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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

別の世界ではただの日常です

推すと死ぬ

作者: 茅野榛人

 僕には推しのバーチャルムーバーがいない。

 何故なら、僕には推すと言う行為に責任を持つ事が出来ないからである。

 僕は記憶力が非常に弱く、昨日の出来事すらまともに覚えていない。

 金もない。

 推しが出来ても、投げ銭もグッズの購入もまともに出来ない。

 しかしこれに関しては、自身のプライドの所為で、出来てしまっている問題なのでは無いかと思っている。

 安い金額を投げ銭したりしたら、金が無い奴だと思われるに違いない。

 そんな目を向けられるのは死んでも嫌だ。

 推すと言う行為には、それなりの責任が伴うのである。

 しかしバーチャルムーバーは好きだ。

 なので僕は暇な時、必ずインターネットでバーチャルムーバーの配信や動画を探し回っては、閲覧している。

 何の未来も見いだせない僕に、唯一残されている趣味である。

 しかし今日、久々にSNSを見ていた時、不穏なハッシュタグが広まっている事に気が付いた。

 そのハッシュタグの言葉は、『推すと死ぬ』だ。

 最初は全く意味が分からなかった。

 しかしそのハッシュタグの書き込みを見ていくうちに、意味が明白に判明した。

 意味は、本当にそのままであった。

 バーチャルムーバー『杜羽とわひつき』を推した者が、決まって失踪、死亡する事から、このハッシュタグが広まったらしい。

 SNS上では、呪いだの陰謀だのと騒いでいるが、当然杜羽ひつき本人は全否定。

 僕もそう言った説は一切信じる事は出来ない。

 推すと死ぬと言う噂も、杜羽ひつきを推す人達に、失踪、死亡した人が多い為出来た噂であろう。

 僅かに事件性があるようにも思えるが、考え過ぎであろう。

 こんな噂、直ぐに収まる。


 杜羽ひつきを推すと死ぬと言う噂は、未だに収まっていない。

 調べてみると、失踪、死亡した人が増え続けていた。

 流石にこれほどまでに失踪、死亡が続くと、もしかしたら本当に杜羽ひつきを推すと、死ぬのかもしれない。

 確実に何かが起こっている。


 もう、生きたく無い。

 人生が上手く行かない。

 明日にでも、死のう。

 いや、もっと良い方法があるでは無いか。

 杜羽ひつき、このVムーバーを推せば、分からないがきっと死ねるはずだ。

 金は無いが、どうせ死ぬのだからもうプライドなんて捨てよう。

 僕はこの日から、杜羽ひつきを、全力で推す事にした。


 杜羽ひつきを推し始めてから一ヵ月が経過した。

 今の所、僕の身体は至って健康である。

 杜羽ひつきを推したら死ぬのでは無かったのか。

 もう分からない事だらけだ。

 僕は完全に杜羽ひつきを推しているはずだ。

 暇な時は絶対に杜羽ひつきの配信や動画を閲覧し、SNSによる拡散や、出来る限りの投げ銭とグッズの購入もしている。

 それなのに、俺は死んでいない。

 あの噂は、悪い冗談だったのか? いやしかし、僕が調べた限りでは、杜羽ひつきを推していた人達は決まって失踪、死亡しているのだ。

 これは、流石に冗談ではないであろう。

 何なんだ……もう何なんだ一体……。


 突然僕のSNSアカウントに、杜羽ひつきからダイレクトメッセージが届いた。

『貴方が、唯一私を推して無事だった方です。一体何が起こっているのかは分かりませんが、何故か私を推す人は絶対に失踪してしまったり、亡くなられてしまったりしてしまうのです。最初は偶然かと思っていたのですが、段々偶然とは思えない程にまでなってしまい、このまま活動を続けても良いのかと、迷っていた所に、貴方が来て下さいました。理由は分からないのですが、貴方だけは、私を推してもとても元気なご様子とお見受けしました。このような形ではありますが、お礼を言わさせていただきます。本当にありがとう。そして、どうかこれからも、精一杯、この杜羽ひつきを、宜しくお願いしますね』

 どうやら、僕は杜羽ひつきを推しても死なないようだ。

 今まで、死ぬ為に全力で杜羽ひつきを推していたのに。

 気が付けば、僕には杜羽ひつきを全力で推し続けると言う、生きる意味が出来ていた。

 僕に出来るかは分からないが、頑張ってみようと思う事が出来た。

 杜羽ひつき……彼女は、命の恩人だ。


「やっと現れましたねえ……杜羽ひつきを完璧に推す事が出来る人間が……」

「いやー良かったですよ本当に……」

「それにしても分からないものだ……最初はとても……杜羽ひつきを推せるとは思わなかった……」

「分からないものですね……」

「さあ……ここからが本番だ……たった一人の推しが……アマチュアのバーチャルムーバーをプロフェッショナルにする事が出来るのか……」

「果たして出来るのでしょうか……」

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