プール
ある夏の日、天気達は学校のプールに来ていた。リノが泳ぎが苦手だから特訓をするのだ。
「ロシア人は泳げない人が多い。泳がなくても生きていける」
「泳げないのは、寒さと冷たさによる凍死が原因だよね。温水プールとか普通に入ってたじゃん」
「アレは泳ぐというより、歩いていただけ。周りも浮き輪で浮いてたし、歩いてもいた」
基本的に日本人はプールでも海でも泳げる。だが、海外の学校にプールはない所が多いし、海で遊ぶ事も少ないらしい。
インドなんて川遊びすら出来ない。海や川の清掃や保守に割く予算がないとも言う。
ロシアも地域差が大きく、北極に近いと泳げないので、犬雪車での移動となる。クリミア半島は戦場。アラスカ州と隣接する場所は、密漁や密輸を警戒する。
千島列島では温泉に入るだけ。泳げる環境でも泳ぐ必要はない。
ツンドラやシベリアは永久凍土で、最近はその永久凍土が溶けてきている。雪解けの地面の下には、古代から封印されてきたヤバい細菌やウイルスが、コールド・スリープから目覚めているとか。
プールで泳ぐのはオリンピックに出るようなアスリート達のみ。海ではサーフィンすら出来ないのがロシアである。
あと、フィンランド方面はシモ・ヘイヘの親戚が警戒しているので、迂闊に騒ぐと狙撃される。スキーしながら命懸けの鬼ごっこはしたくない。
「ハンターは泳げるよ?」
「リアル狩人は泳がない。ゲームとは違うんです!」
「でもさ、泳げた方が利点は大きいわよ」
「例えば? 水着を着れるとか、褒められるとかですか?」
「クルージングで取り残されても生活出来る。着衣水泳で溺れても、人工呼吸してもらえる」
「……溺れてるじゃん。泳げてないじゃん!」
「着衣のままでは泳げないから。浮かんでおく事が重要よ」
「弟君、プールサイドって熱いから、お姉ちゃんと泳ごうっ!」
「まずは準備運動しよう。足がつっちゃうからね」
両足をこむら返りすると、地上でも身動きが取れない。水中は死ぬ。溺れる暇もないので、発見が遅れてしまう事だろう。
「ちょっと待ちなさいよ。ご主人様」
「あ、背中押してくれる?」
「違うけど、手伝います。それはそうと、リノに催眠掛けて。私がやると、百合の波動が出るかもしれないからさぁ」
「どっちかと言うと、シスコンの波動なのでは?」
「お姉ちゃんにもして、弟君っ!」
「まずはリノちゃんからね。効果があるかの確認は必要だし」
「……催眠云々は聞かれてちゃダメなんじゃ?」
「忘れなさいっ!」
「ぐぁーーっ! ーーっ!! ーーっ!!?」
リノの疑問にシズルは頭突きで返答し、一部の記憶を物理消去する。プリ〇ネ・レベルの頭突きと衝撃波が一瞬見えたが、気のせいだろう。
「……コレ、大丈夫? ダメージデカ過ぎてのたうち回ってるんだけど?」
「メイドちゃんも食らってみるかいっ?」
「天気ガード!」
「ちょわ!?」
「弟君から来てくれるなんてっ!」
シズルは頭突きをすると見せかけ、軌道と勢いを変更し、天気の顔を両手で掴み、そのまま接吻する。
シズルとしては長くしたかったが、公衆の面前なので軽くに留めた。
「やりますね~。お義姉ちゃん」
「リノちゃんも泳げたら、弟君とベーゼが出来るぞっ」
「はわわっ、姉弟でキスなんて。ハレンチだよ」
「脱衣麻雀した仲でしょうに」
「……いや、お義兄ちゃんは審判員だったからっ!」
「姉妹揃って、弟君に頂かれた仲じゃない」
「何を言ってるの、お義姉ちゃん!?」
「……ウソつき」
「うっ! 不整脈が……」
彩華による言葉の狙撃で、天気は胸を撃ち抜かれて倒れそうになる。
突然の流れ弾! アンブッシュ! 白昼堂々の心臓掌握!
「あら、ご主人様。私にしなだれてくるとは、あちらで休みます?」
「あっあっあっ……」
「短距離掛ける3は長距離」
「カヒュー……カヒュー……」
「おやおやおや?」
「おやおやおやおやっ?」
「え、ナニこれ……怖っ!」
天気を前後で挟み、彩華とシズルが心配しつつ運び出す光景を見て、リノはSAN値が削られる。
やや唖然としていたが、姉達を追いかける事にした。
しばらくして、介抱されつつ戻ってきた天気達。
シケこんだとか、ウマぴょいしたんだとかではなく、普通に看病されただけだ。
彩華の肩を借りているが、ただ彩華が密着したいだけである。




