬢様の前に、上半身裸で仁王立ちすると、彼女は立ち上がり、ボクの胸板へ触れた。


 先手必勝! 両手の指先に気を集中させ、人体が眠りに入りやすくなるツボへ向けて、シンボリ北斗(シリウス)神拳の南斗突きを繰り出す!


「あっ!?」


 ボクの指先はツボを押し込む前に、大きな乳房の弾力によって弾かれてしまった。

 なんて事だ。ほぼゼロ距離なのもあるが、お嬢様が巨乳なのを失念していた。

 メジロ家の野球のお嬢様ならキマっていたのに!

 ならば次! 絞め技!

 すかさずボクは右腕でお嬢様の肩を抱き、左腕で両足を抱き込むと、そのままベッドに倒れ込んで、彼女をホールドする。

 彼女が丸まるように抑え込み、傷つけないように柔らかなベッドに押し付け、チカラの入らない体勢を維持するのだ。


「今夜は積極的なんですね」


 完全に決まったホールドを、猫のじゃれつきのように、気にもしていないような声。

 彼女は優しくボクの頬にキスすると、いとも容易くボクの腕を剥がして、一瞬でマウント・ポジションを取り返していく。


「嬉しいです。私も我慢しないでイキますからね。今まで焦らされた分も含めて……」


 そんな……。圧倒的なチカラの前には絞め技など意味もないのか。

 最初にツボを押す事に失敗した時点で、負け確定だったのか。

 ボクがやって来た鍛練とは……。何の意味も……。




 ベッドで跳ねる可憐なアスリートを前に、ボクは最後の抵抗をしていた。

 ボクが耐えれば、何も出さずに、彼女が疲れて眠るか気絶するまで、なんとか耐えきれば……ボクの勝ち!


「ふふっ。人は苦痛には耐えられますけど、快楽には勝てませんよ?」


 電撃を浴びせて笑わせる拷問の事か……!


「あっ。久しぶりだから……!」


 即落ち2コマかな? 煽っておいてその(てい)たらくは、ちょっとギャップ萌えするけどさ。


「ざぁこ、ざぁこ。お嬢様チョロすぎない?」


「……ココア飲みましたよね? サトノ特製のヤツをまぜておいたので、朝までコースしましょうね」(ハイライト消失)


 そ、その為の差し入れ!? 抵抗なく、疑問に思わせないように、確実に飲ませるべく?!


「待って、明日は金曜なんだ! 徹夜は勘弁して下さい!」


「土日も徹夜して連勤しましょうね。錬金だけに赤ちゃんが出来るかも?」


「笑えなーーあっ、その動きはらめぇ!?」


「これはトレーナーさんが鍛えたと言っても過言ではない、インナー・マッスル! とくと味わって下さい!」


「うぅっ。しかし、このリズムは知ってる! 1、2。1、2。二拍子なら、この間隔をズラせば……」


「甘いです。ほらほら、遠慮は要りませんよ! もっと存分に御賞味あれ!」


「三拍子、いや五拍子? 違う。三、三、七拍子……あ、ちょっと待って?!」


「がんばれ♪ がんばれ♪」


 …………完徹した、太陽が黄色い。気絶すらさせて貰えなかった。

 お嬢様は絶好調のようだ。同じく完徹してるはずなのに……。

 ボクより運動量がはるかに多いはずなのに……。

 ※トレーナーは忘れているが、サトノのお嬢様は、全身が心臓と同じピンク色の筋肉になっている。

 並大抵のアスリートより、フィジカルは上だ。とは言えども、鉄球を握力だけで圧縮は出来ないが。

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