頼りになりすぎるテストプレイヤー
「う~ん、そもそもレベルアップが必要なのかが、わかんないんだけど。これって、遊ぶための施設なんでしょ?」
マイが鋭いことを言う。
だけど、今回はタケルの方が鋭かったみたいだ。
「それは多分。僕たちが見たモンスター、あれは多分ゴブリンだと思うんだ。――どうかな?」
おっと、ここでムータンへの確認か。
こっちも別に殺したいわけじゃないし、ちゃんと答えることにしよう。
頷いてムータンに指示を出しておく。
……ところで何故かゴブリンは名前も姿形も異世界人である日本人の知識とさほど変わらないんだよね。
「――はい。ゴブリンで間違いないです」
「じゃあ、弱いって事でいい?」
「はい」
「それだと遊ぶにしても、手応えが無さ過ぎると思うんだよ」
そこまで気付かれてしまったか。
「そう? 弱い相手を蹂躙するのって、それはそれで楽しいじゃない」
「マイちゃんはスポールだからなぁ」
スポール?
どういう意味だ?
「そっちじゃなくて、無双ゲームとか、ああいう感じを考えたの」
「そっちだと集団で出て来ないとカタルシスがないだろ? それはテストプレイでやるには予算的に厳しい気がするんだよね」
……まず無双ゲームがわからないんだけど。
ただ、集団を配置出来るほど予算が沢山あるとは言いがたいね。
「ねぇ? 集団で出てくるの?」
マイがムータンに尋ねてきた。
これは返答が難しいな。
無双ゲームというのがわかれば、答えやすいんだけど。
「それはそうですよ。ある程度、数がいないと迷宮になりませんから」
あ、ムータンが答えてしまった。
ま、まぁ、他に答えようがないか。
「じゃあ、500とか1000とか出てくるんだ」
あれれ~おっかしいぞ~?
聞こえてはいけない数字が聞こえてくる。
500? 1000?
どういうゲームなんだ!?
あ、え~と、とりあえずムータン。
ぬいぐるみの首を横に振って。
「……何だ。出ないのか」
つ、伝わったことだけを喜ぼう!
そう思おう!
「とりあえず、これで蹂躙するのを楽しむ仕様でないことははっきりした」
タケル!
いいぞ! その感じで話を先に進めてくれ!
「そういうことになるのね……で、何の話してたっけ?」
「レベルアップの話だよ。えっと……そうそう。弱いゴブリンがいるってことは、もう強くなってる利用者も、弱いという初期設定で楽しむ仕様だと思うんだよ」
「ゲームを、もう一回最初からやる感じ?」
「そうそう。それで改めてレベルアップを楽しむ感じ。向こうの異世界にレベルアップがあるのかはわかんないけど、なくても弱くすることは出来ると思うんだ。そういう魔法は必ずあると思うし」
う~ん、かなバレれてるね。
でもそれだけじゃ……
「そういう魔法を迷宮自体にかけておけば、魔法が効かない利用者も、結局弱く出来ると思うんだ。迷宮限定でね」
……誰か漏らした?
「それに楽しむ前提なら、利用者がまずレベルを抑える可能性もあるね。それが出来る人専用とか」
そ、そういう方法もあるか……そのやり方だと 確かに色々バリエーションが増やせるな。
「でも、それはあたし達じゃどうしようもないじゃない。あ、それも魔法か。魔法で強くするわけね。何匹か倒したら、強くするんだ」
マイも鋭い。
その通り。魔法で強くする。
身体強化を基本にして――
「いや、それはマズいんだ」
え? マズい?
何がどうして!?
ムータン! それは上司に向けていい目つきじゃないぞ!?
「何で? 強くなるんだから、良いじゃない」
「でもそれは、迷宮にいる間の事だけのはず」
……うん、そうだね。
でも他にやりようないし。
「……ごめん。何が悪いのか、やっぱりわかんない」
激しくマイに同意だ!
「だから、強さが迷宮限定ってことだよ。多分、結構長い間探索することになると思うんだ」
「ああ、そうね。レベルアップするゲームは夢中になっちゃうし」
「そう。それで、長い間強くなってることに慣れると――」
慣れると?
「あ、そうか。普段の生活でも強いままだと思っちゃうんだ。それ危ないね」
「うん。だから、テストプレイに関しては、このやり方はしてないと思うんだ」
ほ、ほう。
実に興味深い!
あ、ムータン! 勝手に指示を出さないで! お願いだから!
「テストプレイだし、別に苦戦とかは考えてないんじゃないかなぁ?」
「……そうね、設定いじって途中からやるのがテストプレイだと思うし」
テストプレイの捉え方が、現地とこっちでは違うんだな。
訳し方も間違っている可能性がある。
そういうことだから。
そういうことなんだよ、ムータン!
決して、自分のうっかりミスでは――
「じゃあ、レベルアップ無し?」
「それが無いと、感想が違ってくると思う。だから――」
――みんな静かに!
自分を、可哀想な目で見るのは止めて!
「――武器をレベルアップさせるやり方だと思うんだ」
「武器? ああ、それでワルサーなんだ。タケルの中二病の現れ」
「だからそれは父さんのだってば」
静かにしてもらったけど、半分ぐらいわからない。
でも、武器をレベルアップか……これ本番でも使えそうだな。
むしろその方が安く付くかも。
自分たちは今、正しいテストプレイをしているな!
そう思うだろ!
だから、そんな目で自分を見るな!!
「お二人とも、すごいですね! 上司が驚いています!」
ムータン!!
確かにその通りなんだけど、自分を無視して話を進めないで!
哀しくなるから!!
スポールは「星界シリーズ」に出てくる提督です。
蹂躙戦(作中用語だけど凄い言葉だなぁ)が大好きです。
……最新刊は読めていません。何というかエタりそうで。




