カン! カン! カン!
「……えっと、泳げるように、トレーニングをしようね?」
「説得力皆無ですよ、お義兄ちゃん」
「うっ、うっせぇわ! おらっ、催眠になれ!」
水分補給で飲んだジュースの空き缶同士をぶつけて、カン! カン! カン! と金属音を鳴らす。
「ひっ! …………」(ハイライト消失)
「酷いかけ声……うっせぇわはないわー」
「大丈夫。海賊マンガで、医者の勧誘にも使われたから!」
「弟君。もうちょっとスマートに誘導しようねっ」
「フンギャロ……!」
ボロクソに言われてしまう天気。思わずマチカネ語が出てしまう。
リノはびっくりした状態から、無表情のまま立っている。
「効いてる? ……ヨシッ」
心を読んで空白なので、指さし確認。無反応のリノ。
「リノちゃん。スク水に着替えて来て」
「はい、分かりました」
シズルを監視役にして、着替えるかどうかを確認しつつ、プールの浅い所を水上走りして待つ天気と彩華。
「お待たせしました」
「お? やっと来たか」
私服姿のリノと、疲れた顔をしているシズルが現れる。
「何で着替えてないのさ?」
「聞いてよ、弟君っ! リノちゃんってば逃げるし、弟君の命令以外は聞かないって言うのっ!」
「リノちゃん、命令だ。スク水に着替えて、シズルお姉ちゃんの言う事も聞いてね」
「イヤです」
「着替えて泳ぐトレーニングをするんだよ」
「イヤです」
「トレーニングと言っても、イエスの洗礼並みの、簡単なヤツからだよ」
「ご主人様、その発言は大丈夫なの?」
「セイント兄さんでも紹介されてるから大丈夫だと思う。ロシア正教の聖書にはないの?」
「序章とかは改変されてないはず」
「ほら、この浅いプールに浸かって、顔を水面につけるんだ」
「イヤです」
「……催眠効いてない? 彩華、二人掛かりでやろう」
「何でも言う事聞きます」
「効いてないなこれは……よし、彩華、空き缶は持ったかい?!」
「おまかせあれ!」
「何でも言う事聞きます」
「じゃあプールでトレーニングしよっか」
「絶対にイヤです」
天気と彩華は、リノの耳元にてデュオで空き缶を鳴らす。カカン! カカン! カカン! 輪唱的な音が響く。
「スクワットして」
十回ほどスクワットするリノ。
「プールサイドの外側を走って」
軽く走って一周してくる。
「そのままプールに入って」
「イヤです」
「うん。着衣水泳はイヤだよね……」
「何でも言う事聞きます」
「何でもじゃ、ねーじゃんっ!」
「イヤじゃない事以外は、全部聞きます」
「なんて都合がいい催眠状態なんだ……」
「何でも、イヤじゃない事以外、矛盾してるわよね」
「お義兄ちゃんの言う事なら、何でも聞きます」
「弟君、遊ばれているんだぞっ!」
「うーん。……水泳好きになって」
「はい」
「プールに入って」
「イヤです。見るのは好きです」
「プールで泳いだら、アイスおごってあげる。彩華はジュース、シズルお姉ちゃんは焼き肉を奢るってさ」
「弟君、お姉ちゃんだけやけに高くないかな? まぁ、弟君のついでに、姉妹に食べさせるのはやぶさかではないけどねっ!」
「はいやです」
「ちょっと揺らいだわよ」
「揺らいでませんよ。姉さん」
いいや、ちょっと迷いが出ていたね。
「お義兄ちゃん。もっとやる気が出る命令をして下さい」
「ええ?」
「お義兄ちゃんの言う事なら、何でも聞きます」
「二重の催眠、掛かってない?」
「催眠の言葉を聞き流して、反対側の催眠と打ち消した。とか?」
「はい。リノは暑いからアイスが食べたいです」
言ってないというか、ただの願望だな。
「お義兄ちゃん。温泉なら行きます!」
「温泉かぁ」
「はい、温泉でトレーニングしましょう!」
「家族湯でトレーニングかぁ」
「愛情トレーニングです!!」
「温泉じゃなくて、温水プールならどう?」
「イヤです」
「分かったよ。温泉ね。北海道に良い感じの秘湯があるんだよね」
「深い温泉だと不快です」
もはや、願いを聞いてはくれるけど、叶えてはくれない神龍みたいだなぁ。
「何でもするから、プールでトレーニングしよう?」
「ん? 何でも?」
「それは聞く、聞き返すんだね。うん、何でもだよ」
「なら……カルフォルニア・ロールのオリジナルが食べたいです」
「回っていない寿司か。時価で魚の値段が変わるんだよね」
めっちゃ普通に欲望を吐き出してきたぞ。
「いいよ。プールの後でね」
「……暑いし、先に涼みたいから、お寿司がいいなぁ」
「食ったら催眠が解けるパターンよね」
「催眠掛かっていたから、覚えてません! って言い張りそうだねっ」
「ところでお義兄ちゃん。もっとイヤらしい命令をして下さいよ」
「急に素のトーンで、妙な事言い出したぞ。この義妹」
エロいお願いをしてくると期待していたリノVSイージーなトレーニングをさせたい天気。ファイッ!
義兄を相手に、エロいお願いを期待するとは、欲求不満なのかな?
それとも、魂の奥底にある自己を定義する大切なナニかが、水泳を嫌がっているのか?
食わず嫌いのように、食べなれていないから苦手であって、食べなれたら平気とか、そういう感じのヤツではない?
ナマコとか、ヒトデとか、マイナーな食材の料理が、好きじゃないのは分かるけどさ。
「お姉ちゃん・パワーがあるんだから、妹・パワーで宙に浮いてみせてよ」
「はい。……ちょっとお待ちを。…………そぉいっ!」
垂直な跳躍して、三秒ほど滞空してみせるリノ。
「ただ高くジャンプしただけなんじゃ……?」
「やりますねぇ! それっ!」
何故か姉も跳躍して、お姉ちゃん・パワーによる天使の翼を、背中から生やして浮かぶ。
「ヒロイン力高ぇな、おい」
「ネオアームス卜口ング・サイク口ンジェット・アームストロング砲か。完成度高いな、おい」
彩華、一々ネタを拾わなくてもいいんだよ?
「おぉ……あるんだ、妹・パワー……。次はプールの上で浮くんだ」
「ロシア人のほとんどは、カナヅチなので無理です。たぶん、知らんけど」
「イヤじゃなくて無理なのか」
「大陸国家と島国では違いすぎるので、無理です」
「さっき宙に浮いてたけど、水の上は無理なのかい?」
「救世主様とは違います。偉人と比べないで下さい。摂理的も無理です」
「ウィ〇ガーディアム・レビオー〇ァ!」
「うえぇ、オークの鼻水」
天気の魔法でリノが宙に浮いて、水上に立っているような位置に動かしていく。
「そうだった。お義兄ちゃんは薩摩藩のチェスト使い……」
君は、グリ薩摩はーん! 的なネタも知ってるのかリノ。
プールサイドに移動させて魔法を解く。




