ミス・フレッシュ
数日後、私ははるばる半日もかけて王都にやってきていた。
ただでさえ馬車などという不慣れな移動手段を使い、ガタボコと石の多い道を半日もゆすられた結果、私の尻は石のように固くなり、しかも壮絶に酔った。
王都についた途端、私は半ば飛び出すような格好で馬車を降り、石畳に手をついて盛大にえづく羽目になった。
「お、オエッ……! き、気持ち悪ッ……!!」
「お、奥様、大丈夫ですか……!? 背中を擦ってあげますッ!」
「あ、ありがとうソフィ。……オオ苦しッ、もう二度と馬車なんか乗らない……!」
「申し上げにくいのですけれど、奥様、帰りも乗るんですよ?」
「ああっ、逃げられない! 馬車からは逃げられない、知らなかった……!」
今、健気な表情で一生懸命背中を擦ってくれている、美しい栗色の髪をした少女の名前はソフィ。
そう、数日前に完全なる白鳥と化した私を見て、いの一番に爆笑してくれた、あのメイドである。
今までは屋敷内で私を見るたびに妙に緊張していた彼女だけれど、あの一件以来、私に対する抵抗感が消えたのかすっかりと懐いてくれていて、今回の王都行にも張り切って手を上げてくれたいい子である。
数分間、汚らしくえづいてようやく気分が落ち着いてきた私は、口元を手の甲で拭いながらハァハァと息をついた。
「まぁでも、ようやく王都に来れたね……」
「はい! 奥様が旦那様にもっともっと愛されるような衣装を作れる方を探すんでしたよね!」
「うん、そういうことなんだけど……私、王都には詳しくないからなぁ。ソフィは王都の生まれだったよね、なんか見当つくところある?」
私の問いに、ソフィは両の手を握り拳にしながら言った。
「はい! これでも下町生まれのチャキチャキの王都っ子ですから! この街のことは知り尽くしてます! 必ずや奥様のご期待に答えられるよう、頑張りますッ!!」
ソフィはこれ以上一生懸命な表情は出来まいという顔で宣言してくれた。
その顔から噴出してくるかのような一生懸命さに、私でさえ思わず気後れするほどだ。
突然だけど――私は内心、ソフィを「ミス・フレッシュ」と呼んでいる。
なんというか、彼女はどんなときでも一生懸命で、そしてなんだか異様に世間ずれしていない、無茶苦茶清らかな女の子なのだ。
私などは生まれてこの方半分物乞いのような生活を続けてきた結果、それなりの人間の汚い部分や本性のような部分も知っているのだが、「ミス・フレッシュ」たるソフィは、そんな悪意のようなものがこの世に存在している事自体知らなさそうである。
だからある程度生い立ちゆえに小狡いところがある私に、彼女の欠けたところのない円満な感じがスッポリとハマり、こうして仲良くなれたのだと、少なくとも私は思っている。
何にせよ、私があの屋敷で契約結婚のお飾りの妻として生きるにはこれ以上なく心強い味方であるのは間違いなく、あの一件以来、私はほぼ専属のメイドとして彼女に身の回りの世話をお願いしているのだった。
「さぁ、気分が落ち着いたなら行きましょう! まずは下町からですね!」
おお、流石はミス・フレッシュ、こういうときには実に気持ちよく空気を切り替えてくれる。
ようやく気分も元通りになった私はソフィと顔を見合わせて宣言した。
「よっしゃあ、それじゃあまだ見ぬお飾り職人を求めて王都を探そう!! これだという人がいたら札束で頬引っ叩いてでも連れて帰る! 気合い入れよう!」
「はい奥様! おカネにものを言わせて専属の服飾師をヘッドハンティングです! みんな旦那様のおカネですけれど!」
お互いに気炎を吐きながら、私たちは王都の門をくぐった。
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