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商談を終えた道三が店に戻ったのは、午刻(正午)を少し過ぎた頃だった。表の店では、常の如く薬種の取引が続いている。


「申し訳ございませぬ、その生姜は品切れにて...」


店の小僧が客に応対する声が響く中、道三は奥座敷へと向かった。清吉はすでにそこで待機していた。二人の間で、短い暗号が交わされる。


「白朮の出来は上々でしたな」


「はい。特に新しい物は、格別の品でした」


道三は座敷の隅にある薬箪笥から、特殊な油を取り出した。清吉が写し取ってきた図面の文字を浮かび上がらせるためのものだ。


「これは...」


油を塗布すると、薄紙に写し取られた文字が徐々に浮かび上がってくる。それは、驚くべき内容だった。


「大筒の図面...しかも、これは...」


道三の表情が険しくなる。図面は、通常の大筒とは明らかに異なる構造を示していた。特に、薬室の構造が特殊だ。


「火薬の配合も特殊でしたな」清吉が低い声で報告を続ける。「硝石が通常の倍以上、しかし硫黄は少なめ。それに...」


「焼き討ちの仕掛けか」


道三は図面をさらに詳しく見る。これは単なる武器ではない。建物を効率的に焼き払うための特殊な仕掛けだ。


「土蔵の中には、他にも...」


清吉は懐から、別の写し取りを取り出した。そこには、江戸城の一部と思われる図面。そして、几帳面な字で書かれた日時と場所。


「来月の七日...」


道三は暦を確認する。その日は、重要な儀式が行われる日だった。


「急を要するな」


彼は立ち上がり、薬研で何かを擦り始める。白い粉末があっという間に、微細な粒子となっていく。


「これを」


道三は粉末を、特殊な紙に包んだ。これは「早飛び」と呼ばれる緊急連絡用の仕掛けだ。紙は、水に溶けると同時に発火する特殊な加工が施されている。


「町奉行所の白井殿へ。暗号は...」


彼は別の紙に、市場の相場を装った暗号文を書き始める。その時、清吉が窓の外を見て、わずかに身を強張らせた。


「道三様」


「何かあったか?」


「向かいの屋敷、見張りの位置が変わりました。それに...」


清吉は言葉を切る。表の通りを、見慣れない武士が歩いていく。その歩き方は、明らかに辻斬りの心得のある者のそれだった。


「気付かれたか...」


道三は筆を走らせる手を止めることなく、別の引き出しに手を伸ばす。そこには、特殊な防具が収められていた。薄い鉄板を何枚も重ねた、柔軟な帷子かたびら。表からは、普通の着物にしか見えない。


「清吉、裏口から...」


その時、表の店から、客の声が聞こえてきた。


「薬種商の旦那、ちと薬の相談を...」


その声は、明らかに作られたものだった。


[続く...]

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