表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第二章
95/230

SS-24 団長への訪問者

 先んじて早馬をやったが、嬢ちゃんには伝わっただろうか。


 結局、選んだ先は、東側の世界樹の一本。


 そこに一番近い壁にも、同様に早馬をやっておいた。


 何せ、住人全員の避難を行わせるのだ。


 世界樹を破壊できなければ、とんだ迷惑行為に過ぎないが。


 首尾良く、あるいは首尾悪く、世界樹を破壊できてしまった場合、どれほどの被害が出るか想像も付かない。


 跡形もなく破壊できるとは到底思えないし、こちら側に倒れてくれば、まず間違いなく壁を巻き込むだろう。


 聖騎士の連中は、どういうつもりか避難させる気は無いらしい。


 教皇の判断なのか?


 話したこともない相手に、信を置く気にはなれない。


 取り得る選択肢は2つ。


 指示に従わず世界樹の破壊を取りやめるか、または、指示に従わず壁の住民たちを避難させるか、のどちらか。


 結局のところ、何れかの指示には背くことになるわけだ。


 破壊に向かわぬ場合、別の誰かが選出されるに決まっている。


 団長の次となると、副団長か聖騎士の誰かが濃厚か。


 この選択肢で救われる者がいるとすれば、己だけだろう。


 実に馬鹿馬鹿しい。


 己だけを守る騎士など、愚かにも程がある。


 ならば、選択肢など皆無。


 住民を救う以外に道は無いのだ。


 遠目からでも薄っすらと青白く見える、世界を隔てる世界樹群。


 あれが壊れたとき、いやがうえにも世界は変わる。






 早馬を放ってから3日。


 さらに、聖都を出立し最寄りの壁に到着するまでに10日。


 なるべく時間を掛けての移動を心掛けたつもりだったが、肝心の避難はまだ完了してはいなかった。


 世界樹が倒れてくるなんてとんでも話が、まともに聞き入れられる訳が無いのは百も承知。


 だからこそ、理由をでっちあげて避難させるよう伝えておいたのだが。


 上手く事は運ばなかったようだ。


 世界樹までの最後の休息地として滞在する間に、住人たちを集め避難を促す。


 壁に駐屯している騎士はもとより、連れてきた騎士たちも総動員して、事に当たらせる。


 滞在できるのは、最長で後1日が限度だろう。


 その間に、全住民を避難させなければならない。


 悠長に説得している段階はとうに過ぎている。


 強硬手段に出るしかないのか。


 人命をこそ最優先し、人心をないがしろにする行為。


 事前に動いていながら、この体たらく。


 情けないことだ。


 が、批判や心労も、命には代えられぬ。


 やるしかない、いや、やるのだ。


 コンコン。


 と、騎士団宿舎の部屋の扉がノックされた。



「入れ」


「失礼します」



 入室してきたのは、予想外の人物。


 何をとち狂ったのか、嬢ちゃんが姿を現した。



「ここで何してやがる! 避難しろと伝えたはずだぞ!」


「だからこそです。団長が出立された後、避難誘導の指揮に当たります」


「ッ⁉ ……ったくよぉ。まぁ、来ちまったものは仕方がねぇか」



 怒りを抑え込む。


 他人を助けに来たのを叱り付けることこそ、恥ずべき行為だろう。



「しかし、世界樹の破壊などと、本当に可能なのですか?」


「どうだかな。だが、荷物も人も、確かにある。伊達や酔狂じゃあねぇはずだ」


「団長は、どう思われますか?」


「正直、失敗して欲しいと思ってるぜ。いたずらに世界に喧嘩を売るような真似が、賢い選択とは思えねぇからな」


「では――」


「だが、オレがやらずとも、誰かが担うだろうさ。それこそ、嬢ちゃんがってこともあり得る」


「まさか、ワタシを庇われて――」


「ハッ、それこそまさかだ。立場を放り出して逃げ出すなんて真似、このオレがするとでも思ってんのか?」


「いえ」



 やれやれだ。


 偉そうなことを言いつつ、後を任せるしかねぇとはな。



「済まんが、住民の避難を頼む。2日以内に騎士も含めて全員、必ずだ」


「……必ずや完遂してみせます」


「もちろん、嬢ちゃんも避難するんだぜ?」


「心得ております……あと、何度も言うようですが、副団長とお呼びください」


「おっと、ついな。そうそう、元副団長も心配してたぜ」


「先輩が?」


「ああ。直接は口にしなかったがな。だからってわけじゃないが、他人のために自分を犠牲にするなんて考えねぇことだ。自分が助かり他人も助ける。これに尽きるからな」


「……逆ではないのですか? 他人を助けて自分も助かる、かと」


「いいや。自分の命を他人に背負わせんな。自分が他人の命を背負うんだよ。それが騎士ってもんだ」


「……習った覚えはありませんが」


「オレなりの心構えってヤツだ。助けるべき相手より先に、死んじまうような無様は晒せねぇさ」


「分かりました。ワタシも心掛けておきます」


「ああ、是非ともそうしてくれ。まずは自分を守ることからな」


「はい」


「この先、何が起こるか予想が付かねぇ。用心を怠るなよ」


「はい」



 娘同然の相手を頼らねばならないとはな。


 いや、情けなく思うよりかは、相手を称えるべきなのか。


 それでも、自戒のために”嬢ちゃん”と呼び習わしてるわけだが。


 まだまだ若い。


 若過ぎる。


 頼る相手ではなく、守る相手として忘れないために。


 その後、細々とした引継ぎを済ませ、翌日には世界樹へと出立した。






長くなったので2話に分割。

そうしたら、こっちがかなり短くなってしまった。



本日はあとSSを1話投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

気に入ってくれた方は『ブックマーク』『評価』『感想』をいただけると嬉しいです

小説家になろう 勝手にランキング

ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ