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第一段階完了

「ル―――――――――――ルルルルルルルルルルァ!! ヘーイ、センキュエビバディ!! ワッツタイムイズイットナァーゥ!! ベリーナイスバトルシップポチョムキンッ!!」




 ――そして今、この状況に至る。


 私はステイサム師に格安で譲ってもらったカーニバルの衣装を身に纏い、腰と胸を激しく揺らし、背後に光背のようにそびえる鳥の羽を揺すって大騒ぎしている。


 執務中だったアデル様は遂に集中することを諦めた様子で額に手をやり、ハァ、とため息を吐いた。




「ハァ、契約結婚だなんて一度でも言い出した私はこの世で一番のバカオブバカだな……まさかお飾りの妻がこんな斜め上の方向に振り切れてお飾りまくり始めるなんて……」

「にひひ、計画通り。これで私のことを無視することだけはできませんね?」




 私がハツラツと汗をかきながらアデル様に近寄ると、グッ、と唸ってアデル様が顔ごと視線を逸した。




「ぐ、グレイス、その格好のまま引っ付くのはよせ。物凄く目の毒なんだよ……」

「あーっ! アデル様が照れてる! 遂に私のことを生物学的にメスだと認識してくれたんですね!」

「な、なんでそんなこと喜ぶんだよ……元からメスなのはわかってたよ……」

「だって今まではどんなことしても全然私のことを見てくれなかったじゃないですか! それなのに今のこの格好をしてくれたら全然反応が違う! 嬉しくなって当たり前です!」

「ふ、フガ……! ちょ、ちょっとグレイス、頭をあんまり近づけないでくれ。と、鳥の羽が鼻に……! ふぇ、ふぇ……フェックション!」




 ズビビ、とアデル様が鼻を啜ったのを見て、私は笑ってしまった。


 あの仏頂面で、常に何かを懸念していたかのようなアデル様が、前より少しだけいろんな表情をするようになっている。


 ただ衣装を変えただけでこんな変化があるとは、なんだか嬉しいことだった。




「ねぇアデル様、まだこれでも契約結婚続けます? ね? ね?」




 私の言葉に、ハンケチーフで鼻を拭っていたアデル様が手を止めた。


 ススス、と私はさり気なくアデル様に肩を寄せた。


 ワッサァ、と、私が身につけた鳥の羽がアデル様を雛鳥のように包みこんだ。




「もう白旗検討した方がよくないですか? 無視しようとすればするほど倍々ゲームで私はますますお飾るようになっていくんですよ? なんなら今この場で押し倒してくれたって……イヤンアデル様ったらエッチスケッチバリチッチ♥」

「ばっ――馬鹿なことを言うな! 君とは契約結婚だと言ったじゃないか! っていうか懐かしいなバリチッチ!!」




 アデル様はあくまで絆されぬという意志を込めて私を睨んだ。




「いくらお飾ろうが着飾ろうが、私は君を愛することはない! だいたいこんなアホな経緯でお飾りの妻に白旗が上げられるか! 痴女みたいな格好したぐらいでメレディア家の男を絆せると思うなよ!」

「ちぇー、相変わらずノリが悪いなぁ。あんまり強情すぎると可愛くないですよ?」

「君に可愛がられるつもりはない! 全く、だいたいお飾るにしてもなんでそんな恰好なんだよ! そんな飾り付けなくったって君は元がいいんだから普通に着飾ればいいのに……!」

「ムムッ! なんか今変なこと言いましたね?」




 元がいいんだから。私がその言葉に目ざとく反応すると、ぐっ、とアデル様が失言を悟ったかのように顔を歪め、私を見た。


 至近距離からアデル様に真正面から見つめられ、私は一瞬、キョトンとしてしまった。


 綺羅びやかに飾り付けられ、ハツラツと汗をかいたままの私を見たアデル様の視線に――一瞬だけ、何か(なまぐさ)いような視線が混じった気がした。


 おっ、この視線は……私が女の勘で何かを察知した瞬間、一瞬でも見惚れてしまった自分を恥じるかのように、アデル様がハッと正気に戻った顔で咳払いをして、急に立ち上がった。




「ちょ、ちょっと! アデル様――!?」

「――急に物凄くお腹が痛くなってきた。お花を摘んでくる」

「え、今どきソレですか? 予告トイレとか、アデル様って意外に古典的なごまかし方しますね」

「うっ、うるさい! そこまでツッコむな! とにかくお花摘んでくる! ついてくるなよ!」

「ついてきませんよ流石に。それとトイレットペーパーは使いすぎないように。地球に優しいアデル様でいてくださいね~」




 うるさい! と裏返った声で答えて、アデル様はノシノシと執務室を出ていった。


 一人残された私は、フフフ、と意味深な含み笑いをした。




「まずは第一段階は完了、ってとこかな……」




 そう、巨悪とはひとり部屋に残されたら、このように意味深な含み笑いをするものだ。


 その伝統に則り、全身を派手に飾り付けたままの私は一人部屋の中で笑い続けた。




 なんだかそれでも足りないような気がした私は、意味もなく指先をペロリと舐めてみた。


 ちょっと塩味がしてイケたので、その後私は四回ほど、自分の指先をペロペロと舐め回したのだった。




ここまでお読み頂きありがとうございます。

ガンガン評価の程をよろしくお願いいたします。


「面白そう」

「続きが気になる」

「何故だ――何故こんなにもこの小説が気になるんだ――!?」


そう思っていただけましたら下から★★★★★で評価願います。

何卒よろしくお願い致します。



【VS】

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― 新着の感想 ―
[一言] 花を摘むのは女性で、男性は雉を射つみたいですね。 元々は山での隠語だとか。
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