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電車の中の風景

作者: 明けの明星

電車に乗った。

いつもは通勤で使うから、朝と夕方に乗ることが多いがこの時は平日の午後、

昼下がりと行った時間帯だ。


車内はさほど混んではおらず、座席はほぼ埋まっている者の立っていつ乗客もまばらな感じだ。

私は、長椅子の隅に座り周囲を見ていた。


電車が駅に着き、ドアが開く。

この駅からは多くの人が乗り降りをする。


座っていた人が下車し座席のいくつかが空く。

乗り込んできた乗客が、その席に座る。


ふと斜め前をみると一人分の空席があった。


そこをめがけて、乗り込んできた小さな子供が小走りでやってきた。

その子供が席に着く、その一瞬前に大人の男性がその席に座った。


その子はタッチの差で席に座れなかったのだ。


男性は

「子供は立っていればいいんだ」

そう吐き捨てるように言った。


子供は悲しそうな顔になり、後ろを振り向いた。

そこには、その子の母親と思える女性がいた。


大きなおなかを抱えており、臨月に近いことが遠目でもわかる。


「ママ」と小さな声で子供が言った。


「いいのよ、ゆうくん」


その女性は子供に言った。


子供は母親のために席をとりたかったのだ。


私は斜め前の男性を見た。

「このひと、どうするつもりなんだろう。寝たふり、だよね」

内心そう思った。


するとその男性が立ち上がり、子供と同じ視線に腰を落とした。

「きみ、きみはママにこの席に座ってもらいたかったの?」

男性が言うと、子供は頷いた。


「いま、おじさんはきみにとてもひどいことを言ってしまったね。

きみはママために、席をとろうとしたんだね。

本当に、ごめんなさい」


そう言って男性は男の子に頭を下げた。

そして、


「この席はママにすわっていただこう」

と言うと、


「ママとお腹の赤ちゃんだよ」

と子供が言う。


そして、子供と男性が母親にその座席に座るように促した。


母親は、

「ありがとう、では座らせてもらうね」

と席に座った。


子供は嬉しそうに、母親の膝に顔をうずめていた。


座席周辺の人が少しずつ間合いを詰めたので、子供も座れるスペースができた。

母親のとなりにちょこんと座る子供。


しばらくして、男性が電車を降りた、子供は手を振って母親は会釈をした。


そんな様子を眺めて、男性が「寝たふり」をしなくてよかったと私は思った。

この子にとってこれはとても大きな経験だから。


この子が大きくなって、男性と同じような立場になった時、寝たふりなんかして逃げるような大人にはならないはずだ。


母親の隣でうとうと眠り始めた子供をみながらそう思った。


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― 新着の感想 ―
男性の真の姿が見られて、少年も少年の母も同じ車両にいた人も心地よい気持ちになれた事でしょう。
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