メジロ本家主催のパーティー
天気達はベルの招待で、上流階級のパーティーに参加する事となった。
「フラグは建てすぎると折れるって言うじゃん?」
「折れなかったわね。三本の矢も折れるっていうのに」
一本の矢も三本にまとめれば折れないらしい。ゲームでは三本の矢をへし折ってたりするので、所詮は矢である。
木製じゃなくて鉄製なら、いや、あの連中だと曲げてネジ切るか……。
「料理って食べていいの?」
「マナーを見られる。食べ方で格付けも決まる。壁の花が楽にやり過ごせるよ」
リノの問いに天気は、食べるなと念を押す。
フリじゃなくて、マジで食べると良くない。
料理は本物だが、全て蝋で作られた食品サンプルと思った方が良い。
言い方は悪いが、皇族の予備とも目される、華族ですらパーティーの料理は口にしない。
何かあったらお互いに困るから。
料理を口にして倒れたら、主催者が余所から攻撃されるし。倒れた華族の一人は面汚しとして、家の者から責められる。
酷い言い方となるが、予備が倒れるのは、予備の役割ではないのだ。
皇族に男子がいなくなった時、血縁である華族の男系が養子となる。故に予備となる。
マスコミや政治家がなんと言おうと、男系でなくなった天皇陛下。女系天皇に価値は無い。
現実的に他の王族と同列になったら、敬われなくなる。
中東のサウジアラビアですら、男系を保っている日本の皇族を一目おいているが、女系天皇となった場合、石油の価格を跳ね上げるだろう。
余所の国々が敬っているから、即位式に大勢の王族や関係者が集まる。
男系故に、中国の国家主席ですら、天皇陛下へ電話を掛ける。
これは女系になってから気付いても遅い話だ。
冗談半分と笑っていられるのも、本当に今のうち。
食べるのはダメだが、料理に手を伸ばして、キープするのは許される。
話題の一つとして、会話の糸口に使えるからだ。
この料理は何々の特産品で、〇〇県が主に~、この〇〇県にはあの上級国民が~。的な会話に転がしていく。
まぁ、上級国民とは言わないが、例文なので悪しからず。
医療ドラマで患者さんをクランケと言う事は、実際にはしないし。
彩華もそれが分かっているので、適当にキープしているだけだ。
例外として、シャンパンやジュースは飲んでもいい。断食パーティーじゃないので。
シャンパンを飲み過ぎて、他人に絡むアホが出る事もあるが、そういう輩は爪弾きされている事を自覚していないだけ。
呼ばれてもいないのに押し掛けて来たパターンと、渋々、嫌々ながら呼ばれただけの数合わせなパターン。あとは、主催者の贔屓だったり、わざと悪目立ちさせるのが目的のピエロである。
基本的に月に一回のパーティーで、大体の交流は済むし、情報交換や親睦を深めるのが主目的なら、個人間でやり取りするものだ。
見せびらかしても鼻につく。他人の自慢話を聞くなんて、拷問じみた無意味な時間は無い。
「弟君、もう少し右に」
「おっと、つい彩華の側に寄っちゃうね」
「ご主人様、しっかりして下さい」
「お義兄ちゃん、教えはどうした教えは?」
「シラオキ様っ……」
リノにジト目で詰め寄られ、マチカネ語を呟く天気。
パーティーはまだ始まったばかりなのに、もう疲れてきた気がする。
パーティーに出される料理は、基本的にメイド達が持ち帰るか、スタッフが食べるので、食品ロスはあまり出ない。
中世ナーロッパの小説では良く食べているが、ホストである主催者ですら口にするのは水のみ。
誰が毒を仕込んだか分からない。料理人を信頼していても食器やカトラリーに毒を塗る事もある。
仕〇て屋工房というマンガでは、出した料理を口にした人々が、毒で死んだりしたので、その事がトラウマになったキャラもいたし。
ちなみにイチゴ風味の塩は、料理人に差し入れとして贈っただけで、このパーティーでは話題にも挙がらない。
食べる人しか理解出来ないが、そもそも食べるのがマナー違反となるなら、売り込みとしてはダメな部類だろう。
まぁ、きちんとしたプレゼンがしたいなら、外堀と内堀を埋めていくだけである。
料理人が雇い主に報告するかは知らない。報告したとして、雇い主の興味を引けないのであれば、無意味に等しいのだから。
パーティーが終わったメジロ家の屋敷にて。
「それで、分家のベルに付いたトレーナーは、調べがついたかしら?」
メジロ家本家をまとめ上げる妙齢の女性へ、執事長、部下の使用人、メイド長が対面している。
「はっ! 生家と住んでいる家は違いますが、彼等は庶民です」
「庶民? なら、あの社交界での古いマナーは勉強したと? 一流の家でもたまに引っ掛かる子がいるし、成り上がりの当代の子は、ほとんどが引っ掛かる。暗黙のマナーを庶民が知っていると、図書館に参考文献なんてあったかしら」
「おそらく、男系、女系について調べた際、華族の振る舞いに目を通したのかと」
「あぁ。それで手を付ける事をしなかったの。……付け焼き刃であれ、それが出来る裏は取れたかしら?」
「いいえ。子供にも家にも近寄れません。従って表面のみしか調べられませんでした」
「……見たところ隙だらけで、他の方とも会話していたようだけれど?」
「あれはワザとです。釣り野伏せに近い罠でした」
「……ほぉ。しかしベルを危険にさらすのはいただけない」
「当主様、守りは硬いです。隙をさらしているのは、こちらが襲い掛かる都合上、向こうにまとめて刈り取られても、誰にも気付かれません」
暗殺は目撃者を出さないのが理想だ。
爆発は派手で死体確認も難しくなる。毒殺はターゲット以外も巻き添えにする。銃殺は音と弾痕でバレる。
確実なのは刺殺。次点で拉致して安全なホームで始末する事。
だが、刺殺は近付く必要があり、返り討ちに合いやすい。
自分達が殺す、拐うのに都合が良いとなると、相手も全力で消しに来る。
また、斥候と暗殺は相手の抵抗に弱いので、一撃離脱が基本となる。
「ヒットマンが男の子の後ろと真上を、メイドが側面を警戒しています。常に男の子と狩人たる義妹君の二人一組、かつ、壁やテーブルの近くにいます」
「ベルは?」
「向こうの影が守ると踏んで、メイドとヒットマンが男の子を守り、狩人が盾となる状況です。ベルお嬢様は最初から囮のようです」
「無理に近付くと警告の殺気が飛んで来ます。家は母親がご在宅でしたが、あの方にも近寄れません。死の気配が漂ってます」
「……あと、我々は監視されています」
使用人の言葉に、当主は耳を疑う。
「ご当主様、上をご覧下さい」
メイド長の言葉に、上へと視線を向ける。
「何も異常はないわよ……?」
視線を戻すと、使用人の首から上が無い。出血もしていない、キレイな切断面だった。
「心臓の抜き取りと首の切断が、同時に行われております」
死体となった使用人を見ても、冷淡に執事長は話す。
「窓の外、一番近い街路樹の樹上には、狩人が配置されています。ギリー・スーツで視認性も低く、夜間という暗さでも、向こうの矢はこちらまで壁を抜いて届きます」
執事長に続きメイド長も報告する。
「挙げ句の果てに、こちらの影も捕捉されています。カウンターも儘ならない状況です」
部屋の向こうから人の気配が消えた。
「地上最強の生物だと、言いたいのかしら?」
当主はただ気丈に振る舞う。人死にはたまにあるから、イヤでも慣れてしまう。
だが、ここまで一方的なのは有り得なかったし、今までも無かった。
「狩人は影と目が合っても、一瞥するだけで、歯牙にもかけてません」
「私は誰とも敵対していないのだが……」
「探るだけでも、敵対と見なされる事がございます。だから影やスパイが、こっそりと調べるのです。表向きは探偵、裏はCIAがソレに当たりますが……」
メイドが使用人の死体を片付けているのを見やるメイド長。
バレれば消されるか、拷問や尋問で情報を抜かれる。
ここは限られた人しか来ない。
戦闘力を誇示するには向かないが、室内の全員を消してもバレにくい事でもある。
警告で済む内は怯えるだけの余裕があるも、錯乱するギリギリで止めてくれるだけの温情に気付かないと、今度こそ死ぬ。
「……聖書片手に宣誓でもしろと?」
「その必要はありません」
聞き慣れない声が聞こえるも、当主は見渡したりはしない。
下手に動けば耳を落とされるだろうから。
「では、警告と言う事で合っているかしら?」
「そう捉えても構いませんが、全てはご主人様の実心のままに」
勝手な解釈で主人の胸の内を計り、心を乱す不安要素を取り除くべく行動する。
当主はその返答を聞いて愕然とした。何でも出来る鉄砲玉に狙われたら、命乞いすら蹴って撃たれるのだから。
「……そう、あなたのご主人様へ、よしなに頼みます」
「えぇ。私は殺し屋ではありませんから、殺戮がしたい訳ではないのです。以後、お見知り置き下さい」
声が小さくなっていく。
おそらく、離れたのだろう。
「……狩人が撤退したそうです」
「ベルは一体ナニと契約したの。刺激したら私達以外も族滅しかねないわね……」
「……分家へはどう返事を?」
「問題無し。これしか無いでしょう」
見極めるつもりが、命を握られてはどうしようもない。
立場がハッキリしただけマシであろう。
権力も暴力も通用しない、真性の危険人物と接触したのは、果たして不幸中の幸いなのかどうか。
(ご主人様という男の子次第か……)




