日本では説明を省略出来る
「そうなんですよ。私からしたら、地球の方が異世界なんですけど、それはお互い様と言うことで」
ムータンはめげなかった。
“異世界”という言葉に思い入れがないらしい。
そんな事で、これから先うまくやっていけるのだろうか。
商会での育成も再検討するべきかもなぁ……
「え? ちょっと待って。じゃあ、もう異世界にいるって事なの?」
あ、マイの方がよほどわかってるなぁ。
さすが日本人だな。
異世界の受け入れの速さが尋常では無い。
いろいろ説明の準備をしてたんだけど、これは楽でいいや。
それではムータン。マニュアル通りによろしく。
「あ、そういうことでは無いんですね。その中間にあると言う考え方で問題無いです。ですから、簡単に帰ることも出来ますよ。このラブホテルから出てしまえば良いわけですから」
「帰れるんだ!?」
「はい。ですから、お話だけでもどうですか? ちゃんとお礼も準備してますし」
「お礼……」
その言葉が、マイの琴線に触れたらしい。
そこで考え込んでしまった。
「それで異世界の人が何してるの? それもラブホテルで。カルバッハ商会とかもよくわからないし」
上手い具合に、タケルが受け継いでくれるようだ。
さすがに恋人同士ということなんだろう。
「はい。そこは疑問ですよね。実は我々カルバッハ商会は新しいサービスを検討していましてですね」
「サービス? というか異世界でもやっぱり商売はあるんだ」
「そうなんですよ。実はフォテールンに日本出身の方が沢山おられてですね」
「ああ、そういう状態なんだ」
「そうなの?」
突然、マイが割り込んできた。
この辺りで、それぞれの異世界に対するスタンスの違いが見えるな。
タケルは何か諦めているみたいで、マイは初耳みたいな感じだ。
そこからタケルは、マイに向けて日本での行方不明者の数や、転生まで含めたら結構な日本人がいても仕方が無いと説明していた。
……何だか不思議な気分になるけれど、現地の人達の間で納得して貰えるなら、それに越したことは無いわけだからな。
「異世界の存在を認めてしまった以上、そういう可能性はある」
……なんてタケルが言うものだから、マイとしても受け入れるしかないようだ。
「それで日本人が多い事と、商売とどう関係するの?」
「ええとですね……」
そして話が元に戻ってきた。
頑張れムートン! 手間が省けたことは間違いないんだから!
「そもそも、我々カルバッハ商会は迷宮事業を営んでいましてですね」
「迷宮事業? なにそれ? それも常識なの?」
と声をあげたマイの視線はタケルへと向いている。
「……異世界での常識かって事だよね? いや、それはどうかなぁ? フィクションだとたいして説明も行われないまま迷宮があったりするから、いっその事、迷宮自体が商売になってる方がわかりやすいのかも」
「うん? もしかして、遊園地にあるみたいな迷宮……とは違うみたいね」
違うね。
「まぁ、迷路になっていて、モンスターがいて、宝箱があって、みたいな感じ。ゲームでよくやっただろ?」
「ああ、ああいう感じのか。異世界には実際にそういうものがあって、それで商売してるんだ」
さすがに理解が早いなぁ。
ムータンの頑張りに期待したい。
「本物の迷宮はあったんですけど、最初はそういった迷宮攻略のために作られた訓練用の施設だったみたいなんです」
そうそう。
そういう感じにムータンが生まれる前の事情を説明して差し上げて。
いや自分だって良くは知らないんだけどね。
「本物の迷宮は実際危険だったらしいので、色んな状況に対応出来るように、あれこれと作られたらしいんです。実際それは効果的だったんですけど、その内に迷宮攻略するのを楽しむ施設になりまして」
「じゃあ、もう本物の迷宮は無い?」
「私の知ってる限りはないですね。全部攻略済みです」
「じゃあ、必要無いんじゃ?」
「それでも、戦闘訓練とかに役に立つんですよ。攻略済みの迷宮にモンスターが住み着くことだってあるわけですし」
実にスムーズに話が進む。
「日本人はどう絡むの?」
そこにタケルが“待った”をかけてきた。
でもこれも想定内。
「それなんですが……実際、フォテールンでは日本出身者がそれぞれの国で影響を持っていることが多くて」
「影響……何か無茶苦茶強かったり、仲間が多かったりとか?」
本当に日本人には説明が楽だ。
「はい。初めの頃はよくわからないんですけど、現在はそういう力を持っている日本人が多くいましてですね。最初の頃は、ポツリポツリとそういった日本人が現れる感じだったんですけど、その内に日本人を……」
「有力者が抱え込んだ?」
……話がスムーズ過ぎる気がするけど、悪いことじゃないよな!
実際、そういう流れになったことは確かだし。
ムータンも覚悟を決めたらしい。
「はい~。そういう事になったので、多いと言っても貴重な日本人ですから大事に育成しようという流れになって、それでやがて逆に日本人用に遊ぶための施設として迷宮を作ることになったわけです」
ここまでの説明に、嘘は全くない。
それなのにタケルとマイは、なんとも言えない表情で視線を交わしている。
……いや、薄々とは感じていたよ。
自分の世界がおかしな事になってるんじゃないか? って。
今回のテストプレイに向けて色々調べてみたけど、フォテールンのパターンは自分が調べられる範囲では無かった。
それにしても、この世界。何だか色んな事がとても調べやすい状態であることは伝えたいと思う。
だから、これも日本人の常識なんだろう。
ということで、ムータン言ってあげて。
「我々カルバッハ商会は商会は、さらなるサービス向上を目指して、迷宮にハーレム要素を組み込むアイデアを提案させていただきます!」