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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第二章
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68 無職の少年、片付け

 姉さんたちの話し合いが終わりを迎えたのは、日が傾き出してからしばらくしてのことだった。


 結局のところ、不安や不満を姉さんにぶつけていただけに見えた。


 別に、姉さんが悪いわけじゃないのに。


 話を聞いていた限りだと、人が世界樹を壊したはず。


 どうしてそんなことを仕出かしたのかは、よく分からないけど。


 教会がどうとかも言ってた気がする。


 教会、騎士。


 連想するのは、アイツの──勇者の姿。


 ズキン。


 頭が痛む。



「具合でも悪いの? もしかして、さっきの話し合いで疲れちゃったかな?」


「いえ、大丈夫です。それに、疲れるって言うなら、訓練の方が大変でしたから」


「そう? けど、状況が状況だけに、母の所にも当分は行けそうにないわね」



 ドクン。


 単語に反応して胸が疼く。



「そう、ですね」



 世界樹に人や魔物なんかが襲ってくるかもしれない。


 それこそ、また世界樹を破壊するなんてことも。


 この場所を守らないといけないのだ。


 僕はともかく、姉さんはここを離れられやしない。



『クダモノ、タベレル?』


「え? 家の中が無事なら、多分ね」


『シンパイ』



 それはどっちに対する心配なんだろう。


 家の様子なのか、果物の様子なのか。


 家への道のりは、否が応でも空が目に入る。


 空色を砂煙が汚している。


 いつだって、世界樹の上からの景色は変わることはなかった。


 あるのは、日が昇って沈むってことだけで。


 だから、いつもと違う空は、違和感しかない。






 絶句。


 家の中は、まるで見知らぬ場所のよう。


 足の踏み場が無いほどに、物が散乱していた。


 棚の中身は床にぶちまけられて、棚自体も倒れている。



「弟君はまだ入らないで」


「え?」



 玄関の扉の前に、姉さんが立ち塞がる。



「片付けないと駄目なのは確かだけど、また揺れたら怪我しちゃうわ」


「けど……」



 見る限り、すぐにどうこうできる状態じゃない。


 姉さんだけで片付けられるとも思えないんだけど。



「まずは床の上をどうにかしないとね」


『タベル?』


「食べられないわよ。さてと、鎧以外は得意じゃないんだけど……」



 姉さんが何をするつもりなのか。


 それはすぐに明らかとなる。



魔装化まそうか



 姉さんの姿は変わらない。


 変化は家の中で起きていた。


 姉さんが手を伸ばした先から、床へとほうきのようなものが幾本も生じている。


 掃除を魔装化まそうかでやるつもりらしい。



「うーんと……縦じゃなく横の方がいいのかしら」



 何事かを呟きつつ、床をほうきのようなものが掃いてゆく。


 玄関から徐々に物が退かされ、姉さんがズンズンと侵入する。


 倒れた棚など、大きい物を直接元の位置へと戻している。



「細かい破片とかが残るかもだし、雑巾がけも必要かしらね」



 物が多いのは、一階の居間と台所、後は二階の物置きぐらいかな。


 一階がこの有様じゃあ、二階も酷そう。



『クダモノ、ブジ?』


「どうかな。姉さんが片付けてくれるまで、もう少し待ってようね」


『ソワソワ』



 もう果物のことしか考えてないんだね。


 居間は粗方片付いたように見える。


 既に姉さんは、台所へと移動していた。



「雑巾がけ、しておきましょうか?」


「まだ入っちゃ駄目よ。家具を固定しておかないと、また倒れるかもしれないわ」



 再び制されてしまった。


 僕だって何か役に立ちたいのに。


 庇われたり守られたりばっかり。


 立ち尽くす。


 ボーッと姉さんの様子を眺め続ける。


 そう言えば、姉さんと一緒に家に帰っていたなら、どうなっていたんだろう。


 持ち帰った衣服を、洗濯しようとしていたはずで。


 もし、姉さんが出掛けてしまっていたならば。


 無事に済んだのだろうか。


 偶然にも、ドリアードさんの住処に残ったから。


 そして、ブラックドッグが庇ってくれたから、無事に済んだけど。


 偶々運が良かっただけ。


 何事もなく家に帰っていたなら、命すら危うかったかもしれない。


 何も成せぬままに。


 後悔を抱いてか、それすら考えられずに。



『マタ、フルエタ?』


「……ちょっと、怖くなっちゃった」


『トモダチ、マモル!』


「ありがと。でも、もう守って貰ったよ」


『ドユコト?』



 スライムに会いに行かなかったら。


 きっと家の中で揺れに見舞われていたことだろう。






「弟くーん。もう入っても大丈夫よー。けど、十分気を付けてね。あと、スライムを放さないようにお願いね」


「あ、はーい」



 気が付けば、もう姉さんの姿が無かった。


 どこから用意したのか、家具は紐でグルグル巻きに固定されている。


 床にはまだ破片とかが残っていそう。


 雑巾がけはまだみたい。


 あぁ、だからスライムを放さないようにって言ってたのかも。



『クダモノ!』


「あ、うん、探してみるね」



 雑巾がけの前に、台所で果物を探そう。


 多分、精霊様の力で、保存は効いてると思うんだけど。


 いつも以上に慎重に、歩を進める。


 あー、お皿とか全滅かも。


 食器棚の中身が無い。


 食事とかどうしようかな。


 食器よりも、そもそも食材が持つかの方が問題か。


 外に取りに行けないなら、どうにかある分で食い繋ぐしかない。


 食糧庫を調べてみる。



「あ、こっちは大丈夫そう」


『タベレル?』


「うん。はい、リンゴもあったよ」


『ヤッター!』



 色味や匂いがおかしいものは見受けられない。


 一週間か、少なくとも数日ぐらいなら大丈夫そうかな。


 忙しなく動くスライムに、リンゴを渡す。


 すぐさま体内に取り込み、嬉しそうな声を上げる。



『ウマウマ』


「良かったね」



 あとは床の雑巾がけかな。






本日は本編70話までと、SSを1話投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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