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現代魔術師の暇潰し  作者: 元音ヴェル
スポーツマン・シップ(笑)
37/141

カン! カン! カン!

「……えっと、泳げるように、トレーニングをしようね?」


「説得力皆無ですよ、お義兄ちゃん」


「うっ、うっせぇわ! おらっ、催眠になれ!」


 水分補給で飲んだジュースの空き缶同士をぶつけて、カン! カン! カン! と金属音を鳴らす。


「ひっ! …………」(ハイライト消失)


「酷いかけ声……うっせぇわはないわー」


「大丈夫。海賊マンガで、医者の勧誘にも使われたから!」


「弟君。もうちょっとスマートに誘導しようねっ」


「フンギャロ……!」


 ボロクソに言われてしまう天気。思わずマチカネ語(奇声)が出てしまう。

 リノはびっくりした状態から、無表情のまま立っている。


「効いてる? ……ヨシッ」


 心を読んで空白なので、指さし確認。無反応のリノ。


「リノちゃん。スク水に着替えて来て」


「はい、分かりました」


 シズルを監視役にして、着替えるかどうかを確認しつつ、プールの浅い所を水上走りして待つ天気と彩華。


「お待たせしました」


「お? やっと来たか」


 私服姿のリノと、疲れた顔をしているシズルが現れる。


「何で着替えてないのさ?」


「聞いてよ、弟君っ! リノちゃんってば逃げるし、弟君の命令以外は聞かないって言うのっ!」


「リノちゃん、命令だ。スク水に着替えて、シズルお姉ちゃんの言う事も聞いてね」


「イヤです」


「着替えて泳ぐトレーニングをするんだよ」


「イヤです」


「トレーニングと言っても、イエスの洗礼並みの、簡単なヤツからだよ」


「ご主人様、その発言は大丈夫なの?」


「セイント兄さんでも紹介されてるから大丈夫だと思う。ロシア正教の聖書にはないの?」


「序章とかは改変されてないはず」


「ほら、この浅いプールに浸かって、顔を水面につけるんだ」


「イヤです」


「……催眠効いてない? 彩華、二人掛かりでやろう」


「何でも言う事聞きます」


「効いてないなこれは……よし、彩華、空き缶は持ったかい?!」


「おまかせあれ!」


「何でも言う事聞きます」


「じゃあプールでトレーニングしよっか」


「絶対にイヤです」


 天気と彩華は、リノの耳元にてデュオで空き缶を鳴らす。カカン! カカン! カカン! 輪唱的な音が響く。


「スクワットして」


 十回ほどスクワットするリノ。


「プールサイドの外側を走って」


 軽く走って一周してくる。


「そのままプールに入って」


「イヤです」


「うん。着衣水泳はイヤだよね……」


「何でも言う事聞きます」


「何でもじゃ、ねーじゃんっ!」


「イヤじゃない事以外は、全部聞きます」


「なんて都合がいい催眠状態なんだ……」


「何でも、イヤじゃない事以外、矛盾してるわよね」


「お義兄ちゃんの言う事なら、何でも聞きます」


「弟君、遊ばれているんだぞっ!」


「うーん。……水泳好きになって」


「はい」


「プールに入って」


「イヤです。見るのは好きです」


「プールで泳いだら、アイスおごってあげる。彩華はジュース、シズルお姉ちゃんは焼き肉を奢るってさ」


「弟君、お姉ちゃんだけやけに高くないかな? まぁ、弟君のついでに、姉妹に食べさせるのはやぶさかではないけどねっ!」


「はいやです」


「ちょっと揺らいだわよ」


「揺らいでませんよ。姉さん」


 いいや、ちょっと迷いが出ていたね。


「お義兄ちゃん。もっとやる気が出る命令をして下さい」


「ええ?」


「お義兄ちゃんの言う事なら、何でも聞きます」


「二重の催眠、掛かってない?」


「催眠の言葉を聞き流して、反対側の催眠と打ち消した。とか?」


「はい。リノは暑いからアイスが食べたいです」


 言ってないというか、ただの願望だな。


「お義兄ちゃん。温泉なら行きます!」


「温泉かぁ」


「はい、温泉でトレーニングしましょう!」


「家族湯でトレーニングかぁ」


「愛情トレーニングです!!」


「温泉じゃなくて、温水プールならどう?」


「イヤです」


「分かったよ。温泉ね。北海道に良い感じの秘湯があるんだよね」


「深い温泉だと不快です」


 もはや、願いを聞いてはくれるけど、叶えてはくれない神龍(シェンロン)みたいだなぁ。


「何でもするから、プールでトレーニングしよう?」


「ん? 何でも?」


「それは聞く、聞き返すんだね。うん、何でもだよ」


「なら……カルフォルニア・ロールのオリジナルが食べたいです」


「回っていない寿司か。時価で魚の値段が変わるんだよね」


 めっちゃ普通に欲望を吐き出してきたぞ。


「いいよ。プールの後でね」


「……暑いし、先に涼みたいから、お寿司がいいなぁ」


「食ったら催眠が解けるパターンよね」


「催眠掛かっていたから、覚えてません! って言い張りそうだねっ」


「ところでお義兄ちゃん。もっとイヤらしい命令をして下さいよ」


「急に素のトーンで、妙な事言い出したぞ。この義妹」


 エロいお願いをしてくると期待していたリノVSイージーなトレーニングをさせたい天気。ファイッ!

 義兄を相手に、エロいお願いを期待するとは、欲求不満なのかな?

 それとも、魂の奥底にある自己を定義する大切なナニかが、水泳を嫌がっているのか?

 食わず嫌いのように、食べなれていないから苦手であって、食べなれたら平気とか、そういう感じのヤツではない?

 ナマコとか、ヒトデとか、マイナーな食材の料理が、好きじゃないのは分かるけどさ。


「お姉ちゃん・パワーがあるんだから、妹・パワーで宙に浮いてみせてよ」


「はい。……ちょっとお待ちを。…………そぉいっ!」


 垂直な跳躍して、三秒ほど滞空してみせるリノ。


「ただ高くジャンプしただけなんじゃ……?」


「やりますねぇ! それっ!」


 何故か姉も跳躍して、お姉ちゃん・パワーによる天使の翼を、背中から生やして浮かぶ。


「ヒロイン(りょく)(たけ)ぇな、おい」


「ネオアームス卜口ング・サイク口ンジェット・アームストロング砲か。完成度高いな、おい」


 彩華、一々ネタを拾わなくてもいいんだよ?


「おぉ……あるんだ、妹・パワー……。次はプールの上で浮くんだ」


「ロシア人のほとんどは、カナヅチなので無理です。たぶん、知らんけど」


「イヤじゃなくて無理なのか」


「大陸国家と島国では違いすぎるので、無理です」


「さっき宙に浮いてたけど、水の上は無理なのかい?」


救世主(キリスト)様とは違います。偉人と比べないで下さい。摂理的も無理です」


「ウィ〇ガーディアム・レビオー〇ァ!」


「うえぇ、オークの鼻水」


 天気の魔法でリノが宙に浮いて、水上に立っているような位置に動かしていく。


「そうだった。お義兄ちゃんは薩摩藩のチェスト使い……」


 君は、グリ薩摩はーん! 的なネタも知ってるのかリノ。

 プールサイドに移動させて魔法を解く。

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