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翌朝、巳の刻。道三は商談の道具として、薬種の見本を幾つか詰めた長持を担いで、向かいの屋敷を訪れていた。


「これは確かな品でございます。特に、この人参は...」


表向きの商談は、いつもの通りに進められる。だが、道三の意識は常に周囲の様子を観察していた。特に、建具の配置や、畳の目の方向、襖の動き具合には注意を払う。これらは、隠し部屋や抜け道の存在を示す重要な手がかりとなるからだ。


応接の間に通された時、道三はさりげなく薬箱を開けた。底に仕込んだ隠れ粉が、微かな気流で舞い上がる。無色無臭の粉は、畳の表面に静かに降り積もっていく。


その頃、清吉は屋敷の裏手で動きを開始していた。


「まずは...」


彼は建物の構造を確認する。雨樋の配置、屋根の勾配、そして最も重要な、地面と床下の距離。老練な大工の目から見れば、この建物には明らかに不自然な部分があった。


清吉は足袋の裏に特殊な松脂を塗り、音を立てずに移動する。床下に潜り込む前に、まず百足香を周囲に撒く。犬の鼻を惑わすためだ。


「巳の刻の一刻後(約30分後)...」


約束の時刻になると、道三が商談の中で咳払いをした。それが合図だ。清吉は素早く床下に潜り込む。闇目の薬を差した目が、すぐに暗闇に順応していく。


床下では、思った通りの発見があった。通常、柱と柱の間は空いているはずだが、ここでは特殊な格子状の仕切りが設けられている。しかも、その一部には...


「足跡...」


清吉は水晶粉を振りかけ、慎重に足跡を確認する。定期的な人の出入りがあることは明らかだ。そして、その先には...


床下を進んでいくと、土蔵につながる地下通路を発見した。表からは決して気付けない、巧妙な造りだ。通路の壁には、特殊な漆喰が塗られている。湿気を防ぎ、なおかつ音を吸収する効果がある。


清吉は通路の構造を記憶に留めながら、さらに奥へと進む。土蔵の床下に辿り着いた時、彼は息を呑んだ。


そこには、大量の火薬と、何かの図面らしきものが...


一方、商談を続ける道三の前で、屋敷の当主が大きな茶碗を手に取っていた。


「この茶碗、随分と珍しい造りですな」


道三の眼が、わずかに細められる。茶碗の高台に施された文様。それは、かつて大坂城で使われていた暗号に似ていた。


時は流れ、未だ豊臣の世を忘れぬ者たちの動きが、密かに蠢いているのか...


[続く...]

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