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迷宮にたどり着く前に

 ファッファッファッファーーーーーン!


 というわけで「紗々」308号室にファンファーレが鳴り響いた。

 ちょっと手こずった感じかなぁ。


 二人とも肩で息をしている。


 マイはベッドの上で大の字(勉強しました)になっているね。


 ネイビーブルーに、レモンイエローのラインが鮮やかなチューブトップに、白いホットパンツ姿だ。

 どうだい? 謎の光さんに仕事をさせない良い仕事だ。


 ソファの上にある丈の短いジャケットはきっとマイのものなのだろう。


 そのマイだけど。呼吸に合わせて大きすぎる胸が、ふるんふるん、と揺れているね。

 やはり、ひらがなこそが正義。


 ……いや、そんな事言ってる場合では無くて、本当に大丈夫?

 顔なんか真っ赤だし。


 タケルは――冷却器にもたれかかって、ポーションらしきものを飲んでるね。

 細い管みたいなので。

 あれは葦かな?


 ……これはなかなか便利そうだ。


 それでタケルの方も、随分様子がおかしい。


 「H」と「S」が組み合わさった紋様が入っている黒地のTシャツ。

 ジーンズは前と同じか。


 だけど、顔の色が死人のそれだ。

 土気色で、目の下のクマが尋常じゃ無い。


 そのまま目ごとヘコんでしまいそうだ。


 ……もしかして二人とも危険が危ない?

 生命の危機すら感じ取れる。


 もしかして「10回いかないと出られない」という設定はマズいのか?

 こっちの日本人は……ああそうか。


 やたらに強い日本人ばかりだから、それに合わせすぎたのかもしれない。

 言い訳をさせて貰えるなら10回じゃなくて8回に減らしたんだけどなぁ。


「あ、あの、大丈夫ですか?」


 ムータンも二人の様子に戸惑っているね。

 ……というか、引いてる?


 ちなみに今回は、ナクレト――こっちの言葉で言うところの「熊」――のぬいぐるみ姿だ。

 

 そうだね。「Vivy」にあやかってみたね。

 初期マツモトみたいに。


 ここから発展させて、いつか浮かべてみせる……ということで、ムータンのやる気を引き出したわけだ。


 今回は、テーブルの上にちょんとおいてみたよ。


「……大丈夫なわけ無いでしょ!」


 大の字になったままで、マイが天井に向かって叫び声を上げた。


「死んじゃうから! 洒落抜きで! 本気(マジ)で!!」


 わかった。わかりましたよ。

 この方式は全面的に見直しと言うことで。


 いや、全面的に見直しはマズいなぁ。数を減らすとか……


「タケルも何か言いなさいよ!」


 あ、矛先がそれた。

 ムータンに文句を言わないあたり、やっぱりマイは鋭いな。ムータンが受付の役目でしかない事をもう見切っているんだろう。


「僕は……そんなにイヤじゃない」

「このケダモノ! 童貞のクセに生意気よ!」

「童貞じゃないよ! どうしてマイちゃんにそんな事言われるんだ!」


 まだ、それ引っ張ってるんだ。

 仲が良いなぁ。


「でも、マイちゃんの負担が大きいのは確かだ。ムータン、これから先こういうクリア条件があるなら、クリアしたことにしてくれないか? テストプレイだから出来るだろう?」

「それは……」

 

 これと同じクリア条件があるなら、確かにそのほうが良いだろう。

 でも、もうこの仕掛けないんだよね。


 だからムータンへの指示は――


「わかりました。伝えておきます」


 こういう返事させるのが無難なところだろう。

 ムータンの立場を理解してくれているのなら、これで収めてくれるはずだ。


「大体、これってどういう目的があるんだっけ!? 迷宮とか言ってなかった?」


 あれ?


 マイが上半身を起こして、ベッドの上であぐらをかきながら声をあげた。

 ああ、これはこっちへの文句じゃないな。


「言ってたね」


 そう。

 タケルへの相談だった。

 冷却器にもたれかかったままのタケルが短く答える。


「でも、これって迷宮なの? あたしの知ってる迷宮ってこういうのじゃないわ」

「僕も違うと思う。向こうの世界の迷宮は違うのかも知れない」

「そっか……そういこともあるんだ。それで部屋代はただになってるんだ」


 そういう仕様になっております。


 この「仕様」って言葉、凄く便利だね――言い訳するのに。


 さて、二人はどう考えるかな?

 行き詰まるなら、それはそれで成果だし。


 条件を緩めて別のテストプレイヤーを採用しても良いだろう。

 テストプレイの、テスト自体を行っている感じだけど仕方ない。


 ……この二人を諦めるのはもったいないと思うけど。


「部屋代がただ……思った以上に、このラブホテルを改造してるよね」

「それは思った。なんだっけ? 色々言ってたけど、つまり魔法で何かしてるって事なんでしょ?」


 ――「高度に発達した魔法は科学と見分けが付かない」


 自分で言うのもなんだけど、上手い具合に剽窃したと思うんだけどなぁ。

 あ、マイが言ってた言葉の元ネタは調べた。


 ……この世界の人間って酷いこと考えるよね。

 まずカッシュ――「猫」のことね――を箱に閉じ込めようって発想がおかしい。


「そう。その魔法があるなら、ってことで、ちょっと引っかかってる説明があるんだ」

「引っかかる? 何かおかしな説明をしてたって事?」


 そう言いながら、マイがギロリとぬいぐるみ、つまりはムータンを睨みつける。

 タケルも、それを追いかけるようにムータンを見つめるけど――耐えるんだムータン!


 でも、タケルは気付いてくれたみたいだ。

 確かに、自分はマニュアルにトリックを仕込んでいる


 それは――


「マイちゃん。魔法があるのに、エレベーターってそんなに褒められる機械かな?」

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