お飾りの夫、来襲
「グレイス、今ちょっといいか」
はい? と、少し驚いて私は顔を上げた。
契約結婚して半月、アデル様が屋敷内で私にあてがわれている部屋を訪ねてきたことなど、今までないことだった。
なにかしたっけ? と私は、この屋敷に来てからの今までの自分の行状を思い返して――はうっ、と唸り、自分の腕の中を見た。
コレだ。完璧に、コレの件についてだ。
コレがバレてアデル様が怒って糾弾しに来たに違いない。
私は蒼白になった。
どうしようどうしようどうしよう……と、私は部屋の中をぐるぐると歩き回った。
その間にも、アデル様は部屋をノックしてくる。
「おいグレイス、いないのか?」
いるわ! めっちゃいるわ!
いるけど会えない事情があるって少し察するとかないんか!
私はかなり本気でそう叫びたかった。
「グレイス、どうした? 何か事情でもあるのか? それなら機会を改めるけど……」
「あっ、改めなくていいです! ただちょっと、ちょっと待ってください!」
「え? もしかして着替え中とか? なら待つけど……」
「あっ、ちがっ、着替え中とかではないんですけど、今ちょっとお見せできない状況というか……!」
私は大いに焦りながら言い訳を考えた。
「なんだ、部屋の中が散らかってるのかい? そんなもの私は気にしないから……」
「いや、あの、今部屋の中にちょっと下着とかが散乱してて……!」
「下着? 全く、ちゃんと整理整頓しとけよ。待ってるから私に見られてはマズいものは早く片付けてくれ」
「あの、いや……! そっ、そうじゃなくて! 今、タンスの中の下着が全部外に出てるんです!」
「はぁ――?」
「今ちょっと大変なことになってるんです! 突然何故か私の下着という下着が意思を持って動き始めて、部屋の中をこれでもかと乱舞してるんですよ!」
ええっ!? とアデル様はドア向こうで派手に驚いた。
「何が起きてそんなことになってるの!? 悪い魔法使いでも通ったの!?」
「はい! その通りなんです! 黒魔法で下着に意思を持たせるのが趣味なんだと言っていました! あぁ、私はどうしてあんなこと言う人を部屋に招き入れてしまったのか……!」
「部屋に入れたの!? そんな不穏当な発言する人物を!? 君の防犯概念どうなってんだよ! っていうか警備の兵はそんな不審人物を屋敷に入れるなんて何やってたんだ!!」
「あぁ、どうかアデル様、兵士の方は怒らないであげて! 怒られてもわけがわかんないと思うんです! こっ、こら! 鎮まれ! 鎮まれ私の下着たちよ! 服従しろ! 餌やらんぞ!!」
私が大慌てで叫ぶと、ふう、とドアの向こうからため息が聞こえた。
「おいグレイス、私はいつまでこの茶番に付き合えばいい?」
「う――!」
「……いくらお飾りの夫だからって、そんなに私の事が嫌いか? そんなに部屋の中を見られるのが嫌いか?」
「い、いや、そんなことは……!」
「そうだよな、あんな酷いこと言って君をお飾りの妻に仕立て上げた極道な夫だもんな。そりゃ君だって顔も見たくないと思うに違いないよ。……グスッ、そうだよな、君に赦してなんて言えないよな……ヒッグ……」
泣いてる――!? 私は仰天した。
ああ、どんだけ気弱なんだこの人は。
これじゃあ社交界で少し皮肉とか言われたら再起不能になるに違いない。
私は別の意味で慌てて、ついつい部屋のドアを開け放ってしまった。
「なっ、泣かないでーアデル様! 私はアデル様のこと、嫌い、じゃない……です……」
してやられた。涙などケもなく、それどころか呆れ顔で突っ立っているアデル様の顔を見上げて、私はそれをいっぺんに悟った。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
何分書き溜めがないため、ここからはのんびり更新です。
一応完結させる予定ですので気長にお待ち下さい。
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「何故だ――何故こんなにもこの小説が気になるんだ――!?」
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