人間は○○を嫌うのか
「父上、私は…人間なのかな」
白髪の男性が
その声で振り向く。
声の主は、幼い声に似合う
小学生ぐらいの女の子だったー。
子供が起きているにしては早すぎる朝の時間…。
朝日を受けて、外を眺めていた。
「父上」そう呼ばれている男は
口を開かずー。
何も言い出さない。
いやー
何も、
言い出せないのだ。
彼らの頭に生えてる両耳が
慰めの言葉を言わせてくれない。
東京ー。
朝の通勤通学時間の駅周辺〜
人々が忙しなく行き交い
まっすぐ進ませてくれない
混みに混む。
景色は
人々は小走りになる。
歩いていたとしても何処か急いでいる。
そう感じられる__。
だがー
そんな中、まるでー
足跡を残すようにゆっくり、
歩いている人物がいるー。
高校生で
胸を張って、希望に溢れ
朝日を浴びてー。
また笑顔になる。
藤沢由守
彼は忙しない、疲れた大人たちの中で目立っていた。
彼の足取りには余裕を感じられ
本当に楽しそうだった。
皆がー
由守を何処か恨めしそうにみる。
〝全く、子供は〟
〝元気でいいなあ〟
〝楽しそうでいいなあ〟
〝楽でいいなあ〟
由守は進んでいく。
何かを刻み続ける。
そうしていると、由守は
口を開いたー。
最初はとても小さくて聞こえなかったが。
徐々にー。
徐々にー。
徐々にー。
『大きくなっていく』
「…と」
「やっと」
「やっと…」
「やっと…。」
そう言ってー青空をみる
由守の表情は歪んでいく一方で
「やっとっ…」
まるで────────
『言い聞かせるように』
由守は、
改札を通り
階段を上り、ホームで電車を待つ
“電車が参ります”
ホームのアナウンスが流れ始める。
ベンチに座ってた人も立ち上がるー。
日常の風景〜
“電車が近づく音”
〝そうだな…〟
恐ろしい程に変わらない──────────
由守は
その日、彼が望む世界に行こうとした。
それは…
﹄飛び降りというやつだろう﹃
由守は、
飛んだ──────────
世界一悲痛に苦しむ顔で
吹き出す汗も、
迫り来る風も、
全てが生々しかった──────────
気持ち悪い
その感情のままに
目を閉じた───────────────────
────しかし
衝撃など来なかった。
悲鳴のような声は聞こえるのに
〝な、なんで?〟
生々しかった風が…。
強風に変わり、吹き続ける。
衝撃を受ける時はー
スローモーションだと聞くが
ここまでのことなのだろうかー?
〝でも、
まるで空を飛んでいるようー
楽しいな〟
不思議と由守は無意識に目を開けた。
あんなに重かったのに──────────
すると。
目の前の光景に由守はうろたえた
「な、なんだよ…これ」
目の前に広がるのはー
綺麗な青空。
感じるのはー
風。
「俺、飛んで─────」
「やあ。」
「うわぁぁあ」
「っと。」
間近で声がして、大袈裟に驚いてしまう。
「誰っ…?あ、俺…あなたに」
由守は抱えられていた。
目の前の男性は顔立ちが美しく、
世間、一般でいうイケメンだった。
男性は由守に微笑みかける。
〝この人が…俺を助けた…?〟
「…」
「…」
「…!?」
由守は気づいてしまった
ここは、地上では無いー。
青空に包まれているよう、ここは上空─────
「うわぁぁぁああ」
由守の視界に映る地上ー。
あまりの高さに、冷静になってきた頭が
再び、混乱を起こし、警鐘が鳴り響く。
〝ー確かに!飛んでいるとは思ったけどぉぉおお!〟
「こらこら。暴れないでおくれ。」
「無理です!無理ですぅぅぅぅ」
あまりの高さに、男性の諭し文句に
耳を貸さない。由守であった。
「未確認、飛行生物────
なんて、新聞に載りたくはないからね?」
「…っ」
「ただでさえ、君を助けた時に
一瞬でも、注目されたんだから」
由守は男性を見上げる。
「みんな、大丈夫かな?」
その言葉に男性は驚いた顔をする…。
「精神的ショックとかっ…遅延…とかっ」
由守の顔は徐々に青ざめてくる。
「ー大丈夫だ。」
そんな由守のダラダラ並べ立てられる
思考を男性は止めた──────────
優しく、囁くように。
微笑みかけながら、
「結局、君は私が助けたんだ、
皆、幻だと思っているよ。」
「どうした…?」
由守が男性の答えに黙ってしまい、
顔を覗こうとする。
「良かった…。」
由守は、安堵の息を吐く。
その様子に、男性はフッと
笑った。
「しかし。君は変わってるね。」
「え…?」
「普通、そんなこと気にしないよ。
飛び降りて、自殺しようとして。
自分のことで、精一杯──
────あ…?」
由守の目は涙を溜めて、今にも流れてしまい
そうだった。
「大丈夫っ!?」
男性はあたふたしてしまう。
「なんか…泣きたくっ
泣きたくなったんですっ…」
「痛みがなくて、良かった」
男性は一瞬驚いたが、
すぐに優しい顔をして────。
由守はすぐ顔を上げ、
「────天使のお方っ…」
「…」
「…!?」
男性を見ながら、そう言う由守。
「ええと…君は生きてるよ?」
「…?」
「───えっ!?」
由守は固まる。
「あ、ああ────すんごい顔してるね。」
「生きて…?」
「助けたと言ったじゃないか」
「…」
「あぁ!そうでしたね!
助けた…助かった…」
由守は上を見上げ、
状況を整理する。
〝そっか。またか〟
「失敗。したのか」
無意識に由守の口から出ていた。
それに男性は横目でみる。
目をつぶり、考える────
〝そっか。てっきり、天使なのかと。
だって。空を飛ん──ん?〟
由守は思考のままに目を瞬かせ、
男性をみる。
「ん…?」
急に由守に見られ、
男性は優しく、顔を向ける。
〝じゃあ、こいつはなんじゃぁぁぁああ〟
まるで、
悲鳴のように脳内で木霊する
疑問は、しばらく続いた────────────
男性はその後、しばらく
上空を飛んでいたが、下を見下ろし、
突然止まる。
「…!」
〝ここは…〟
そこは東京の有名、高級住宅街の上空。
〝もしかして、この人。めちゃめちゃお金持ち?〟
男性を見ながらそんなことを
考えていると。
黙っていた、男性が口を開くー。
「ちょっと、飛ばすよ。」
「は…?」
次の瞬間、
「はぁ────」
男性は下に向かい
えげつない角度で、えげつないスピードで
急降下する。まるで、
水面に顔を出した魚に食らいつく鳥のよう────
由守の恐怖は一気に鳥肌で現れた
するとー
高級住宅街に似合わない
趣のあるアパートが見えてくる。
よく見るとそこの一室の窓が開いていて
そこまで降りた、男性は
窓の手すりに足を置いて、勢いで入っていく。
「よし。ついた。やあやあ!長旅ご苦ろ──ん?」
由守はほぼあの世に逝った表情をしていた
「助けたよな?」
由守を横たえ、両肩に手を置き揺する。
「君ー?君ー?」
由守の頬をぺちぺち叩く
『由守は、夢を見ていた。』
“人々の声”
街の人々の声────
由守は公園に立っていた。
〝懐かしい〟
太陽が照りつけていた。
それなのに───
〝あれ?〟
由守は自分の腕をさする。
〝寒い〟
────というより
〝冷たい〟
「おめでとう!」
「え…?」
その声に顔を上げる
そこに居たのは…懐かしい顔
中年の男性に由守は思わず、口を開いた。
「先生。どうしたんですか?」
「君は天才だ!頭がぁ!頭が良すぎる!!
おめでとう!!」
「先生は何回も言ってきたんでしょうね」
すると、公園の人々が立ち上がり、
由守に向かって拍手し、賞賛する。
さすがの由守も恥ずかしくなり
「いやぁ…なんだこれ」
由守をみる、驚き顔、喜びが────
違うー。
由守は途端に下を向く。
「俺、俺は…」
「俺は、俺は」
「俺はね…」
草むらを眺め、永遠のように感じた。
〝━━━━━━━━━━━━━━━〟
〝━━━━━━━━━━━━━━━〟
〝あれ?〟
気がついたら、目を開いていた。
視界には窓から見える、電線が映っている。
「あぁ…夢か」
〝瞼が…。疲れてたのかな?〟
〝あれ?────でも〟
視界に映る外の景色。
窓から差す光。
壁。
も
見たことがない。
「ここどこ?」
由守は勢いよく、
少しだけ起き上がる。
「やっぱり。」
横からした声に振り返る由守。
男性が微笑む。
「助けたよね。」
〝あぁ〟
全て思い出した由守は
再びつい、力が抜けて、寝っ転がってしまう。
そんな由守に男性がニコニコしながら近づく。
先程まで、本を読んでいたようで
昔、懐かしいちゃぶ台に本が置いてある。
「良かったよ。幻じゃなくて。」
「あなたは…」
由守の布団の脇に座る男性を
半ば呆れ顔でみつめる。
〝今度は何をする気だ〟
〝あ、でも。俺、この人に〟
由守はホームから飛び出した
記憶が思い起こされる。
「あの、ありがと───」
「少年。」
お礼をいう由守を制する声がする。
由守が男性を見ると、
その時、気づくーーーー
「お礼を言う顔では無いね。」
僕を気遣うような顔をするその人の頭には
耳があった────────────────。
そりゃ僕ら皆、耳はある。だが、その位置は
「動物」
「ん…?」
「みたい…」
男性も目を見開くーーーーーー。
時が止まっているようだった。
「指摘はされるとは、思っていたが
まさか。そんな…」
男性は感動したように、言葉を詰まらせる。
「ん…?」
由守は驚き顔でいう。
「あの、リアルですね。」
「え…?」
男性は石のように固まる。
「あ、あぁ!!そういうことだね?よし。」
男性は立ち上がりちゃぶ台を
由守の傍に置いた。
「あ、あの?」
男性は由守の反対側の
ちゃぶ台に真剣な面持ちでついた。
「少年。」
「は、はい!」
「今から。君に私の重大な秘密を教えよう」
「え…?」
〝なんで?俺?ていうかまず〟
由守は考える仕草をとっている男性を見つめる。
〝大丈夫なのか?この人…〟
「ではまず、名乗ろうか。私の名前は
想愁。よろしくね」
「想愁さん…」
ボっとしていた由守は
想愁の微笑みでハッとする。
「俺の名前は…
由守です。」
「由守…わかった。君は由守君か」
「はい。」
「それでは。名乗った所で、
本題の秘密の事だが…」
「あの!」
由守は想愁の声を遮った。
「ん?どうした?」
「なんで、俺に話すんですか!
今日、会ったばかりですし、それに…」
「違う。」
「え?」
「僕が聞いて欲しいんだ。
君に…」
「受け入れて欲しいんだ」
「受け入れる…?」
「うん。」
由守は聞いてはいけないような
気がしてもその言葉の続きが言えない。
そんな間に話されていく────
目が見開かれていく…。
「この耳は、飾りじゃないんだ。」
「飾りじゃないってっ…」
「そう。僕は、人間。じゃないよ?」
人間は異形を嫌うのか───────────