契約
ベル、未来のバレンタインの時に、いい人生でした、ありがとう……! って言ってたけど、なんか記念日のたびに人生の締めを行いそう。
絶対に彩華との結婚式に乱入して、勝手にキスして、勝手に二度目のケーキ入刀をして、ソッコーで退場しそう。
僕は彩華のあとなら文句は言わないけど、彩華が怒るなら彩華の味方に着くからね?
人生設計色々してるけど、ウマぴょいした翌日にランドセルとか買わないよね?
ウマぴょいも秒で終わらせてきそう。あまりに早すぎて、色気もへったくれもないんじゃねーかな……。これ、出るモノ出せるのか?
「一つ約束してほしい。僕より早く死なない事。それさえ守ってくれれば、どこまでだって行ってやるから」
「分かりました。私が死にそうな時は天気さんを殺しますね」
「うん、待って。とんちかよ! そこまで置いていかれるのがイヤなのかよ!?」
言うか言わないかでいったら、コイツなら言うよなって回答なんですけど!?
「発想の反則負けね」
シャラップ! 彩華!
「じゃあ、君を前科持ちにはさせられないね。でも、僕が死にそうな時はどうするの?」
「その時は私も一緒に死ぬだけです。まぁ、普段から遅かったら、こういう事だけ早くならないで下さい! って思うかもしれませんけど」
「しかしまぁ、なんだか生き急いでない?」
「いいえ。そんな事はありませんよ」
「そうならいいけど……」
「ただ、趣味に使いたい時間を、より多く捻出したいだけです」
ベルはウ=スイ本、ではなく、スリム・ブックをショルダーバッグから出す。
「コミケに出す下書きですけど、見ます?」
「作家やら先生なんだ。原案担当ってヤツ?」
「書くのと売るのは別の人ですけど、マージンは売上の半分なので、お布施に回せる分だけは稼いでみせます」
原作、めじろう。作画、アリス。編集、サンビーム。中身はナ〇タトップロードモノ。
「まぁ、趣味にとやかく言うつもりはないけどね。これだけは言っておく。手伝わないからね、僕も彩華も」
「他の恋人やら愛人やらは?」
「たぶん、手伝わないと思うよ。一人はヒットマン、一人はリアル狩人、一人は傭兵兼専業主婦」
「ずいぶん個性的ですね……」
絶対に君にだけは言われたくないと思うよ?
気品ある服装に黒髪ロングヘアー。黙っていれば、と言うか、落ち着いていれば美人に見える顔立ち。
年齢は十歳、学校は同じ学園系列だが、県が違う。
メジロ一族の分家筋のお嬢様。ぶっちゃけキ〇グの服装に近く、見た目の容姿は〇ーベル、性格はラ〇トオという酷い闇鍋である。
うーん、上流階級の伝が出来ちゃったか。
「契約書はここに」
「ありがとう、彩華。……基本として、トレーニング期間は土曜日のこの時間から午後五時まで。学校では陸上部? 平日の早朝トレーニングに付き合うから、メニュー教えてね。加えるか減らすか決めるから。徒競走の大会とかは後で教えて」
「分かりました。ではこちらの書類に、トレーナーさんの署名をお願いします」
この宗教団体のトレーナーじゃないんだけど、まぁいいか。
で、出された書類を見てみる。……彩華に渡す。
「早い早い早い早い」
「婚姻届ですか」
ベルへと静かに突き返す。彩華とベルは笑顔でにらみ合う。
「奥多摩と東京湾、どっちがいいです?」
「スミマセン、調子に乗りました!」
「あぁ、高度一万二千メートルからの、パラシュートなしによる、スカイダイビングがお望みでしょうか?」
「地上まで一直線コースは死にますから! 先に死んだらダメなんですけど!?」
「弟君っ! リノちゃんが走る番が来たよーっ!」
「がんばえー」
「お義兄ちゃんの声援! リノ頑張りますから、見てて下さいね! 狩人が何を成すのかを!!」
妹・パワー全開で、大差をつけてレースをブッチギッた。
「ちなみに、クスリより強く依存するモノって何?」
「人はストレスに堪えられない。現実逃避にクスリに手を出す。浪費、酒、タバコ、性欲を満たす為に色々する。承認欲求を満たす為にバカな事をしたり、小説サイトを覗いたり、執筆したりする」
「PV一桁、駄文か」
「まぁ、小説が書けなくても編集は出来るし、野球が出来なくても審判員にはなれるよ」
「社会不適合者でも介護職にはなれる。人手不足だから」
「金があるなら、PCやら周辺機器を買って、ようつべで使うモデル描いて貰ったりして、個人Vとかゆっくり動画投稿とかが出来る」
「で、つまり?」
「他人へ依存する状況を作れば、そっちに堕ちる。ホストやキャバクラとか、占い師とか、毒親の洗脳教育、結婚、同棲。孤独に生きるには自給自足が出来ないとムリだし」
「社会に不満があるなら自分を変えろ。それが出来ないなら、目を閉じ、耳を塞ぎ、口をつぐんで孤独に暮らせ。それも出来ないならさっさと死ねって事?」
「指導するという師弟関係に近い、時間と場所の共有って、共依存になりやすいんだよね。吊り橋効果からの恋人関係とか、犯人と人質から同情して共犯になるとか、ダメな男に捕まってヒモを養うとか、結婚後にDVされても別れられないとかあるし?」
「なるほど、言いたい事は何となく分かったわ」
「つまり、人間は支え合ってるって事。同じ時間を過ごしている内に、ヤンデレになるかメンヘラになるか、振り切って逃げ切れるか。そこがネックだけどね」
「お、駆け落ち予告? お父さんと仲が悪くなっちゃった?」
「特に仲違いした訳じゃないけど、お義母さんがそこそこデカい矢印を向けてくるから、勘違いされそうではあるよね」
「あぁ、私とお母さんの仲が心配? 大丈夫、老いては子に従えって教え込むから」
「親子喧嘩は止めてね……。家が壊れちゃうから」
夕食後、吉田ベルの実家にて。
「ベルからの報告書を読んだが、あの子の気は確かか?」
「はい。普段と変わりなく過ごしておられました。レース後にトレーナー契約に近い、個人レッスンの契約を交わしておりました」
分家の当主と執事が会話している。
「正規のトレーナーならまだしも、宗教関係とは縁も所縁もない、同世代の男子か……。トレーニングを見てくれる人を捜せとは言ったが……」
「お嬢様と引き離しますか?」
「……いや、続行させておこう。正規のトレーナーなら、理由をつけて丸め込めるから良かっただけだからな。同世代とは言うものの、あの子のトレーニングをきちんとするなら、同世代の方が長く付き合えるかもしれない」
基本的にタダで、妹と同じようなトレーニングを行っていくと言う。途中で合わないようならメニューを変えるも、基本は体幹トレーニングやスパートを行うタイミング、残りの距離ではなく、仕掛けた後でどれだけスタミナが持つかによって、根性がどれくらいあるかの指標としている。
持久力やスタミナは最高速度の維持に関連するので、走っている姿勢が強い影響を及ぼす。
なので体幹を鍛える事で、常に同じ姿勢を保ちつつ、速度を一定に維持して、終盤あたりからスパートを掛けるようにするのだ。
「では、婿候補に?」
「調査して問題なければ、直接会ってお話したいところだ」
「問題があった場合は、如何致しましょう?」
「本家の方々に見てもらう事になる。その上でどうするかの処分が決まるだろう」




