顔合わせ
ある日、天気達はシズルの母親の案内で、所属している組織に連れて行く。
黒服が正門から出迎え、お義母さんとシズルの母親は別行動する。
デカい屋敷だ。メジロ一族、サトノ一族、ダイイチ一族、そういう名門や華麗なる一族が所有するタイプの大きさ。
「この屋敷は首領の所有地に建てられているから、わりと好き勝手出来るよ!」
「そうなんだ。ところで誰に会うの?」
「首領に会ってもらおうかなって。カチコミで得られた情報も、共有しておきたいとか」
しばらく進み、とある部屋の前に立ち止まるシズル。
ノックして入室の許可を得られたので、ドアを開き入っていく。
「来たか。初めまして、私はシズルの上司であり、この屋敷の主でもある。ラビリスタだ」
目元をサングラスで隠した女性が、デスクを挟んで出迎える。長髪の赤毛を三つ編みにして、毛先にシルバー・アクセサリーを付けていた。
「早速で申し訳ないが、実力のほどをみたい。地下へ着いてきてくれ」
「わかりました」
「移動中に説明しよう。君達が奪ったのは、純度の高いコカインに似た脱法麻薬だった。マフィアはヤクザや宗教法人へ売っ ており、ヤクザは純度を下げてアコギに稼ぎ、宗教法人は神の奇跡を、体験させる小道具として使っていたようだ」
「脱法麻薬……」
「純度が高いまま使うと、ラリって意味不明な言葉を喋りつつ、魔法のような現象が起きるそうだ」
動画をタブレットで見せられ、天気は魔力を無理矢理吸収する現象に近く、前世では農民を暴走させて突っ込ませ、吸収させた魔力による自爆で敵兵を確実に複数死傷させる、PTSD戦術を思い出す。
彩華は大気の魔力と使用者の生命エネルギーを、強引に結合させているように見えた。
「……自傷や自壊しても止まらない」
「まるで死ぬ間際の、最大限の抵抗です。死なばもろとも、命と引き換えに指や耳を奪うヤツですね」
リノの言葉は正しい。暴走したら死ぬ恐怖によって周囲を攻撃するので、目の前の敵に襲い掛かるし、味方にも被害が出る。精神力が強くても、自爆すれば着ていた冑や骨が飛び散る。
質が悪い事に、敵が居なくても臨界間際で止めておけるので、自壊しつつ人を探してさ迷う。
敵味方問わず、一般人すら戦死者に加わってしまうもの。要するに毒ガスとかと同等の厄介なヤツだ。
「これが新型Tウイルス……」
「ジャンキーなんてゾンビとたいして変わらないよっ」
「粉を舐めてもいいし、吸っても、水に溶かしても効く」
濃度やら純度の問題で粉を吸う以外は、効果に若干のムラが出るらしい。
「中毒者になったヤツを相手にしろと?」
「いや、違う。政府の、厳密には違うのだろうが、宮内庁のエージェントと戦って貰う。あまりにもヤバい薬なので、早々に目を付けられているが、外国人にはその辺は関係ないから」
アメリカの貧困層には薬物中毒者が蔓延している。中国が支援して、メキシコのカルテルが造り、アメリカへ移民とともに密輸させているのだ。
アメリカ国民全員を殺せる量があり、年間の中毒死者数は、第二次世界大戦時のアメリカ軍の死傷者に匹敵するとか。
「ここで、彼らと戦ってもらう。君達、特に世羅天気君は、スポーツ界隈ではあまりにも有名だからね」
地下への階段を降りると、四人の男女がいた。高校生くらいに見えるのが二人、大学生か社会人に見えるのが二人。
「来ましたか」
女子高生に見える女性が巫女服を着ている。隣の男子高生は勇者っぽい甲冑を着ていた。
そのさらに隣にいる女子大生はバニーガール風メイド服。袖やスカートが透けており、ハイレグ部分や脇が見える仕様。
男子大生は迷彩色の戦闘服、自衛隊だろうか。
「神社庁特別機動部の名護屋川零です」
「宮内庁特殊警護係の長谷部結城だ」
「宮外庁神霊班の天白円華よ」
「内閣情報調査室の 居澱折雅だ」
クソッ、高校生や大学生じゃない、社会人だった。しかもイロモノ!
宮内庁の男性と宮外庁の女性は、コスプレ喫茶店の店員なの? 神社庁の女性の巫女服がまともに見えるぞ!
内調が戦闘服着ているのは、マジで紛らわしいんだよ!
「名護屋川達とシズル達で、ラリってる連中の相手をするのに、どちらが適しているかを戦って決めてもらう」
「手加減はしない」
「子供相手に大人気ないですね。もう始まってます?」
零の言葉に、天気は首領へと確認する。
「始めといって、スタートするのはスポーツだけだよ。実戦や模擬戦に合図は無い事が多いから」
「では、一抜けさせてもらいます」
宣言するや否や、重低音の金属音とともに名護屋川を含めた大人達四人が倒れ伏す。
少し慌てつつも、冷静に外傷を確認する首領。打撃痕らしき、服のシワや甲冑のひび割れ、または部分的貫通が、正中線に沿って走っていた。
更に背中、いや、背骨へも打撃の痕跡が見られる。下手すると骨が剥離骨折して、神経に刺さっている可能性もあるだろう。
「な、何をした? 殴った? いや、殴ったというより、叩いたのか?」
「おぉ、正解です。カトラリーのナイフの背で、ガツンと何度も叩いたんですよ」
一秒間に一人あたりだいたい十回、前と後を峰打ちのように叩いたのだ。
甲冑や防弾ベストが砕けた音、それが重低音の正体。峰打ちで足りなかったら、追加で殴っているところだった。
「僕、強くはないけど、速いんで」
「ご主人様、速いと威力も上がるんだよ」
「大丈夫、手加減出来るから。高速戦闘でなら負けにくいし」
高速というか、光速で動けるんだけど。入射角が悪いと、反射で動きが外れやすいし、体感時間や未来予測も引き上げないと、自分の立ち位置も分からなくなる。
まぁ、物理攻撃なら反射とかしないけどね。




