姉なる人
「だ、誰ですか?」
天気達よりも年上に見える女子。小学校の高学年か、中学生くらいか。
彩華とは真逆の褐色の肌、黒い目に茶髪をツインテールにしている。淡い緑色のワンピース、淡い水色の半ズボンに安全靴みたいなシューズ、背丈も彩華より高い。
「えぇ、私の事知らない? お父さんが写真を送っておいたって言ってたけどなぁ」
「天気のお義父さんが?」
「そうそう。南米にいたお母さんと、弟君のお父さんが出会って、現地妻とイチャイチャした結果、私が生まれたって訳。それを隠していたのは、お母さんの事情なんだけどね。改めて、世良シズル。弟君とは異母姉弟となるの。よろしく!」
南米生まれの日本育ち、母親は日本に移住していると、身の上話を簡単に続ける。帰化する際に名字は、世羅と同じ読みから取って付けたらしい。
「写真とかは、たぶん、お母さんが握り潰してるかも……」
「ん? 家にいないからおかしいとは思ったけど、弟君はどこに住んでるの? メイドちゃんの家?」
「うん。そうだよ」
「そうだよ」(便乗)
彩華はクレープを食べてしまい、チョコを保冷バッグに片付けて、天気の股の間に座る。
「そ、そうなんだ。弟君のお母さんは放任主義なんだね。親としてヤバい部類か~」
「そうだよ」
「天気は私の家の子なんだよ!」
「そうだよ」(便乗)
「……そうだよ以外も言ってよ」
「急に現れた、姉と名乗る人に絡まれてるんだけど、そこらのナンパより恐くない?」
「それは、確かに」
「ま、まぁ。私は弟君のお父さんが亡くなったって話を、私のお母さんから聞いてね。それで捜していたの。お姉ちゃん・パワーで」
サイコメトリーでも、お姉ちゃん・パワーなる超能力を信じている事が分かった。
おそらく、妹を名乗る他人も出てくるだろう。
「ふーん、死んだんだ」
「実の父親が死んだ割には、まったく悲しそうじゃないのね。いや、私も顔を知らないから気持ちは分かるけどさ?」
「僕のお母さんは知ってるの?」
「知ってると思うんだけど……。郵便がたまってたから。家に帰ってるかどうかも怪しいわ」
「まぁ、あの人はそんな人だから。知っても何もしないし、悲しんだりもしないよ。仮面夫婦だったみたいだし」
天気としては、両親は久野家の二人という認識だ。産みの親と育ての親である。圧倒的に育ての親に軍配が上がるものだ。
産みの親なんて、本当にどうでもいい存在でしかない。
久野家に多大な迷惑をかけるようなら、保育園の時に始末していたが、金はキチンと払ったりしていたので、まだ殺さなくてもいいかと考えていただけ。
「で、悪いニュースをわざわざ伝えに来ただけ?」
「良いニュースもあるよ。私という姉がいるから。住所と連絡先も渡しておくので、困った時は頼ってね!」
「はぁ……」
「この町に住んでるから。北海道とか九州とかじゃないから。お金の事で困ってるなら、今日は一万円渡しておくよ。三日後に私の家に来てくれたら、百万くらいは出せるからね」
「お義姉さん。それ、親の金なんじゃない?」
「やだな~、メイドちゃん。私、お姉ちゃんの個人的なお金だよ! 鉛玉一発で、フェラーリが買えるアルバイトを、たまにしてるだけ!」
ヒットマンかな? 学校の黒板の裏に末端価格で億単位の麻薬を隠してたりしない?
サイコメトリーで心を覗くと、マフィアとヤクザの抗争が見えた。薬物の取引現場を襲撃したりもしている。
この姉、そのスジのモンだ。幻のスジモン、いや、フォージャー家の母親レベルか?
とにかく、戦闘力は高い。実の母親のコネでアルバイトをしているのか。……母親は南米のマフィアの幹部。それで天然のヒットマンとなるのか。魔法とか無しでこれか、ヤバいなー。
あと、小学五年生でこの町のマンモス学園系列の、天気達と同じ小学校に通っている事も分かった。先輩になるのか。
とりあえず、一万円は突き返す。
「お金には困ってないです」
「そう? あ、メイドちゃん借りるね、弟君」
彩華を手招きして、天気から離れた公園の向かい側へと移動する。
「何か……?」
「メイドちゃん、彩華ちゃんに渡しておくモノがあるんだ。彩華ちゃんのお母さんに渡して欲しいの。お父さんにでもいいよ」
分厚い封筒を、ワンピースをめくってお腹あたりから出す。下は防弾チョッキと小物入れのついたベルトを巻き付けていた。それを誤魔化す、外付けの人工皮膚も付いている。
「お姉ちゃんのお母さんから、血縁者が世話になっている養育費って事らしいの」
「受け取れません」
「あら、やっぱり? なら、お姉ちゃんが直接会いに、自宅へ行こうかしら」
「何故、私に対してもお姉ちゃんなんですか?」
「弟君の彼女だかメイドだか知らないけど、弟君と同い年なら私はお姉ちゃんでしょ?」
「メイドであり彼女です。許嫁と言ってもいいですね」
「弟君と、これからもよろしくお願いします。お姉ちゃんと血の繋がったかわいい弟君を」
「お姉ちゃんさんの存在が、ノイズになりそうです」
(言われなくても、天気とはよろしく楽しく、目立ちまくってやるから)
「……たぶん、心の声とセリフが逆だと思うなぁ」
「えっ……」
「ふふっ、お姉ちゃん・パワーをナメないでね!」
この姉、出来る! と密かに警戒する彩華とともに、天気が待つベンチへ移動し、三人で帰宅する事にした。




