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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第二章
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65 無職の少年、休日

 いつもどおりに、姉さんと一緒に寝た。


 いつもと違ったのは、少し寝付きが悪かったことだろうか。


 久しぶりに家に帰れる。


 そう思うとやっぱり嬉しくて、寝るまでに時間が掛かってしまった。


 まだここに来て、一ヵ月どころか、半月も経って無いかもだけど。


 体感的には、随分と長く居た気がする。


 過ごした時間よりも、余り成長してないことがショックでもある。


 頑張って、努力して、何度も何度も倒された。


 それでもまだ全然足りやしない。


 このまま続けていけば、いつかは望む強さが得られるのかな。


 期待と、それよりも大きな不安を抱えながら。


 けれども今日だけは、忘れることにしよう。






「忘れ物は無い?」


「大丈夫です」



 いつの間にか増えていた荷物。


 その多くは僕の着替え。


 姉さんが時折、取りに戻っていたみたい。


 頻繁に倒されるので、服もすぐに汚れてしまう。


 戻るついでに、洗濯を済ませておきたいところ。



「結構あるわね。ほら、お姉ちゃんが持ってあげるわ」


「これぐらい、僕でも持てますよ」


「もう。じゃあ、半分こしましょ?」



 これ以上拒否しても、聞き入れては貰えそうにない。


 差し出される手に、気持ち少な目に半分ほどの荷物を手渡す。



「やっぱり、もっと小まめに帰らないと駄目かしらね」


「そうですかね」


「週に一度ぐらいは帰るようにしましょうか」



 確かに、定期的に帰った方が良さそうな気はする。


 洗濯物もそうだけど、家に残した食材だって、放置し続ければ駄目になってしまうわけだし。


 姉さんを先頭に、僕とブラックドッグが続く。



「準備は済んだか」


「ええ。けど明日には戻って来るんだけどね」



 いつも食事やら訓練やらで使う広間には、既にグノーシスさんの姿があった。


 だけではなく、あの茶色い毛玉たちが何体も集っている。



「ノームたちも見送り有難うね。いつか弟君と遊んであげて頂戴」


「んだ」


「だべ」



 えっと……流石に数が多過ぎるかなって思う。


 1体だけで、僕を持ち上げてみせる力持ちみたいだし。


 こちらの身が持たなそう。


 頭上には、フヨフヨと浮いているコロポックルたちの姿もある。



「あ、どうせなら、コロポックルたちも里帰りしとく?」


「構わんぞ。既に大樹はここに無い。居つく理由もとうに失せて久しい」


『ドリアード様のところに帰れるコロ?』


「そうよ。母が言うには、もうここに帰ってこなくてもいいみたい」



 ドクン。


 不意の言葉に、胸が疼く。



『グノーシス様に追い出されるコロ?』


「そういうわけじゃないわ。ここが好きなら、また戻ってくればいいわ」


『なら、仲間に会いに行きたいポー』


『とっても久々ポー』


「明日には戻ってくるから、他の子と交代してもいいかもね」


『ありがとうポー』



 コロポックルたちが、姉さんの周りに集まってくる。


 け、結構居たんだね。



「じゃあ、また明日」


「ああ」



 短い挨拶を済ませると、姉さんが1体のコロポックルを抱える。



ゲート



 空間に歪みが生じ、随分と大所帯になって入っていく。


 間際に振り返ると、毛玉たちが手を振っていた。






 出てきた先は、植物に覆われた空間。


 一瞬、同じ場所かと錯覚する。



「――おかえり。随分と戻るのが早かったのう」


「ただいま。今日一日だけね」


「ただいまです」


『ドリアード様ポー!』


『ただいまポー!』


「――おぉ、皆も共に帰ったか。ゆるりと休むがよい」


「ついでと思って一緒にね。明日また戻るから、他の子を選ぶとかは任せるわ」


「――そうそう、少年よ。スライムが大層寂しがっておったでな。顔を見せてやっておくれ」


「あ、はい。分かりました」


「洗濯はお姉ちゃんがやっておくから、弟君は好きに過ごしなさい」



 言うが早いか、こちらの荷物をさっさと奪い取ってゆく。



「短剣は無くさないようにね」


「はい。洗濯物は力まずお願いします」


「き、気を付けるわ。じゃあ、弟君のことは一旦、ブラックドッグとドリアードに任せるから。お願いね」


「――うむ」


『是非もない』



 颯爽と姉さんの姿が消える。


 もう家に向かってしまったみたいだ。



「――慌ただしいことじゃな。して、成果のほどはどうじゃ?」


「いっぱい倒されてます」


「――カッカッカ。左様か。その割には元気そうじゃな」


「姉さんのお蔭です」


「――これ、ブラックドッグのことを忘れるでないぞ」


「もちろんです」



 普通に会話してるけど、グノーシスさんの所から付いて来た大量のコロポックルに埋もれ気味だ。


 最初、姉さんと一緒にドリアードさんも来ていたから、それほど久々の再会でも無い気がするけど。


 やっぱり、会えるのは嬉しいんだね。



「――そうそう、スライムはその通路の先じゃ」



 緑の群れの中から、腕が伸ばされる。


 指が指し示した先の壁がポッカリと開き、通路が現れていた。


 一度、ドリアードさんに頭を下げてから、ブラックドッグと一緒にそちらへと向かう。






 緑の通路を抜けると、やっぱり緑の空間が広がっている。


 けど、ちょっと見たことの無い感じに変貌を遂げていた。


 つただらけ。


 それも、壁がじゃなく、壁から反対側の壁へと、縄のように幾本も伸びている。


 コロポックルたちがその上を跳ね回っているのだ。


 訳が分からず、しばし茫然と立ち尽くす。



『トモダチ、オヒサ!』



 と、不意に頭上から降ってくる物体。


 慌てて受け止めると、スライムだった。



『オカエリ!』


「ただいま。けど、また明日には出掛けちゃうんだけどね」


『マタ、オデケケ?』


「お出掛け、ね」


『オデカケ』


「そうそれ」


『サビシイ』


「ごめんね。今度からは定期的に戻ってくるよ」


『ツイテク、ダメ?』


「結構危ないからね。ここに居た方が安全だよ」


『トモダチ、キケン?』


「僕は大丈夫。姉さんも一緒だし、心配しないで」



 表面を撫でてあげると、目を細めて気持ち良さそうにしてる。


 改めて周囲を見渡す。



「この部屋、何か凄いね」


『ツクッテ、モラッタ』


「ドリアードさんにってことだよね」



 もう部屋の中って感じじゃない。


 見たこと無いけど、森の中とかはこんな感じなんだろうか。



「そうだ。今日は休みだから、一緒に遊べるよ」


『ナント⁉』


「でも、このつたで遊ぶのは無理そうかも」


『ウエ、ナゲテ』


「? スライムを投げろってこと?」


『トビノル』


「そんなに上手くいくかな?」


『ダイジョブ!』


「……じゃあ、最初は低い位置からね」


『バッチコイ!』


「それ!」



 つたの多そうな場所を目掛けて、スライムを投げる。


 すると、体を広げてつたに纏わり付いてみせた。


 そういうのもアリなんだね。



『投げて欲しいポー』



 その様子を見ていたのか、コロポックルが群がってきた。



「えぇっと、順番にね」



 数が数なので、片手ずつ乗せて投げていく。


 ブラックドッグも手伝ってくれるつもりなのか、鼻先で器用に弾いてみせる。



『新感覚ポー』


『もっとやりたいポー』


『ヨコハイリ、ダメ!』



 なんだか、この賑やかな感じが妙に懐かしい。


 けどこれ、ずっと続けると疲れちゃいそうだな。






 ――それは唐突に起こった。


 浮遊感。


 次いで、世界が激しく揺れる。


 しゃがみ込むこともできず、地面に倒れ込んだ。






さて、2章が本格的に始動します。



本日はあとSSを2話投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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