50億の祈りVS一人の魔術
ある日、天気は未来の光景を夢に見ていた。
この夢は、野球を始めてから二十年。三十歳頃の大人の姿だった。
日本野球からメジャーリーグへ移籍し、ノーヒットノーランを二十年続けてきた。
基本的に三振。ボール球一切無し。ファールも少なく、二回ファールになった打者は六人、一回だけでも二十三人しかいない。
打たれてもピッチャー・ライナーで、超人的反応速度によってキャッチし、バッターはアウトとなる。
日本の野球球団の試合のみならず、中学、高校でも、甲子園ですらノーヒットノーランを達成した。
当時は最初こそ騒がれたが、スカウトとかはなかった。
あまりにも現実離れしていたので、他のプロ野球選手のメンタルを考慮した結果だという。
まぁ、そんなものだろう。
しかし、野球にはメディアも絡む。
テレビ業界と球団関係者の圧力により、異例の措置として、セ・パ両球団の助っ人ピッチャーになった。
優勝したい球団、最下位だけは脱したい球団、そんな試合にのみ出て、必ずノーヒットノーランとなる。
打者としても優秀で、ヒット無し、全打席ホームラン。敬遠球すら打ってホームランにするので、一時期は物議となり炎上した。
盗塁こそ代走でやるが、走っても速い。
百メートルを十秒ジャストで走るので、一秒で十メートルは走れる。各塁間の距離は27・4メートル。
つまり、三秒あれば盗塁は必ず成功するのだ。
そんな三刀流の助っ人選手。
しばらくして、野球の本場メジャーリーグへと移籍した。
メジャーに行ってノーヒットノーランを連発し、複数の球団の助っ人ピッチャーとして契約をする。
英語は翻訳魔術で野次も丸分かりだ。
「日米通算で四桁のノーヒットノーラン。中学からも含めると、五桁に届くのではないかとの噂もあります」
「久野コールとブーイングが、双方から聞こえますね」
「スタジアムは満員、立ち見も出て、世界中に試合中継されてます。ようつべ等を含めて、五十億の視聴者がいるようです」
「久野選手は、基本的にストレートだけですからね。真っ直ぐが多いのに誰一人ヒットを打てず、ピッチャー・ライナーとなり、久野選手のグローブに吸い込まれ、アウトになります」
スタジアムのセンター、というか電光掲示板の真上に彩華が立ち、スマホのスピーカーから実況音声が流れる。
「ご主人様、頑張って~」
「打たれたら慰めてあげるからね~」
「負けてもいいんだぞ~」
影分身を使ってのチアリーディングと、高校野球の如く伴奏をして一人応援団をしていた。
「えー、久野選手の奥さんが掲示板の上で応援しているようです」
「相変わらずフリーダムですね……」
「負けろとか言ってるみたいですよ」
「妻が負けろって、そんな事ある?」
解説役が素に帰る放送事故があったものの、試合は終盤戦に差し掛かる。
「早いもので九回裏です」
「だいたい一時間で終わる試合なんて、少ないですからね」
「久野選手、時速160キロのストレート。ツーストライクです」
「投球が少ないとはいえ、球速が落ちないのも凄いですね」
メジャーリーガーを軒並み三振、もしくはピッチャー・ライナーを捕ってアウトにするので、敵味方から恐れられている。
ただのストレートが当たらない、当たってもピッチャー・ライナーになるというので、最初は疑われていたし、日本人なのでナメられてもいた。
ジャイロ・ボールですらない。チェンジ・アップでもないストレート・ボールに、真芯を捉えてなおもピッチャー・ライナーとなる。
そしてそれを捕るのだ。野球の悪魔とも呼ばれるのも仕方ない。
「ストライク! ツーアウトです。今日の試合も、ノーヒットノーランになるのでしょうか!?」
「やや軌道がブレているように見えますが、ほぼど真ん中ですから、ボールの判定は出ないでしょうね」
際どいコースだと、ストライクの判定が出た場所に投げても、ボールの判定になる事がある。
天気は今日の試合に、魔術の効果への揺らぎを感じていた。
「ファール! 三投球目もファールです!」
「珍しいですね。コントロールが悪くなっているのか、はたまた気まぐれなのでしょうか」
五十億人もの人間が、ノーヒットノーランの失敗を祈っている。
その中には彩華もいたりするが、天気は気にしていない。
勝ちすぎた事は自覚があるから、そろそろどこかで、失敗しなければならないとは思っているのだ。
それだけ魔術の効力は強い。
信じるチカラが魔法であり、魔術である以上、五十億人もの祈りは、天気の魔術の効果を失効せしめるに充分だった。
(……世界が敵になるか。……面白い!)
前世以来の経験。仲間達とともに世界を相手にした結果、滅した小国の占領と相成った。
魔術が使えない天気なんてド素人。本当にそうか?
魔術で覚えこませた身体が、その経験則に則った最適なフォームと、ボールを放す際の力加減を知っている。
多少の誤差はあるだろうが、バッターは振る選択肢しかない。
振ってヒットにするか、ファールになるか、はたまたピッチャー・ライナーになるのか。あるいはフライとなるか。
「時速150キロのストレート! いつもよりやや遅いか!?」
「ここでチェンジ・アップはしないでしょう。最後はストレートと相場が決まってます。軟式野球ならアリでしょうけど、ここはメジャーリーグ。バッターも四番です。少し緊張でもしていたのでは?」
バッターはフルスイングーー。
「ーーストライク! バッターアウト! ゲームセット!!」
「空振りー! 前人未到の、一万回のノーヒットノーラン!」
「今回は最後だけ普段と違いましたが、勝ちは勝ちです。おめでとうございます!」
「……そろそろ、ヒーロー・インタビューになります」
「今のお気持ちをどうぞ」
「妻に捧げる、感謝の一万回ノーヒットノーランです。いい暇潰しになりましたね」
案の定、コメントやSNSは大炎上した。
神なんてたぶんいないが、五十億人もの人間が祈って、ようやく一人の魔法や魔術と対抗出来る。
という事は、3兆3642億3166万9265人が一柱の神へ祈れば、ひょっとしたら神の奇跡が起きるかもしれない。
どこのウマドルのファン数かな? しゃい☆
第一章 完




