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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第二章
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67 無職の少年、広がる不安

 ドリアードさんの住処を離れ、一度家へ向かうことに。


 住処の外に出ると、異変の残滓が目に入ってきた。


 大量の砂煙。


 遠目からでも分かる。


 雲を突き抜け、空色を侵食している。


 どの世界樹が倒壊したのか定かではないけど、世界樹の上からでも視認できる影響が出ていた。


 思いがけない光景を前に、姉さんたちと共に足を止めてしまう。



「これ……結構近いわね」


「そう、なんですか?」


「そうなると不味いわね……」


「人が襲ってくるってことですか?」


「流石に此処には来れないでしょう。けど、地上は時間の問題かも」


「え?」



 それってつまり……。


 妹ちゃんやアルラウネさんが危ないってこと⁉



「ど、どうしましょう⁉」


「アタシ一人じゃ、地上には降りられない。せめてゲートが使えるようにならないと」



 視線を砂煙から姉さんへ移すと、唇を噛んでいた。


 例え姉さんでも、できないことはある。


 そんなことは当たり前で。


 けれど、頼るような振る舞いが、余計に姉さんの焦燥を煽ってしまったのかもしれない。


 なら僕は、僕がすべきなのは、姉さんの負担を軽減すること。


 姉さんの手を強く握り返す。



「弟君?」


「家の様子も気になりますし、移動しましょう」


「……そうね。揺れてすぐに弟君の元へ向かったから、アタシにも様子は分からないし」



 ……まただ。


 また、お姉ちゃんじゃなくアタシって言ってる。


 いつもの姉さんの調子には、まだ戻りそうもない、か。


 それだけ、今の状況が深刻ってことなんだろう。


 僕がよく理解できてないだけで。



『オウチ、イク?』


「うん、そのつもりだよ」



 今まで腕の中で静かにしていたスライムが、話し掛けてきた。



『クダモノ、タベレル?』


「えっと、どうだろう」



 保存はしてあるはずだけど、半月ぐらいは経ってるから……。


 食べられるのかな?


 と、こちらに駆け寄ってくる影に気が付いた。



「おーい! エルフさん!」


「あれは……オーガの……?」



 ■い姿は、妹ちゃんのお父さんか。


 その後ろには、お母さんも居る。


 ドクン。


 心臓が痛みを返す。



「一体、さっきの揺れは何だったんだい⁉」


「娘が地上に行ったっきりなの! どうか迎えに行ってやって!」



 そばに来るなり、二人が姉さんに詰め寄る。



「二人とも落ち着いて。状況の説明は、集落のみんなを集めてからにしましょう。……弟君、家に戻るのは少しだけ待ってね」


「はい」


「いえ、それよりもまず、娘を──」


「それも含めて説明するわ」



 二人を促し、集落へ向かう。






 僅かの人族と、殆どを魔族が占める集落。


 みんなを前に、姉さんが状況を説明する。


 最初は疑問と驚愕による静寂が。


 理解が及ぶにつれ、徐々にざわめきが大きくなりだした。



「──ドリアードを待つ間、アタシ以外にも、集落の警護をお願いしたいの」


「まさか、人が攻めてくるのか⁉」


「いえ、それはまず無いと思うわ。むしろ、魔族のほうが来る可能性としては高いでしょうね」


「何だと⁉ そりゃあ一体、どういう了見だ!」


「空を飛べるのが魔族だからよ。人には無理でしょ?」


「魔族を差別してんじゃねぇのか⁉」


「そんなつもりはないわ。集落で暮らすモノ同士、協力し合いましょうって言ってるだけよ」


「……地上には行けないのね?」


「残念だけど、今すぐには無理みたい。御免なさい」


「ああッ、そんな……ッ!」



 みんな、普段とは違う顔つきをしていて。


 まるで知らない別の誰かみたい。


 何だか怖くなってくる。


 腕の中のスライムをギュッと抱く。



『トモダチ、サムイ?』


「え? そんなことないけど」


『フルエテル』



 言われて、身体が僅かに震えていることに気が付いた。


 また揺れが生じたわけじゃない。


 僕がただ震えているだけだ。



「ちょっと……ちょっとだけ怖くなっちゃって」


『ナニ、コワイ?』


「みんなの様子が、いつもと全然違うから」


『ミンナ、コワイ』


「そうだね」


『マチガエタ』


「え?」


『ミンナモ、コワイ』


「あ」



 みんなを怖いって意味じゃなくて、みんなも怖がってるって意味だったんだね。



『フアン、シンパイ』


「みんなもそうなんだね」


『クダモノ、シンパイ』


「…………え、あ、そう、かな?」


『スゴク、タベタイ』


「う、うん。帰って食べられそうだったらね」


『タノシミ!』



 何だか、さっきまでの張り詰めていた感覚が消えてしまった。


 こんなときでも、いつもどおりなんだね。


 みんなも、姉さんでさえ、普段と様子が違ってるのに。


 スライムだけは変わらないんだ。


 それって、実は凄いことなのかも?


 いつの間にか、身体の震えも治まっている。


 不安だし、怖い。


 ……けど、独りじゃない。



「ありがと」


『オレイ、ドシテ?』


「みんなと一緒なら、きっと何とかなるよね」


『カナ?』



 話し合いは、まだまだ長引きそう。


 次から次へと、姉さんに誰かが何かを叫んでいる。


 姉さんに言ったって、何が解決するわけでもないのに。


 不安をそうやって解消してるのかもしれないけど。


 見ていて気分のいいモノじゃない。


 少し離れた場所で腰を下ろす。


 ブラックドッグが寄り添い、腕の中にはスライムもいる。


 そうして、話が終わるのを待った。






本日は本編70話までと、SSを1話投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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