着衣水泳と人工呼吸
久野一家は海にやって来た。
「潮干狩りー!」
「ボラとか釣ろうっと」
「ハッハッハッ! どっちもないヨ。ただの砂浜と海だけサ」
テントを建てるお義父さん。日傘の下でシートを敷いて、長袖長ズボンに麦わら帽子、サングラスと防御を固めているお義母さん。
「彩華、天気君。日焼け止め塗って。あとお母さんにも」
「私達は塗り合いっこするから。お母さんはお父さんに塗って貰えば?」
隙あらば天気に近寄る母親を牽制する彩華。
「つれないわね~」
「天気、塗ってあげるから海パン脱いで」
「いきなり全裸!?」
日焼け止めを塗った手つきがちょっとヘンタイだよ。と突っ込んだら、手が滑ったと海パンの中に突っ込んできた。
「や、止めっ! 念入りに塗らないで!」
「デリケートな部分だから、しっかりと塗らないと~」
「彩華、後で覚えてろよっ」
「バッチ来い! 揉んで成長を促すんだよ!」
コイツ、無敵か!?
その後、彩華の全身をまんべんなく塗り、砂浜で城を作ったり、泳いだりして遊んだ。
「服を着て海に入ってみヨー」
しばらくして、お義父さんが海の家で焼きそばを食べつつ、天気達に着衣水泳の基本を教える事となった。
「シベリアだと、川に落ちただけで死ぬからネ」
「最近の日本は、イルカやマグロが出るらしいよ?」
「アー、噛みつくイルカがいるのは、別の海だヨ」
「氷山って乗れるの?」
「乗れるよ。手足が凍傷になる可能性もあるけド」
水を吸った衣服は重い。水の抵抗も強い。浅瀬でも溺れるレベルだ。
「天気、……ご主人様、助けて」
「え、どうしたの?」
「クラゲに囲まれたわ!」
「いやビニール……にゃー!!」
透明なビニール袋かと思ったら、本物のクラゲだった。手に触手が! ああ! 仲間も!
「猿忍空ジツ、空電掌!」
「あばばー!!?」
天気は感電して黒煙を上げ、水面に浮かぶ。クラゲ達は離れた。
「大変、ご主人様が溺れちゃった。砂浜でマウス・トゥ・マウスしなくちゃ!」
コイツ、愉快犯だな。そこまでして唇を奪いたいのか。と、天気は回復魔法をかけつつ思う。
「……ま、待ってーー」
「ーーさぁ、ご主人様。お母さんに捧げる前に、私が奪ってやりますからね!」
初恋ハンターかな? それとも幻陰旅団?
いや、待て。人工呼吸はノーカンだから、好きにさせておくか?
と考え、気絶したフリを続ける天気。
「……ご主人様起きてます? 本当に人工呼吸しますよ? 睾丸マッサージもしてあげますね」
何それ、怖い! 痛みで意識の覚醒を促すつもりなのか?!
浜辺にて、恐怖で返事が出来ない天気の頬を包み込むと、唇と唇を重ねる彩華。
「お前に魂があるなら応えろ! なければ、お前に命を吹き込んでやる!」
(それ、人間には通用しないんじゃね?)
簡単には死なないという確信があるので、最後通帳として確認したのだが、天気は恐怖で声が出ない為、人工呼吸と称したファースト・キスをする。
舌で天気の唇をなぞり、歯を舌で磨くようにナメ、歯茎も隙間なく這わす。
天気の口を通して唾液を流し入れつつ、肺臓の空気を抜くべく吸い込む。
天気は呼吸が苦しくなり、噛み合わせられた歯と歯が開く。そこへ彩華の舌と唾液、呼気が入ってくるので、唾液を飲み込んでから呼気を肺に入れる。
首や頭の後ろに手を回されているので、もう逃げられない。
歯の内側や歯茎の内側にも舌を這わし、磨いては呼気と唾液を入れ、天気の唾液や舌を絡め取る。
次第に苦しくなってきたので、魔法にて彩華の呼気を、二酸化炭素から酸素と炭素に分解して、炭素を唾液に混ぜて彩華に飲ませる。
また、別の魔法で海水を分解して水素、酸素、ナトリウムとかに分けて乾かし、皮膚呼吸の効率を上げ、光合成の魔法にて体内の二酸化炭素を分解して唾液に混ぜていく。
口元は唾液と海水でヌラつくし、彩華はまだ満足しない様子。
(なげーなぁ。魔法使えなかったら死んでるんじゃね?)
そろそろお義父さんが心配するのでは?
と思ったが、お義父さんは影分身の方を見ている。彩華と天気に化けた影分身は、普通に着衣水泳をしており、波に漂ったり、水面から顔だけを出して、仰向けになる基本を練習していた。
(そこまでするのか……。ところで、心臓マッサージはしないのかな?)
ようやく口を離した彩華は、天気の胸、ではなく、海パンの中に手を入れてしまう。
「コリコリしてあげますね~。痛かったら右手を上げて下さいよ~」
天気は右手を上げるも、彩華はその上がった右手の位置へまな板のような胸を押し付けつつ、水着の中に入れる。
「ご主人様、彩華のも揉んで?」
「早まるな、この駄メイド!」
天気はテレポートで脱出し、全裸のままヘッドロックしてやる。
精度が甘いからか、衣服や海パンが脱げるので、テレポートはしたくなかったのだ。
転位魔法では彩華も一緒に転位するので、無意味ではないが……。
「きゃー! ご主人様に襲われるーっ!」
「四年生になったらね」
「え、マジ? 同時に卒業する?」
「なるべく、お清楚にしてくれたら。一日中付き合ってヤるよ」
「おけマル。……嘘だったらお母さんをけしかけるから。親子丼で卒業させるわ。人生を」
「僕死んでる!?」
タマヒュンしつつ、海パンと服を着て、何食わぬ顔でお義父さんの側に近寄る二人。
「……あのさ、亥忍のジツに海の生き物を召集するのがあったよね?」
「あるわよ。エイとかエビとか呼べる」
「さっきのクラゲも?」
「え、タマタマだけど……。疑ってるの?」
「いやぁ、ただの確認だよ」
キョドってすらいないので、シロと判断する天気。実際、彩華は無関係なのだが、マッチポンプを疑われても仕方ない。
「刺されなかったからね~」
「あぁ、犬忍の意識を間借りするジツの応用で、絡み付くだけにとどめたの」
「つまり、僕が手を貸す必要は無かったよね?」
「えぇ……。ご主人様は困ってる私を、助けてくれないの?」
「助けるけど。目の届く範囲が限界だからね? 単独行動されると助けられるモノも、助けるのが遅れるからね」
事実、女子トイレ突撃事件では遅れたし。
困っている人を助けるのは、あまりしない。助けてもらえるのが当たり前、助けを求めていないのに手を差し出す偽善者、等と勘違いされるからだ。
前世からの教訓でもある。
食糧を生産するべく牧場や農業を経営しては、貧困や飢饉、災害になった時、率先して炊き出しや食糧の配布を行うも、感謝されたのは初日のみ。三日以上炊き出しを続けると、カモにされてしまうのが前世の民意だ。
「私もご主人様を助けてあげるわ。お金とかで」
「メイドのヒモにされる。ただでさえダメ人間にされてるのに」
「ご主人様を支えるのがメイドの仕事であり、忠誠心のヨスガとなるの」
「メイドとして、ご主人様を襲うのも?」
「それはお母さんよりも先に奪う事で、マウント取ったり、心の安寧というか、私が最初にしたから、二番手くらいは多めに見てやるとか。最後は私を求めてくれるとかの、高みの見物的なヤツね」
「正妻の余裕ってヤツ?」
「それでもいいわよ。ご主人様の好きに捉えて下さいな」
しばらくして影分身と入れ換わり、着衣水泳を続ける二人だった。




