お飾りの妻
「――くそっ、何故だ――! 愛のない偽りの結婚だというのに、何故、何故こんなにも彼女のことが気になるんだ――!?」
メレディア伯爵家の美貌の当主であるアデル・メレディアは、顔を歪めて独りごちた。
そう、これは愛のない結婚。
お互いに利害の一致でなされただけの、偽りの生活。
いずれ期限が来れば後腐れなく終わっていく時間。
なのに――何故、何故自分は、これほどまでに彼女のことが気になるのだろう。
最初は、少し変わった女だとは思っていた。
だが彼女はこちらが提案した偽りの結婚計画に二つ返事で同意し、そして今の生活があるだけだ。
けれど――いつしか彼の中で、彼女の存在はどんどん大きくなっていった。
それこそ、捨て置くことなど、いないものとして扱うことなど、到底出来ぬほどに。
「まぁでも――気になるのも当然か」
と――そこでアデルは顔を上げ、部屋の真ん中にいる妻を見つめた。
途端に、その妻の口から大声が発した。
「ル―――――――――――ルルルルルルルルルルァ!! ヘーイ、センキュエビバディ!! ルックアットミーマイダイナマイトバディ!! ベリーナイスアンブレーラァ!!」
そこにいたのは、奇妙な出で立ちの女である。
ようやく尻の一部と胸の一部を包み隠しただけのほぼ全裸体はキラキラと輝くラメに覆われ、彼女が激しく腰を振るたびに背中に飾り付けた鳥の羽の飾りがワッサワッサと揺れる。
一体この衣装に幾ら掛けたものか、頭は色とりどりの宝石と原色の鳥の羽が燦然と輝く宝冠が乗っており、宝冠が、衣装が、笑顔が、ケバケバしい化粧が、陽の光を受けてまるで億千万の星星のように光り輝く。
なんというか、とにかく――とにかく、派手だった。
まるでその存在自体が飾りであるかのように。
「ルルルルルルルルルルルァァァ!! ディスナイトイズカーニバルデイ! ヘイ、ミスターアデル! ダンスウィズミーエブリトゥナイ!! ドゥーユーアンダスタンッ!? ディスイズアペーン!! ルルルルルルルルィィィ!!」
意味不明な台詞を連呼しながら、彼女は一層腰を激しく揺らし、奇怪なステップを踏みながら部屋の中を闊歩する。
その衣装の派手さ、綺羅びやかさ、如何わしさ、そして踊り狂う彼女の熱気――。
それだけで部屋の気温はうなぎのぼりに上昇し、地球の裏側にあるという遠い遠い異国の祭典の夜に等しき熱気と喧騒に包まれる。
「お飾りの妻だ……」
その圧倒的な輝きと熱気に、アデルは思わず独りごちた。
そう、彼が望んだお飾りの妻、それが今目の前にいる。
全身を飾りに飾り付けて。
圧倒的な輝きに身を包んで。
彼女自身がまるで世界の中心であると主張するかのように一切の光を独占している。
「気になって当然だな……。なんてったって、あんなにお飾ってる妻だし……気になるというか、目につくというか……」
お飾りの妻って、そういうこっちゃないんだけどな……。
そんなことをぼんやりと考えながら、アデルは激しく腰と胸とを揺らす妻の奇行を眺め続けた――。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
最初は連載化する気なんてサラサラなかったのですが、
よく読み直してみるとグレイスもアデルも
何だか短編として終わらせるにはあまりにも勿体ないほど
キャラが立っていた、否、勃っていたような気がしたので
もう少しこの作品と付き合いたくなってやってしまいました。
どういう結末になるかわかりませんが
とりあえず底抜けに明るい話になることだけは間違いありませんので
なんとかもうしばらくお付き合い願いたく存じます。
ということで、
「面白そう」
「続きが気になる」
「何故だ――何故こんなにもこの小説が気になるんだ――!?」
そう思っていただけましたら下から★★★★★で評価願います。
何卒よろしくお願い致します。
【VS】
もしよろしければ
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