海水を全部抜いてみた
「世界を滅ぼう」
「どうしたのご主人様。魔王みたいな事言って。話し聞こうか?」
「コホン。滅ぼすのは言いすぎたね。海の水を全部抜こうと思うんだ」
「魚とかは?」
「クジラとか魚とかは除外するよ」
収納魔法の発現場所をマリアナ海溝の底にして、世界から海を消す天気。
「海水を抜いてどうするの?」
「例えば人工の島を作っている連中とか、もっと調子に乗りそうじゃない?」
「質問に質問で返すなって、ジョ〇ョで予習してないの?」
「ごめんなさい。シー〇ェパードとか、大漁旗とかに難癖つける連中を、黙らせたいだけなんだよね」
「……等と犯人は供述しており」
「自供の録音はやめて……」
一日経ったら戻す。次は二日経ったら、その次は三日経ったら。
最終的には一週間海水を抜いておく。
全部で28日間は海水のみ収納する。負傷した魚やクラゲ、イルカ、クジラだらけとなる。
一日程度なら、たぶん、大丈夫。
だが、三日目はほとんどの海洋生物が死に絶えるたろう。
「北極や南極はどうするの?」
「氷は溶けるだろうね。でも、海岸沿いに結界を張るから、海水が増えても大丈夫だよ」
そのままだと海岸沿いから大きく水没してしまうから、大陸や島国は保護していく。
人工島や灯台は沈むけど。
海の水を抜くと、天候もおかしくなるだろう。短期間なら大丈夫だが、長期間となると水の奪い合いは、必ず起きる。
「前世では、月の裏側に塩の塊を次々と転位させて、海水の塩分濃度を徐々に下げていったりもしたね」
「ご主人様、鬼畜~」
おっと、核兵器を全部無力化しておかないと、世紀末になっちゃう。
彩華の集めたデータを元に、核の中身を収納していくか。
でも、隠してあるヤツもあるだろうから、探知魔法で核を察知したら、光速移動で接近して、ミサイルごと収納しよう。
通常兵器は放置でいいか。
既存の農作物や木々も枯れるけど、植物魔法や成長促進魔法を使えば、乾いた元海底の地面を農地として使えるので、食糧生産は即可能た。
海水のみなので、地下水と石油はそのまま残る。
油田やら石油がある付近は別の結界を張って、油の流出は防ぐ。
海底に染み込んでいた海水は残るので、塩もうっすらと残るはず。
地下水が出る場所は湖となるが、恐らく直ぐに枯渇する。
地下水がなくなったら、地盤沈下するので九州の熊本県とかは危ないかも。道路や土地がゆっくり沈むかどうかは未知数だが、井戸は使えなくなるのは間違いない。
海底火山がただの火山になったり、溶岩溜まりが海底だった地面に出来る事だろう。
山火事は消せないから、空気の乾燥はずっと続く。
そもそもまともに雨が降らない。日照りが当たり前となるだろう。
ザリガニも亀も死ぬ。海鳥も、シャチも、金魚も、ペンギンも死滅する。
漁師、コンテナ・タンカー、潜水艦、失業するから物流もしばらくは止まる。
仮に海底だった地面を固めて道路を作ったとしてもだ。天気が海を戻せば沈んでしまう。
物流網には空輸もあるが、天候が不安定になるし、航空機事故による火災が消せない状況となると、まともに空輸や海上輸送、鉄道も下手すると使えない。
強制的な自給自足に、海溝付近は死臭が漂うので、海岸沿いや島国の周辺は生臭いのが避けられない。
海に虫はいないので、自然による分解はかなり遅い。
川からの水はせき止められるので、虫や水の流れもなくなるだろう。
しかし、天気は全ての元凶であり、手元に大量の水を持つ。
魔術で天候すら操れるし、広大な太平洋と大西洋だった地面を、影分身を使って開墾しつつ農作物を植えて、近寄る軍隊や警察崩れの野盗を蹴散らしてしまえば、世界を牛耳れる。
ある程度農地にしたら、海水を上空千メートルの高さに、標高千メートルでもいいが、浮遊させて膜やら層とかのように固定していく。
地球を海水の層で包むようにすれば、日光が強まる場所と弱まる場所が出て、地上の鳥や動物達は発狂するかもしれない。
人間は環境適応力が高いので、生き残りは慣れる。少ない水を巡って争う以上、国家としては意味を成さない。
どこもが陸続きとなるので、地政学的ランド・パワーが強い軍隊が、弱いシー・パワーな国家を蹴散らす事だろう。
第三次世界大戦は陸と空がメインとなる。核が撃てない以上、火力が高すぎると火事となり、消火は絶望的なので焼夷弾やナパームは使えない。迫撃砲も威力が落とされてしまう。
戦車や自走砲は大陸内だったら使えるものの、海底だった地面では隆起した場所が多くて走れない。柔らかい地面だったら、海溝だった場所に落ちるか、流砂に呑まれるように沈んでいく。
暗礁は丈夫な岩だからと乗り上げても、下の地盤が脆いとかは良くあるのだ。
じゃあ何で船が難破やら暗礁に乗り上げて動けないかと言うと、海水が入ってくるから重くなるし、水圧やら浮力やらのバランスだったり、潮の流れによって暗礁から動けないとか、風上一杯に切り上がっていて裏帆を打つとかもある。
スクリューが破損したら、帆船技術で航海する事になるが、客船やタンカーは想定していないから漂流するしかない。
制空権の維持も難しい。落ちれば知らない土地、燃えてしまえばそれまで。
大西洋や太平洋の海底だった場所に墜落したら、生きて帰る事が出来ないだろう。
ほぼ異世界のような環境だ。水無し、塩無し、肉なし。
あるのは海溝だった段差や断崖絶壁、砂と岩の海底。
薄暗い海の層による日差しの強弱も激しく、時にはずっと曇っていたりもする。
人間は日光を浴びないと時間間隔が分からなくなり、暗闇に五分居るだけで精神が弱る。
押し入れに閉じ込められる躾と表した罰は、意外と高度な精神的虐待となりえるのだ。
真っ暗闇の中でも平気なのは、盲目の人くらいだろう。
いや、盲目にも二種類ある。何も見えない暗闇と、真っ白な光で何も見えない状態だ。
電球や太陽を見て目を瞑ると、光源の跡が網膜に焼き付いている事があるだろう。その光の跡がもっと強く、視界や視野の全面に残り続けるような状態だ。
人は強すぎる闇に勝てないが、強すぎる光にも勝てない。
海が無くなるだけで世界は様変わりする。
上空に海の層が出来ると、雨もまともに降らないので、水不足は極限状態となる。
台風も雪も雷も、空に浮かぶ海に吸い込まれていく。
ミサイルや高射砲、ICBMも海に当たると砕け散る。人工衛星やロケットもだ。
速度が出て大きなモノほど、水面がコンクリート並みの強度となる。小口径の拳銃弾は25メートルほど進む。水没した車のドアが開く水深も25メートルだとか。
ヒマラヤとか標高が千メートル以上の場所だけが、陸地といえる星だ。
まさに青い惑星、地球。いや、海王星が近いだろうか。
大気の酸素量が減ると、屈折率も下がり、宇宙から地球を見ると赤く見えるらしい。いや、アレは大気そのものが減っていたのだったか? ツヴァ〇の地球は赤いのは、海が少なかったような。今更倉庫の古本を漁るのも面倒なので、どうでもいいか。
海に大気を遮られても風は吹く。気圧の高低差、温度差で大気が動き、風となるので、海の下は緩やかで湿った風となり、海より上は普段より激しい風と雨が降る事だろう。
大気の層は変わらないが、海が浮いて地上は遠退いた関係で、風は上昇気流と下降気流が多くなり、分厚い雲が斑点のように出来る所もある。木星とかの台風が近い。
日光は雲と海水の層で届かないか、乱反射する事で、植物はあまり育たない。
富士山とかの、標高千メートル以上の地上は、日光が届くものの、塩気まじりの風と雨にさらされる。
木材は朽ちやすく、コンクリートは雷や風で劣化していく。
地下はカビと湿気で、人間以外の動物すら呼吸器系をやられてしまう。
ある程度の年月が経つと、天気達は火星をテラ・フォーミングして、地球とはオサラバする。
人類の取捨選択は、彩華やラビリスタに任せておけばいい。
「こんな感じで、人類を火星に移住させるよ」
「石器時代からの再スタートかぁ」
「牧場な物語的世界にも、徒競走が盛んな世界にも出来るよ」
「火星の半分を農地にして食糧生産しつつ、獣人的遺伝子操作な人類で、レースやスポーツをするんだね」
「獣人になれる魔法薬も量産して、材料も生産する。毎日飲み続けて、やがて獣人が当たり前となるようにしていくんだ」
宗教は三女神のヤツ。地球の人類は緩やかに科学技術が衰退し、人口も億単位を下回る。
概算で八十億は多すぎなのだ。魂の数も足りないだろうし、発達障害でも暮らせる医学と法律による、自然淘汰に抗った結果でもある。
現にこの日本のみならず、世界中がジェ〇イの農業プラント的な食糧生産体制だし。
それでも食品ロスはあるので、三女神宗教によるアスリート育成で、食べる事も必要としている。
そこに、海洋資源を守ろうとする組織が、こじつけででしゃばってきたり、環境問題やら二酸化炭素、地球温暖化を危惧する団体がロビー活動して、文化財にペンキを塗る愚行をする。
少数意見やら性別多様性を、訴える連中が政治介入して、オリンピックやらゲーム、アニメが引っ掻き回されたりもした。
それに天気が業を煮やして、海を抜いた。
しかし、人間は簡単には変わらない。
だから火星に移住して、地球と火星で住む人類を分ける事にした。
神の如き所業だが、それでも神様は現れない。徳や信仰が足りないのだから、仕方ないね。
「……うーん……うーん…………はっ!? ……夢か」
彩華は天気が、海の水を全部抜く悪夢を見た。
「ご主人様。海の水って抜かないわよね?」
「いきなり何。海なんて収納しても、置場所に困るじゃん。……テラフォーマーでもしろって? 火星でも占領する?」
「ゴキはちょっと……」
「アーマードな世界でも作る? ガンダ〇すら作れないのに?」
天気と言えど、ガンダ〇は作れない。ゴーレムをそれっぽく見せる事は可能だが、武装の再現は厳しい。ビームの連射や命中率の魔法陣がしんどいものになる。
ビーム・サー〇ルは比較的楽に作れるが、人型ロボットを飛ばすより、戦闘機にビームを搭載した方が効率的だ。
手足がデッド・ウェイト過ぎる。航空力学的にも邪魔過ぎる。
背面ブースターでかっ飛ばすぐらいなら、テレポートで転位しての圧殺が早い。
「ともかく、海だけは抜かんといて下さい」
「いいけど。ソレ、なんだっけ?」
「シ〇・エヴァ」
「妹さんの成長は衝撃的だったよね。あと、初号機をヴン〇ーに改造したんだと思ってたよ。あとから初号機が出て来たから、アレの素体は別にあったみたいだけど」
「集合体恐怖症には辛いよ。あと、リアル寄りだったから、顔のアップがちょっとキモかったし」
彩華は失念していた。塩の備蓄を天気がしている事を。
いずれ塩分濃度が下がる未来が来る。今よりも僅かに下がると、バタフライ効果で潮の流れが僅かに変わり、漁業の漁獲高に影響が出る事となる。
え、台湾や中国が獲ってるから今更? それは漁業組合もカウントしないらしいよ?
大丈夫、未来の技術では切り身の養殖が確立してるから、魚は切り身の状態で泳ぐものだ。攻殻じゃない、紅パンの世界だけど。
農業プラント作る世界なんだ、漁業プラントも作ってるさ。




