上から押さえつける
「あの~、お義兄ちゃん」
「何さ、遠慮がちに。言いたい事があるならハッキリ言ってね」
「では遠慮なく、単刀直入に言います。もう終わりにしませんか?」
「終わりに?」
「そうです。こうやってお互いに牽制してるのって、時間のムダじゃないですか」
「そうだね、ムダだね。そんなムダな時間は排除して、有効に活用するべきだと僕は思う。時間は有限だからね」
「そうでしょう。ですよね!」
「だからトレーニングしようね」
「イヤです! おかしくないですか? 異議あり!」
「却下、棄却だね。さっさと着替えて」
「判断が早い!」
天狗の面を被る彩華だったが、直ぐに外した。セリフをとられたので。
「おかしいのはリノちゃんだから。審議するまでもないからね」
「ワイトもそう思います」
「お姉ちゃんは弟君の味方だよっ」
「多数決はズルい……。イヤなのにトレーニングして、効率性はどうなんです?」
「……無理に泳ぐ特訓をして、どこまで効果が期待出来るのかって話か」
「そう、それ! 言いたい事はそれです! トレーニングというものは自発的に取り組まないと、最大効率を発揮できませんから」
「じゃあ、プールはやめよう」
「お義兄ちゃん。必ず分かり合えると信じてました!」
「海で遠泳しよう。プールより浮けるし、潮に流されても助ける。いや、潮の流れに身を任せて浮いておくのもいいか」
「お義兄ちゃん!? 話が違う、なんでそうなるんです?!」
「プールはやめて、海で泳ぐトレーニングの話だよ」
「場所の問題じゃないですよ!! わかってて言ってますよね!?」
「何の事やら……」
逃げ出すか妥協案を出す、そうくるなら、上から押さえつける。
「女の子をイジメて楽しいですか? 好きな子を困らせて泣かせて、それで振り向いてもらえるとでも? イジメてくる男の子には恨みしかありません! 困らせて自分の事を考えさせる手法としては、最悪なヤツですからね! そんなんじゃモテませんよ、お義兄ちゃん!!」
「え、義妹はライク、彩華はラブだから。家族である姉妹から、好かれたい訳じゃないし。僕には彩華という大切な人がいるんで、モテなくても結構です」
「ご主人様……。そこは彩華も含めた姉妹が、家族全員が大切って言っておけばいいんですよ。次のイベントにも繋げやすいですから」
「イベント? 夏祭りとか?」
「ハロウィンとかクリスマスとかでしょっ!」
「そうそう。学園祭でキャンプファイアーを、誰と踊るとか。何かのパーティーに呼ばれるとか」
「ふわっふわっなイベント内容なのは分かった」
パーティーって何のだよ。上流階級やら財閥やらのパーティーなんて縁遠いでしょうに……。
「パーティー……立食形式……食べ歩き……」
「おらっ、トレーニングするぞ!」
本当に太るぞ。つまめる贅肉は、邪魔以外のナニモノでもないんだから。
「水泳以外のトレーニングならしてあげます!」
「水上を走りながら的当てしよう」
「水上バイクを運転しつつ、流鏑馬ってムチャ過ぎます! お義父さんの後ろから射るのは出来ますけど」
ただの、走りながらの的当ての亜種じゃんそれ。
というか、地上だと走りながら射つのって、本当はかなりの高度な技なんだとか。銃器と違い、矢筒から矢を取り、弓に矢をつがえて弦を引きながら狙う。そうして離すと狙った場所付近に矢が命中する。
動作や行動ステップが多いので、接近戦には弱い。
「なら、水に顔をつけてから的当てするか?」
「ふざけるのもいい加減にして下さい! これだけイヤだって言ってるのに、何でヤらせようとするんです!? そんなに私を水に沈めたいんですか!!」
「なれる為にも、まずは昔の洗礼から始めるだけだから。それに、人間は簡単には沈まない。呼吸が必要だからね。まぁ、カナヅチでも、沈む前に泳げばいいんだよ」
あるいは、底を歩いてプールから出るなり、海なら岸まで歩いていけば、自然と地上に出られるはず。
「そんなんだから、交友関係が家族くらいしかないんですよ」
「友人や知人って、本当に困った時は宛てにならないんだよね。金を貸してくれる訳でも、毒親から無理やり、引き離してくれる訳でもないんだ。実親が頼れない以上、育ての親とその子供、兄弟姉妹を大切にするのは当然でしょ」
「ご主人様、落ち着いて。殺気が勝見煙のようにもれてるし、瞳孔が開いてるわよ」
「おっと、僕の交友関係はどうでもいいんだ。……次、実親の話題を出したら、ドラム缶に詰める。奥多摩か東京湾、好きな方に廃棄してやるから」
タヌキに掘り返されるか、エビにつつかれるかの違いだ。
「弟君、実親の話は一ミリもなかったよっ! お姉ちゃんが胸を貸そうっ! 遠慮せずに甘えたまえっ!」
「彩華、抱きしめさせて」
「あっれぇっ!? この流れならお姉ちゃんだよねっ?」
「そうだよ、ご主人様。シズルお義姉ちゃんの胸に飛び込むんだよ。私よりちょっとモチモチしてるから、抱き心地良いと思う」
「言い方っ!! 誤解を招くから、一年先の成長であって、太ってはいないからねっ!?」
「でも、ほとんど一緒にいるから、身体が勝手に向かうんだよね」
「おぅふっ、ご主人様!」
「惚気るな! 私を相手している事を忘れないで!? お、覚えてなさい! お義兄ちゃんは絶対に尻に敷いてやりますから!」
「……十年もあれば、絶対に軽くなるよね」
つーか、そもそも重い自覚があるのでは? リノの肉体は筋肉メインだから仕方ないんだけど、重い自覚がないと、尻に敷いてやるって発想が出ないぞ?
「リノがイヤがっても腹を揉んで、太り気味かな? って煽るから。やめて欲しかったら痩せようね」
小学生くらいのイカ腹って、太ってなくてもわりとモチモチしてるし?
「別にお腹を揉まれるのは、イヤじゃないですぅー!!」
結局リノは、プールに入らなかった。
「ヒソヒソ。姉妹も揃っての夫婦漫才よ」
「ヒソヒソ。倒錯プレイでイチャイチャしてるわ」
「ヒソヒソ。でも、ちょっと羨ましいわね」
「ヒソヒソ。変な儀式で催眠もするなんて、鬼畜よ」
「ヒソヒソ。鬼畜を言葉責めする彩華ちゃん。スゴくない?」
「ヒソヒソ。既に尻に敷かれてるわね、アレ」
ちなみに、幼児の体は腹筋が弱いために内臓が下がってしまい、お腹がポッコリした体型、いわゆる胃下垂であることが多い。
小学校低学年までは、凹凸の無い体型と相まって、身体のシルエットがつるんとしたイカを想起させる事から、胃下垂とイカをかけてイカ腹と呼ばれている。
お腹が出ているとはいえ、太っているわけではない。
「どうしても泳がせたいなら、先にご褒美を出すとか、機転を利かせたらどうなんですか? 飴と鞭です。飴七割、鞭五割、しめて120パーセント! 上手く使いこなすのが、私をコントロールするコツですよ」
「リノちゃんに先に飴を渡したら、食い逃げしそう」
「ハンターは乙る手前でキャンプ地に戻るし、よく食事摂ってるし?」
「スタミナ定食を食べて、贅肉になったら泳ぎましょうかっ!」
「冬を乗り切る為の脂肪なんです」
「まぁ、日本は意外と寒いからね」
「贅肉を落とすには、全身に負荷を掛けられるトレーニングがいいわよ。太ってからジョギングしても、膝を悪くするだけだし。膝に負担が掛かりにくい、水泳でのトレーニングは最適よ」
膝が痛いから太るのか、太ったから膝が痛いのか。答えは年相応の肉体となっただけである。
膝への負担が少ない運動として、自転車を漕ぐのもアリだ。
運動したくないなら食事制限。三食カロリーメ〇トで、たまに普通の食事をする。一年かけて体と胃腸を慣らしていけば、摂取カロリーと消費カロリーが逆転するので、確実に痩せれる。
あるいは朝カロリーメ〇ト、昼は普通の食事、夕はのど飴とか舐めての二食にすればいい。
あと、ウソか真か、朝食べたエネルギーは明日の朝のエネルギー源になり、昼食べたものは明日の昼のエネルギー源となるとか。




