騙され
「いえ……上手に騙されたいんですよね」
「え?」
彩華は小声かつ、自分の世界に入っているかの如き独白なので、よく聞き取れない天気。
ハーレムを築いたらバレンタインやクリスマスのイベントが起こる。
天気はハーレム要員以外からも、チョコレートを貰う事だろう。
天気の隣に、影にいる私も友チョコを貰う可能性だってある。
つまりは二人揃って人気者。評判も部活動を手伝う以上悪くはならない、はず。たぶん。知らんけど。
で、女の子からチヤホヤされたりしてるのを見て、彼女面出来る私も鼻が高い。
嫉妬? 許嫁かつ言質取った以上NTRされる事は無いでしょ。強姦や逆レ〇プに気をつけておけば大丈夫。
セクハラは線引きして対応しよう。ライン越えたら潰すだけよ。同性でも容赦はしない。
「あぁ、ハーレムを構築すると、騙されているとかの、言い掛かりを吹っ掛けられるかもしれないわね」
「……あぁ」
「しかし、相手を信じる事が大事なんですよ」
「……コヒュー……コヒュー……」
「…………う・そ・つ・き……」
(こんなの結婚したら尻に敷かれるヤツじゃん……)
「短距離掛ける3回で長距離って事にしてあげますから、頑張って下さいね」
「は、12回でしょ」
「そう言うところですよ、ご主人様」
「えー? そんなに変?」
また嘘ついてる。今際の際まで苛まされてもらおう。
何、三途の川も走って渡れるさ。
万が一腹上死してしまっても、往復して連れ戻してやる。
「あら、まだ顔色が悪いですね。循環器内科を診ましょうか?」
「げふっ……げ、元気いっぱいだぜ……」
騙しているつもりが、騙されている事に気付いていない。催眠系だとあるあるネタ。
また、窒息呼吸制御プレイは割とメジャーどころだから、物理と精神の違いがあるだけ。
首絞めとか、首輪とか。
「そうだ。ウソをつかれた時の対処法。騙され方についてまとめてみたの。聞いてくれる?」
「ひゃい……」
「大きく三つあるわ」
ウソをつかれても気付かないフリをして、追従する事。
騙されても指摘せず、あえて騙される事。
話をはぐらかされても、誤魔化されても、話を戻す事なく区切りをつける事。
恋愛の方針なんて個人差が必ず出る。ハーレムを築いたら個別対応する事は必須となる。で、恋愛となるとデートプランは被るモノ。あの人とは違うデートがしたい、とかいう女の子もいるし。
疑問はあるだろうが、相手の気持ちも汲み取ってみよう。似たり寄ったりの異性、つまり、属性が被る女性でも違いを出すなんて愛情表現、現実的ではないから。
故にウソをつく事もある。差別化が難しい以上、意味のあるウソだったり、凶器のついていないウソだったり。
例えば、デートスポットの使い回しとか。良く行く事になるカフェとか。
そんなウソに寛大な心を持って赦してあげよう。
1200掛ける3は長距離、という理論とは名ばかりのウソとかもだ。
他の恋人や友人にウソを指摘されても、騙されたフリをする。その場はなるべくハーレムの主の顔を立てる事。
追い込むのは正妻の仕事で、正妻以外の恋人やら愛人やらではない。
ウソにも様々な種類がある。そのウソが何の為のウソなのか、誰の為のウソなのか。そういった点をきちんと分析しよう。
ウソも方便というように、全てのウソが悪い事ではない。優しいウソにウソより酷い真実もある。
もしそれが悪意ではなく善意から生まれるウソであるならば、それに従った場合とそうでない場合に、どのような結果を生むのかを予測して、従うべきだと感じたならば騙されてやろう。
無論、悪意のあるウソや従ってはいけないウソに対しては逆らう事も必要だ。
賢い騙され方は、決して全てのウソを受け入れる生き方ではない。
「まぁ、何が言いたいのかと言うと、下手くそなウソに、上手に騙されて追い込むようにするのよ」
ただし、騙される事も肝要だが、相手が常にウソを言っているとは限らない。
ハーレムの中心は男、逆ハーレムなら女。愛を囁き、行為に及ぶ以上、その瞬間だけは信じていられるし、ウソには出来ない。
感じてないなら喘ぎもテキトーになるし、男なら中折れもする、絶対ではないが。
愛情があるならフォローも出来るし、次はこちらから誘う事も視野に入れる。
恋が冷めたならサヨナラすればいい。
ハーレムを作る以上、恋人同士の仲をとりなすのは正妻の務めとなる。同性との距離感を間違えると刃傷沙汰待ったなしだ。
甲斐性が年月とともに無くなってきても支える器量がいるし、他の恋人達から越されないように勝つ必要もある。
|唯一抜きん出て並ぶモノ無し《Eclipse first, the rest nowhere.》という諺は、レース以外にも言えるという事だ。
人生という長距離において、一位を取り続けるのがハーレムの正妻。
「ウララちゃんは特に話が別だ」
「中央を無礼るなよ」
卑しかオンナ杯という長距離でも、彩華は勝利できる。遠回しに天気は言っているし、その言葉にはなんのウソも偽りもありはしない。だからハーレムに否定的なのだ。
かーっ! 見んね、リノ、シズル! 卑しか男ばい!
(本当に愛しい人……)
誰しもがウソだと分かる言葉は、自分だけが本当だと思っているフリをすればいい。後で切り札になる。
恋人達を出し抜く際や、主導権を自分へと手繰り寄せる時に使える。
一つのウソを隠す為に、三つのウソをつく必要があるが、逆に三つのウソを本当にすれば、たった一つのウソで済む。愛した人に罪を重ねさせてはいけない。
また、ウソを真実にした瞬間、逃れられない鎖が手に入る。大切な人を本当にウソつきにしない為にも頑張る必要があるのだ。
ウソをつくのが得意な人もいれば、苦手な人もいる。苦手な人のウソは分かりやすい。ウソの詳細を語らせるだけで違和感が漏れてしまう。
時折それを揺さぶることで釘を刺す、そんな事も出来るという事を留意しておこう。
「苦節十年でウマぴょいさせてくれた」
「せめて物心ついた年から数えてくれない?」※現在十歳。
騙されていると指摘されても、騙されてますけど何か? と切り返すだけで済む。
そうそう、大事な事として、ウソの記録を残す事。許す許さないではなく、あの日どんなウソをつかれたのか、それらを記録しその数を留めておくことは無意味な行為ではない。
偽証やでたらめと騒ぐのは勝手だが、改竄やでっち上げにも限度がある。火のない場所に煙は立たない。弁護士をつけて〇京院の魂を賭けるだけ。
私のためにウソをついている、私のことを想ってウソをついている、この事が極めて重要だ。
ウソをつき続けるほどにハーレムの主は、特定の個人を意識する時間が増えていく。
ちなみにハラスメント対策にも使える。
彩華が天気に騙されるように、天気も彩華に騙されている、そう言えなくもない。
ただし、騙されていいのは、あくまで優しいウソだけ。騙されているフリに気付いていそうでも、気にしなくていい。
駆け引きはそんなもの。苦しむのも一興であり、楽しんでいたりもする場合がある。
(これが好きなんですよね? このマゾ(ハート)なんてね)
騙されているの返しに、私が信じたいから、信じたくもないウソなんて、騙されたくもない。というものもある。
自分自身が信じきれなくても、大事な人が自分を信じているなら、それを信じてみる。グレンラ〇ンにも似たようなセリフがあるし。
現実味が薄い事を豪語する事は、ホラ吹きである。時に人は声が大きい方の意見を採用してしまいがちだ。大本営発表とか。
本気で信じて実現するための努力を重ねた結果、尊い鍛練の果てに勝利がある。ただ、才能は努力では手に入らない。才能と鍛練を積み重ねても、勝てない領域は存在する。
(愚かしいほどに愛しい人……)
ウソをつきすぎて罪の意識で潰れてしまわないよう、兆候が見えたら一部でも叶える姿を見せてやろう。
潰れてしまったら騙され方が悪かったのだ。その場合は騙されていた分寄り添うか、更に締め上げて捨てるかとなる。
「ご主人様、魔法ばかりに頼ると、ウソつきになっちゃいますよ。あるいは、因果が収束して、円環の理に取り込まれちゃうかも?」
「……カヒュー……カヒュー……」
「あらあら……動悸が激しいですねぇ」
天気の意識がちょっとヤバいので、彩華は抱擁して精神を落ち着かせる。
「落ち着いた? メイドは好きですか?」
「……悪いんだけど、性癖に引っ掛からない。前世でもよく見たからかな」
「……ッチ。調教しなきゃ」
唐突な舌打ちに冷や汗が出る天気。
「あー、メイドさん姿の彩華可愛いなぁ」
「えへへ。お世辞でも嬉しいです」
(でも見慣れてるから、興奮はちょっと難しいんだよなぁ)
容易く心の防壁を破って、天気の本音を垣間見る彩華。
それを察知して、落ち着いたはずの動悸が再び始まる天気。
「……う・そ・つ・き」
「上げて落とすのは良くないよねぇ!?」
「何の事でしょう?」
耳元で囁かれるからドキドキしているのか、ウソをついている事を指摘されて動揺しているのか、これが分からない。




