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現代魔術師の暇潰し  作者: 元音ヴェル
スポーツマン・シップ(笑)
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かけっこ

 カルトのレース・イベントが始まる。

 観客は馬券を握りしめたり、早々に捨てたりしていた。いや、馬じゃなくて人なのだが競馬と徒競走は、一位にならなければ意味がない点では同じである。

 天気達と同年代の子供が走る 。手指欠損、斜視、極度のあがり症、脚の骨が変形している子もいた。

 服装からして貧乏そうな子も、太った子もいる。

 百メートル走、グラウンド、天気は晴れ。

 やってる事はかけっこだが、裏側はほぼ競馬の様相である。

 一位は痩せた貧乏そうな服装の男の子。二位はちょっと良い仕立ての服装な女の子。三位は右手が手首から先が無い男の子。

 観客は喜ぶ歓声と怒号が混じって、ますます競馬っぽい雰囲気だ。ゲートつけて馬耳付きのカチューシャと、尻尾付き短パンでも履かせたらいい感じになるだろう。

 おっと、レース後は表彰式だけすれば誤魔化せる。唄って踊るには身体的にも精神的にも難しいし。


「二位の女の子に声を掛けようと思う」


「一位の男の子は? 手遅れ気味?」


「一位の男の子は、金以外にも手を差し出す必要がある。三位は義手で解決する類いだろう。まぁ、義手代をどうするかの問題はあるけど。二位の女の子は走る姿勢が良すぎる。顔を上げたままだったからね。良いところのお嬢様か何かでしょ」


「でも負けた。育ちが良くても、トレーニング環境が整っていても、本人のフォームを変えない限り、あのままでは勝てないでしょうね」


 景品である地球の玉を大事そうに抱える男の子。だが、クスリより依存性の高いモノがある。


「レースで負けても顔を下げない。でも悔しげにしてる」


「付け入る隙があるなら、声を掛けてみるのも手ではあるかぁ。ご主人様、頑張って下さいね!」


「彩華も一緒に来てよ」


「何故? 嫉妬とかしませんけど?」


「同年代の男の子に話し掛けられても、警戒するでしょ。人間は見た目や、第一印象が大事なんだよね。メイドが控えているボンボンなら、少なくとも自分と同等な品格、いや、走ってないだけ自分よりも立場は上、と勘違いするかもしれないからさ?」


「ほう。メイドらしい事が出来るシチュエーションとな。そういう事ならお供いたしますよ、ご主人様」


 二位の女の子に近づく天気達。

 デビュー戦でもないので、声を掛ける人はいない。


「こんにちは、惜しかったですね」


「こんにちは、はじめまして。私は吉田ベルと申しますわ」


「ご丁寧にどうも、世羅天気といいます。立ち話もなんですし、あちらで休憩がてら少しお話でも。今回が初めてなんですか?」


 彩華が女の子の家族の近くへと、影分身を飛ばして椅子や日除けの傘を用意していた。


「あら、私の家の使用人の近くでしたか。奇遇ですわね」


「いやはや、ついさっき空いたようなので、割り込む形になっただけです」


「世羅さんーー」


「ーー天気と、下の方で呼んで下さい。ちょっと上の名は苦手なので」


「そ、そうでしたか。……では失礼して、天気さんはご家族の応援ですか?」


「まぁ、そんなところです。最後あたりに妹が走るんですよ。特訓メニューを考えて、一緒に練習とかもしましたし」


 金さえ積めば走れる分、競馬より楽である。

 で、雑談混じりに会話を続けると、初レースで負けて自信をなくして、気持ちが落ち込んでしまいそうになっていたと。


「もったいないなぁ。君の走りが好きだ、もっと君を見させてほしい。どんな君でも受け入れるから、支えさせてくれ。弱いところでも、暗い感情でも、すべてを僕にはぶつけてくれていいんだ」


 折り紙のトロフィーを取り出して、女の子へ手渡す。


「二位にも景品があっていいはず。今はこんなのしか渡せないけど、いつか本物のトロフィーを、君が持てるように鍛え上げる」


「え? ……え?」


「妹の走りを見てほしい。そして、妹と同じように走れるくらい、トレーニングを一緒にしていこう」


 そこそこ万人ウケする殺し文句、面倒見の良さと家事能力、まぁまぁな鈍感さ、自己肯定感の低さ。

 これらが合わさるとクソボケで自己肯定感が低いので、自分が好意を寄せられている事に気が付かず、無意識にフラグを片っ端からへし折るという、ハーレム系ラブコメの、主人公みたいなヤツの出来上がりである。


 基本スペックが高いけど、ダメな部分がハッキリしていると、ヒロインとかからは、この人には私がいないとダメなんだ。という方面の落とし方にはならない。

 いや、女の子を落として、フラグを粉々に粉砕したら、一歩間違えればメンヘラ製造機となるか。


「……一緒に。私生活でも?」


「食事管理も大事だからね。成長期とは言っても、カロリーを摂りすぎたらモチモチしちゃうし」


「トレーニングと栄養管理、私生活の半分くらいを共に過ごす。将来についてはアスリートとして成果を出す。これは婚約へ同意したも一緒です」


「……えぇ?」


「まずは外堀を埋めて、徐々に距離を詰めるのが定席とされています。ですが、多少離れていても直線で行けば問題ありません。私の家へ行きましょう」


「待って待って待って!」


 ベルの思考を読むと、未来の可能性として時が加速していき、結婚式前の光景が見えてくる。

 ーーウエディングロードはいいですね。真っ直ぐです。

 こいつ、未来の僕にも語りかけてきやがる?!

 時は戻り、来年のバレンタインの光景が垣間見える。

 ーー今年のチョコレートです。貴方と契約し、共に過ごせて、いい人生でした。今までありがとうございます。あぁ、一生の思い出が……。

 待って、まだそんなに過ごしてないから!


「それか、親を連れて貴方の家に行ってもいいですね。帰りに役所か弁護士事務所に行きましょう。婚約の契約書は、火事とかで失くしては堪りませんし」


「ちょっと待って、色々待って」


 最速の戦法、やりますねぇ。僕の想定外を行くとは。

 なんだコイツ、無敵か?

 いや、クソボケには恋愛強者を、常識人には最速をぶつける。この宗教でいう、三女神方式のマッチング・システムか。

 でも、僕の方が速いです。最速VS高速なら、僕は負けない!


「待ちますが、外堀を迂回するなんて回り道は邪道です。正道に一直線。飛び越えてしまえばいいので、これが最速です」


「好意はともかく、アプローチ自体がドストレート過ぎるなぁ。……心に決めた人がいるので、婚約と結婚は出来ません」


「ならば、面倒を見てくれるなら、愛人止まりで構いません。子供は最低でも三人、過度な贅沢はせずに年老いていき、寝たきりになっても添い遂げ、同じ墓に、いえ、共同墓地というのがありました。同じ墓地に骨壺を納めて下さい。ただ、私は最速を目指す者、この人生という長距離を、いつまで最速を保っていられるかの保証は出来ませんが……」


「ご主人様、私は賛成です。ふふっ……面白いお方」


 何笑てんねんっ!


「では……四人目の恋人になりますが、それでもいいのですか?」


「この方と添い遂げると、心の中で思ったなら、その時すでに行動は終わっているんです」


 ベルの心を見る。父親が、あかん、こんな性格じゃ嫁の貰い手が……と、頭を抱えている。

 母親が、三女神宗教にぶちこんで、アスリートとしてのコーチやらトレーナーやらとして、面倒を見てくれる人を捜させよう。トレーナーとかが着いたら、ソイツを婿にしてやりましょう! コーチとかなら立派な仕事だし、担当として着くくらいなら、この子の理解者か、性格を知った上での契約となるはず!

 父親がベルに、いいかい、トレーニングを見てくれる人が着いたら、家に連れてくるのだ。世間的には実家に挨拶に見えるかもしれないが、別に法律には触れないから大丈夫。

 ベルは元気よく、おかのした! と応えていた。


 くっ、色々と速いのはそういう事か!

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