自由の翼
店内――否、伏魔殿の中は、それはそれは凄まじい世界であった。
何しろ、所狭しと並べられたマネキンには、私が人生で一回も目にしたことがない奇抜な衣装が着せられ、それがまるで南方の古代遺跡のように狭い空間に並べられている。
私とソフィはその衣装の自ずからの迫力に圧倒されてしまい、しばらく無言でその衣装を見て回った。
これは――一体、どのような空間なのであろうか。
この衣装の数々、これらが全て、あのステイサム氏がデザインしたものとは、とても思えない。
この衣装は明らかに私たちが持つ常識や文化からは生まれ得ないものにしか見えない。
「お、奥様、これ……!」
随分しばらくぶりにソフィに呼ばれた気がしてそちらの方を見ると、ソフィがとあるマネキンを指していた。
私が顔を上げた先にあった、まるで全身がきらきらと光り輝いているかのような、一度も見たことがない衣装――鳥の羽や、名前の知らない光る何かで盛大に飾り付けられたそれは、服そのものは異様に布地面積が少なく、胸と尻の一部がかろうじて隠れる程度しかない。これではまるで光り輝く下着である。
私は目を見開き、おっかなびっくりその衣装に手で触れた。
「な、なんだこれ……!? 鳥、いや、星――!? っていうかこれ、服なの――!?」
「ああ、それを気に入るとはお目が高い。それは私の世界ではカーニバルっていうお祭りのときに着る衣装よ。どう? 派手で素敵でしょ?」
ステイサム氏が自慢げに説明し、私とソフィは顔を見合わせた。
「え……? 今、私の世界、って言いました?」
「そう。私の世界――いや、前世で生きていた世界、と言ったほうがいいわね」
「そ、それはどういう――?」
「いやいや、説明する前にその衣装のことを説明したほうがいいわね」
ステイサム氏は、衣装が並べられたアトリエの隅に置かれている木箱に腰掛け、優雅に足を組んで頬杖をついた。
「リオのカーニバル――その衣装はそのお祭りで着られる衣装よ。元々はその祭りが行われる国の奴隷たちが年に一度だけ、好きに騒ぐことができる祭りだったそうね」
ステイサム氏は何かを懐かしむかのように、ケバケバしいメイクの顔で微笑んだ。
「そのカーニバルの日だけは、リオの町は奴隷も金持ちもなく、一緒に踊り、歌い、日頃の鬱憤を晴らす――日々重労働に喘いでいた奴隷たちは、その日を精一杯楽しむためにどんどん衣装を派手にしていった。その結果がその衣装よ。みんなよく知らないけれど、その衣装が物凄く派手なのは、それが奴隷たちにとって自由を象徴するものだからよ」
「自由――」
「そう、自由。その衣装に鳥の羽が多く使われているのは、それが自由の象徴だからなのかもしれないわね。私も翼があれば好きなところに飛んでいけるのに……って」
私とソフィは、傍らの衣装を尊敬の眼差しとともに見つめ直した。
自由――そんな壮大なテーマが、この奇抜で飾りまくられている衣装に込められているのだとは――想像だに出来ないことであった。
いや――それ以上に。
リオのカーニバル、そんな名前の祭りは聞いたことがないし、そのリオとかいう町の名前も聞いたことがない。
だがステイサム氏は、そんな聞いたことも行ったこともない町の名前、そして祭りの光景を、まるで見てきたかのように説明した。
この人は一体――? 私とソフィが解答を求めるようにステイサム氏を見つめると、ステイサム氏は胸ポケットから何かを取り出した。
よく見ると、何が入っているのか知らないけれど、平べったいブリキ缶である。
「吸っても?」
「え?」
「タバコよ、タバコ。ひと仕事始める前は点けることにしてるの」
「え、あ、そうなんですか……どうぞ」
私が気後れしながらそう言うと、ステイサム氏は物凄く細長い、紙で巻かれた棒状のタバコを取り出し、口に咥えてマッチで火をつけた。
パイプを使わない、この形式の喫煙方法は初めて見た。私が驚いていると、ニカッ、という感じでステイサム氏が笑い、細く長く煙を吐き出した。
「この世界では見たことがないでしょう? 私が手作りしてるの。私が元いた世界ではポピュラーな喫煙方法なんだけどね」
「そ、その、元いた世界――とは?」
「こう言っちゃ正気を疑われるかもしれないのだけれどね――私、前世の記憶があるのよ」
ここまでお読み頂きありがとうございます。
ガンガン評価の程をよろしくお願いいたします。
「面白そう」
「続きが気になる」
「何故だ――何故こんなにもこの小説が気になるんだ――!?」
そう思っていただけましたら下から★★★★★で評価願います。
何卒よろしくお願い致します。
【VS】
もしよろしければ
こちらの異世界恋愛作品もよろしくお願いします。↓
『【完結】転生・櫻井◯宏 ~最後に裏切って殺される乙女ゲームのCV:あの声優さんのキャラに転生した俺、生き残るためにこの魔性の声を武器に攻略キャラクター(男)たちと愛を育みます~』
https://ncode.syosetu.com/n3371ig/
『「私は殿下に興味はありませんっ!」と言われてしまったスパダリ王子が「フッ、面白い女だ」と興味を示すけど、その令嬢に既に婚約者がいた場合はどうなるか、という話』
https://ncode.syosetu.com/n4346il/




