雪中行軍
小学三年生の冬休み、天気と彩華は父親に連れられて、雪が積もった山奥に来ていた。
一年生の夏休みから始めた、色々な道場やスポーツを荒らし回る暇潰しも、騒がれては落ち着いてを繰り返してきたこの頃。
一応はロシア正教の父親に連れられて、クリスマスには教会で讃美歌を聞いたり、ケーキを食べたり、時には性夜のためにお医者さんごっこをしたりした。
いやらしい意味ではなく、マジの解剖学である。動脈とか、圧迫止血とか、肋骨の隙間から内臓を刺す角度とか。刃物は横向きに刺し入れるとか。
で、今年は興が乗ってきたのか、都市迷彩色の衣服を着たお父さんが、雪中行軍の練習をすると言い出したので、北海道に向かったのだ。
「クマが出るヨ。冬眠前のヤツ」
「シベリアじゃないだけマシですよ」
「ツンドラ方面だと焚き火も消えるんでしょ?」
「氷柱もフル。シェルターも吹雪で吹っ飛ぶゾ」
ヤベーよ、シベリア。怖いよ、ツンドラ。
「冬将軍を無礼るナ!」
中央の会長並みの凄みを出すお義父さん。
「ロシアって冬泥春泥冬のサイクルなんですよね?」
「冬泥冬冬、もしくは泥冬冬泥だヨ」
「夏はない?」
「千島列島があるヨ」
国際問題になるネタは、なるべく触れたくないかなぁ。
「……ここから、キャンプ地を探して行軍するゾ」
「八甲田山……」
「大丈夫、遭難したら、肌と肌を密着させて暖めるからね!」
「それは洞窟とかでやるんじゃない?」
「地面掘って、風避けにすればいいじゃない」
掘る元気があるうちの話だよね、ソレ。と天気は思ったが、考えてみれば彩華には忍術もあるから大丈夫なのだろう。
天気は魔法でもなんとかなるし、魔術で吹雪や風をやませる事も出来る。雪でも晴れにしてしまえるので、最悪の事態は防げる。
「父さんはしばらく別行動する。息子よ、強く生キロ」
「待ってお義父さん。彩華に襲われる前提なの!?」
「出来れば孫は成人してからが望ましイ。お母さんもそう言ってる」
「お義母さんに襲われたりしたら?」
「娘の弟妹産んでからなら、その更に弟妹として育てるだけだヨ。三姉弟とか、三姉妹とかロシアではアルアルだよネ」
「NTRとか託卵は普通じゃないかと……」
「愛する息子の子なら、それでも愛する妻を許そう……」
白〇げのお、親父ー! 血の涙拭いてよ……。
「は? ご主人様は私のだし! お母さんの手綱を握っててよお父さん!」
「財布のヒモと胃袋を握られてるから、難しいかナ……」
「こんな事してる暇があるなら、クマでも狩って毛皮とかでも売って、お金稼いでレストランとかにでも行ってよ!」
「オー。娘が手厳しい……。三日後に会おう」
そ、それでいいのか、お義父さん……。
重い足取りで離れていく父親を一瞥して、彩華は天気の手を掴んで、奥へと向かう。
「まさかカッコウ作戦を練っているなんて……」
「彩華、僕は彩華だけでいいからね。お義母さんはライクであって、ラブじゃないからね!」
「分かってるわ。四年生までに弟妹が出来ればいいのよ。何かそういう魔法薬無いの?」
「あるけど、前世のだから。後遺症が出るかも……」
「お母さんなら大丈夫でしょ。多少の後遺症程度は」
せ、せやろか。三つ子とか産まれるかもしれないけど。最悪、五つ子くらい弟妹が出来るんですけど?
「薬を盛っておくから。家に帰ったらちょうだい」
「わ、分かった」
(……計画通り……!)
魔法の排卵誘発剤。悪用厳禁なブツである。
ワルい顔を胸の内に浮かべて、良さげな場所に着くと、折り畳み式のシャベルで地面を掘っていく。
「簡易拠点としての、地下空間を掘るわ」
影分身による人海戦術で掘っては固めて、外では狩りや罠を仕掛けていく。もちろん、天気も手伝う。
あっという間に直径十メートル、高さ三メートルの大穴を掘ってしまう彩華達。
「ここが三日間過ごす、愛の巣ね」
「警察にバレたら虐待だよねー」
「昔、親に歩かせられた子供がいたじゃない?」
「自衛隊の倉庫で発見されたヤツ? まぁ、躾としては昭和世代だと、良くあるヤツだよね」
「夏合宿の狩りとか、普通に事案よ。親同伴でもイノシシを狩るなんて、日本ではしないし?」
「そのうちアブミサワ村跡地とかに、連れて行かれそう……」
「私達のようなのが、あと二人いるって? 居てもおかしくはないけど、二人ですむのかしら……」
力が欲しいか。力が欲しければ、とか語り掛けてくるのか。
予備の服を持ち歩く必要があるのか。いや、ノータイムの召喚魔法による、早着替えがあるからどうでもいいが。
「もしくは、異世界に召喚されたり?」
「そんな事言ってたら、学校にテロリストが現れるってば」
ジャーニー監修のウララによる、パーフェクト・キリングな反応集は凄かった。
「ま、異世界へのクラス召喚とかは、巻き込まれたなら防げるけどね」
「テロリストも不審者も、私が登校している内はどうにでも出来るわ」
余程の事が無い限り、大抵のハプニングは力ずくで解決出来る。それだけの研鑽を前世ではしてきた。
だから複数の魔法や魔術も使えるし、それを維持できる魔力量と、コスパがいい術式も編んでいる。
「お、クマ仕止めたから、血抜きして解体しましょ」
「夕食はクマ鍋だね」
「米は取り寄せるー?」
「サバイバル訓練中だから、無しで。リスが溜め込んだドングリとかしか無いよ」
「そういえばさ。ロシアはウクライナと戦争してるけど、犬すら捌いて食べてたとか」
「犬食文化は、あるにはあるけど、おおっぴらには出来ないよね」
馬肉を食う事もあるし、競馬場で安楽死させた馬肉が店頭に並んだデマもある。
人間は猫すら食べるし、コーヒー豆を食べさせたジャコウネコの糞を焙煎して、コーヒーを作ったりもする。
「……牧場のウマの野菜でも貰う?」
「やめなさい彩華! サバイバル訓練に物資の強奪は含まれてないから!」
「いや、クマ肉を代わりにおくけど……」
「ウマは草食。プリティな擬人化アニメと現実は違うから」
「人間を忘れないで。トレーナー以外の人間も、たまには思い出して下さい」
「マーチ〇ン、マーチ〇ンをよろしくお願いします」
ドングリの灰汁抜きを時短魔法でとり、粉砕しつつ加速魔法で発酵を早め、石灰と水の化学反応を圧縮させた竈で焼く。
このドングリパンとクマ鍋、ドングリを焙煎したコーヒーが主な食事となる。
「まだまだ寒い。寒くない?」
「あー……。うん、寒いねー……」
「ご主人様、密着しましょう!」
「野外プレイはちょっと……。いえ、何でも……」
彩華が強引なスキンシップをとってきた。半ば予想通りだったので、天気は諦めて服を脱ぎ、半裸になって、同じく半裸の彩華と抱き合う。
「すぅー、はーっ。天気の匂い、好き」
「発情らないでね。四年生になったら、いや、彩華の四年生の誕生日に、イイ所に連れて行ってあげるから」
「思ったんたけどさ。加齢の魔法薬があるなら、高校生くらいになって、お城みたいなホテルにも行けるよね」
「身体は大人でも、精神が子供だと、ただのこどおじ、こどおばだよ?」
「ヒモな主夫や主婦を、敵に回しかねない発言は慎みなさい」
「……メイドも主婦みたいな事してるよね」
「は? ご主人様、メイドである私に喧嘩売ってるの? ご主人様の誕生日に尻も犯すから、覚悟しといて。絶対に赦さないから」
「あ、アブノーマルなのは中学生とか高校生とかに。倦怠期が早まっちゃう」
「私の身体、飽きた?」
「まだ何もしてないよね!?」
「抱き合ってるじゃない。純情ならこれで想像妊娠しちゃうかも?」
「キスされたら赤ちゃんデキちゃう、的なヤツかよ!」
「ウマだっちしたのを股間に擦り付けて、射精したら妊娠する事もあるわ」
「お、風呂別々に入る? 寝るのも別々がいい?」
「どっちもイヤ!」
だいしゅきホールドはやめなさい! ベロチューもやめっ、舌で歯みがきはらめぇ!
三日間、天気は彩華と組んずほぐれつしつつ、サバイバルしてウマぴょい未満な事をしていく。




