バドミントン
天気はとあるバドミントン部の助っ人をしに、試合会場へとやって来た。
ユニフォームを借りて、ラケットも借りる。
「ノーバウンドで打ち返すんだよね?」
「テニスはワン・バウンド。卓球も。バドミントンはラリーの打ち合いとなるわ」
「なるほど、お互いに動かしあって、消耗させたら点が取りやすいと。頑張ってみるよ」
「ご主人様、ファイト!」
天気は試合が始まるも、動かない。
「緊張してるのか? ルーキー」
「……」
「だんまりかよ。勝たせてもらうぜ!」
威勢良くシャトルを打つ相手選手。
天気はまったく動かない。シャトルの軌道が変わり、届く範囲に向かってくるから。
相手はやや戸惑うも、打ち返されたシャトルに反応して、追い付いて打ち返す。
放物線が狙った所の軌道を描かず、天気の周囲にシャトルが向かう。
相手選手だけが、一方的に脚を動かすよう、コーナーの端を狙って打ち返す天気。
端から端へと走っては、中央の網付近にもシャトルが向かうので、前後にも走らされていく。
相手も網付近を狙ってみるが、何故か狙った軌道にはならず、シャトルは網の上を通過して、天気の手元に来る。そういうストレートに近い放物線だが、天気が打ち返すと山なりにシャトルが飛ぶ。
(おかしいだろ! こんなの!)
通常ならカット・スマッシュとかで、ラリーの読み合いに変化が生まれるのだが、天気は一歩も動いていない。
逆に試合相手は、自分の守るエリアを端から端へと走らされては、頑張って打ち返す事でラリーが成立している状況だ。
天気は、打ち返したシャトルの放物線を絶妙な角度にして、滞空時間と相手が追い付くまでの距離を調整している。
シャトルの形状上、迫撃砲のような通過した手前に落ちる、急激な放物線は描けない。
キツい角度と山なりの角度となる放物線、この二つが基本なので、ひたすら相手を動かす事にしたのだ。
「ぜぇ……ぜぇ……っ!」
序盤こそ余裕ぶっていたが、今では肩で息をする相手。
だが、このままでは動けなくなる。
だから止まろうとしたが、足が勝手に動いてシャトルを追う。
相手の監督も止まれと声を掛けるも、足が動き、腕を振って全力でラリーを続ける。
対する天気はまだまだ余裕である。
相手の心が折れるまで自動で手足が動く、そのように魔法を掛けた。
あとはひたすらラリーに付き合うのみ。
天気は一点も取られる事なく、試合に勝ってみせた。
続く二回戦、三回戦も同様に相手をひたすら走らせては、半強制的にラリーをする。
相手が負けたいと思うまで、手足は動き、呼吸も必死になる。手足の骨が疲労骨折したり、肉離れをしても、その場で治す。
勝てないではなく、負けを認めるまで地獄は続く。
そんな事が続くと、対戦相手は疲労困憊で帰る事となる。満員電車に揺られて帰る人は、更なる地獄にあってしまう。
「ヒソヒソ、何でラリーを続けてるんだ?」
「ヒソヒソ、一歩も動かないのはなんで?」
延々と続くラリーの応酬、それでも動く事すらない天気。
観客や監督もいぶかしはじめる。まぁ、試合の日程が終われば忘れるのだが。
(不気味すぎる。シャトルの軌道も変だ。こんな軌道で飛ぶようには、打っていないのにっ!)
(あんな打ち合いになるようには、今まで教えていない。ムキになっているのとも違う。だが、異変があるような表情でもない)
(こんな試合は初めてだ。シャトルを変えても続くラリー。……あのシャトルは不良品なんだが、どうしてあんな風に飛ぶんだ?)
あんまりな試合に、審判員が介入してきた。本来はあってはならない事だが、ラリー中にシャトルが壊れる事もあるし、壊れたシャトルを間違って渡してしまうヒューマン・エラーは、どうしても起きるので怪しむ程度となる。
意図的なのがバレれば、審判員はクビになるリスクもあるので、膠着状態を動かす最後の禁じ手だ。
無論、天気は不良品のシャトルだと分かっている。彩華も気付いたので、審判員の弱味を放出し、報復は静かに完了した。
が、審判員は怪しむものの指摘しない。出来ない。
結局、相手がバテて動きが緩慢になり、天気は勝った。
そうやってシングルは優勝した。
違う日に男女混合ダブルスの試合があり、天気は彩華と一緒に出た。
案の定、彩華が集中砲火されるも、腕だけ動かすラリーの応酬となる。
相手チームは絶望した。
二回戦、三回戦、準決勝へと勝ち進み、決勝戦すら酷い試合展開となってしまい、テレビやラジオ局が、実況とか解説に困ったのは言うまでもない。
不自然極まりない試合だが、大会が終われば人々は忘れる。動画や配信を見て絶望が甦る事はあるが、アプリを閉じたり、意識が逸れたら忘れるので、騒ぐ人は少ない。
テニスも卓球もほとんど同じように勝ち進む。どんな努力も、天性の才能も、友情のチーム・プレーも、根性による粘りすら天気達には通じない。




