伏せ字だらけでお送りしております
冷静になってみると、伏せ字とはいえ事実上のネタバレですな。
・これからミステリー読んでいくぜ!
という方は、引き返して下さるとありがたいです。
「それは便利って事なんじゃない? 実際にそれで人に会わないまま部屋に行けるわけだし」
マイの言うことも正しくはあると思う。
というか、その辺りを勘違いさせるような説明にしたしね。
「その辺りはもう、説明し終わってたと思うんだ。システムを褒めるってやり方でね。そうするとわざわざエレベーターを褒める理由が浮いてしまう」
「そんな感じだったっけ? まぁ、それはいいわ。それでそこが変なら、何か変わることがあるの?」
そう言いながら、マイは自分の傍らにタケルを呼び寄せた。
タケルも立ち上がって、改めてベッドに腰掛ける。
本格的に相談する体勢になったみたいだ。
ムータン、しばらく黙っておこうか。
「エレベーターに乗ってる間は、周りの様子はわからないわけだろ?」
「それは……そうでしょ? 別におかしなことは無いじゃない」
「それが“良い”って言うんだから、多分エレベーターだと、色々隠せるって事じゃないかって思うんだよ」
あ、やっぱり気付かれたか。
ということは難易度としては適当って事なんだな。
こっちで魔法に接してる日本人なら、もっと気付きやすいだろうし。
「具体的には?」
「多分、階と階の間に別のフロアが挟まってるんじゃないかと思うんだよね。非常階段に行けば、確認出来ると思う」
うわぁ、全部正解だ。
気付かれた理由があるのかな?
「ええ? そんなこと出来るかな? そもそも、あんたはどうしてそう思うのよ?」
あ、マイが上手い具合に尋ねてくれたぞ。
ムータンに無茶振りしないで済みそうだ。
……なんだよ、その目は。
「多分、エレベーターで最初に僕が気付いたきっかけは『××××』の『※※』だと思う」
注)この時タケルが口にしたのは、推理小説であるため作者とタイトルを伏せ字にております。
「ああ、えっと……泉谷しげるの……」
「そうそう。よく覚えてるな」
マイがうろ覚えで口にした名前に、タケルが保証を与えた。
何か関係のある名前なのか?
「それは良いけど、それだけじゃないんでしょ?」
「そう。そこから『×××××』の『※※※※※※』を思い出した」
注)……は、同じ。
しかしタケルはどういう趣味なんだ?
とにかく、これもあとでチェックだな。
「それは覚えてる。銀英伝の劣悪遺伝子排除法が本当にあった、とか言ってタケルが騒いでいたやつよね」
「本当によく覚えてるな。確かにそうだけど。優生保護法を知るきっかけになった本だよ」
優生保護法?
ええと……ああ、なるほど。
これってわざわざ布告出すようなことなのかな?
こっちの世界ってよくわからない部分が確かにある。
しかも、今回の仕掛けに気付くきっかけになる本でそれを知るというのも、よくわからないな。
決めた。
ムータンに無茶振りしよう。
まず「銀英伝」がよくわからないし。
「その本のトリックと、このラブホテルの仕掛けは多分同じだと思うんだ」
「あんたが気付くなら、それはそれでいいわ。あんな長いの読んでられないし」
長いのか……しかしマイは本当によく覚えてるな。
「それで、非常階段行ってみる?」
「そうだな。外れているにしても、確認しておこう。正解なら、向こうが何かしら手をうっているんだろうし、あんまり人目は気にしなくて良いと思う」
正解なんだよなぁ。
ということでムータン。沈黙を選びなさい。
どっちにしても部屋でしかコンタクトできないんだし。
二人は何か言いたそうに、ぬいぐるみを見つめているけど、ここは我慢だ。
というか、黙っていることでもう白状してるようなものだけど。
二人はやがて顔を見合わせて、部屋を出て行った。
ここから先、追いかける事が出来るのは自分だけか。
ガイドいる状態では迷宮探索に風情がないからな。
二人は非常階段に通じる扉にたどり着くと、慎重に扉を開けた。
というか、この扉が重いんだろうな。
そしてタケルが、隙間から外を窺って――
「当たったみたいだよ」
「どうなってるの? あ、全然様子が違うのね。何だか古いお城みたい」
蔦と苔でデコレーションを頑張ってみました。
こういう雰囲気作りは大切だからね。
というわけで、タケルの推理は大正解。
これ、こっちの日本人にとっても適切な難易度なのかなぁ?
やはりムータンには無茶振りしないとダメだな。
「で、上にいくの? 下?」
推理が当たっている以上、上も下も迷宮仕様になっている。
どっちの階段を選んでも、今の状態では正解なんだけど……
「下にしようか。多分、上に向かわせるタイプだと思うから順番に」
「そういうの、塔って言わない?」
「最近はそうでもないみたいだよ。異世界迷宮――」
そこでタケルの言葉が止まった。
そうだね。マイには言わない方が良いね。
「とにかく、そのくくりは無くなったみたいだよ。結局同じ事だし」
「それもそうね。じゃあ、降りて――」
そう言って、すぐにマイが階段を降りて両開きの扉を押し開けた。
ためらいがないなぁ。
その木製の扉とか、きしむ音とかもこだわったのに。
まぁ、これからも機会はあるか。
「おう! おおう……確かにこれは、あたしが思う“迷宮”っぽいわね」
それにマイも、風情を感じてくれたようだ。
古城の趣きを意識したデコレーションはそのままに、足元だけをほんのり照らすライティング。
見通しはもちろん悪い。
そしてタイミング良く、配置しておいたゴブリンが曲がり角の向こうから姿を現した。
石斧を持たせておいたが――どう出る?
「マイちゃん、そこでストップ。これ準備が必要だ」
「……そうみたいね」
引いてくれたか。
一応、止める為の掲示はするつもりだったけど。
これ本番なら必要無いんだよね。
武装してるの前提だから。
さてこっちの世界の人間はどうするんだろう?
ちゃんと考えてはいるんだけど、ちょっと興味がある。
というわけで、あとがきまで来られた方の中には、
・ははぁん、あれのことだな?
という感じになっております。
××が作者名で、※※がタイトルですね。
ググると、特定出来るのではないかと……(試してはいません)